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女神歴二一九六年、二月中旬。
西大陸を代表する強国、ガルディア公国の首都ガルディアス。
魔導航空機による八時間のフライトを終えたアレンとリィナは、空港の喧騒を抜け、公国が誇る機能美に満ちた街並みへと降り立った。
「懐かしいです……。中等部時代、この通りを何度も歩きました。空気の匂いも、あの頃のまま……」
銀髪を揺らすリィナが、感慨深げに目を細めた。
ガルディアスは、洗練された魔導工学と重厚な古代建築が、奇跡的な均衡で共存する都市だ。
白石の建物が並ぶ大通りには、不純物を排した澄んだ魔力が循環し、静かな活気に満ちている。
二人は空港で手配した無人タクシーに乗り込み、市街地へと滑り出した。
目的地は、アルヴェリア王国でも拠点としていた世界最高級ホテルブランド、『ヴァルシオン・ホテル』のガルディアス店だ。
アレンは高級レザーの座席に深く身体を沈め、窓外を流れる景色を眺めていた。
「……時差のせいか、頭が少しふわふわするな」
「八時間の移動でしたから。まずはホテルで、心ゆくまでお休みになってください」
首都ガルディアスにそびえる一棟の巨城。
フロントを通る際、リィナは迷いのない足取りで手続きを進めた。
迷宮『蒼風峡谷』で得た一〇二億エルという莫大な資産を背景に、彼女は最上階の魔軌士専用フロアにあるスイートルームを、年間契約で一括決済した。
アルヴェリアに続き、ガルディア公国にも「理外の男」の第二の拠点が確立された瞬間だった。
部屋に足を踏み入れると、外界の音を完全に遮断する厚い防魔結界の静寂が二人を包んだ。
アレンは一九二センチの長身をキングサイズのベッドに投げ出す前に、一度だけ立ち止まった。
彼は自身の魔力回路を極限まで研ぎ澄ませ、この部屋の空間的な座標、そして大気に溶け込む魔力波形を、自身の魂へと深く刻み込んでいく。
「……よし。座標登録、完了だ」
「今回も、《空間転移》の起点にするのですね?」
「ああ。これで他国にいても、一瞬でこの場所へ戻ってこられる」
アレンは短く答えると、そのまま吸い込まれるように極上の羽毛の中へと倒れ込んだ。
数時間後。
深い眠りから覚めたアレンは、リィナが淹れた温かい茶を啜りながら、今後の計画について口を開いた。
「で、ルミナが残した最後の一ピース……セリスには、どうやって接触する?」
リィナは手慣れた操作で「アーク・リンク」を操作しながら答えた。
「公式コンタクトは可能です。彼女……セリス・ヴァレンティア様は、世界唯一の誓導者候補育成機関『誓環学院』を首席で卒業した、この国の至宝ですから」
セリスは現在、公女王エリシア付きの特別補佐官という、軍務の中枢を担う重責に就いている。
リィナは、主アレンの波長と一致する唯一の候補者である彼女へ、自身の正体と「ルミナ」の名を記した招待状を綴り、送信ボタンを叩いた。
翌朝、端末に一条の通知が届いた。
セリスからの返信──公務の都合上、会えるのは明後日の夜になるという。
「二日も空くのか。さて、どうするか」
アレンが独り言のように呟くと、リィナは頬を赤らめ、けれど勇気を振り絞るようにして提案した。
「せっかくのガルディアスなんですから……観光しましょう。アレン様、その……」
「……そうだな。わかった。じゃあ、二日間はデートだな」
「デ、デート……!? ……っ、はい……! 喜んで!」
アレンの、無自覚ながらもストレートな言葉に、リィナは顔を真っ赤にしながら全力で頷いた。




