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翌朝。二人は滞在していた王都最高級『ヴァルシオン・ホテル』をチェックアウトし、アルヴェリア王国の玄関口である国際空港へと向かった。
空港のロビーは、洗練された魔導工学と最新の建築技術が融合した、眩いばかりの近未来的な空間だった。自動清掃ロボットが床を滑り、空中に浮かぶホログラムの案内板が絶え間なく情報を更新している。
搭乗ゲートの前で、アレンはふと足を止めた。
「パスポートとか、手続きはどうすればいいんだ?」
かつての故国の記憶が、彼に不必要な確認をさせた。リィナはくすりと笑うと、彼の手元を指差した。
「アーク・リンクをそこにかざすだけですよ、アレン様」
促されるまま、アレンが魔導端末をゲートのセンサーにかざすと、澄んだ認証音が響いた。一瞬にして魔力署名が照合され、出国の手続きが完了する。
「……これ、地球より便利じゃねぇか」
「紛失したら、身分証明も資産管理もすべて止まってしまいますから。便利さと危うさは紙一重なんですよ」
二人が乗り込んだのは、魔導エンジンとジェット噴流を併用する最新鋭のハイブリッド機だった。西の大陸・ガルディア公国までのフライトは約八時間を予定している。
アレンは身体を、ファーストクラスの窓側の座席に沈めた。機体が静かに地上を離れ、加速のGが身体をシートに押し付ける。高度を上げるにつれ、雲海を抜けた先にある太陽の光が、キャビンを白銀の輝きで満たしていった。
「アレン様、少し休んでください。着いたら起こしますから」
隣で微笑むリィナの柔らかな声に、アレンは重くなっていた瞼を閉じた。微かな機体の振動が、心地よい眠気を誘う。
眠りの淵で、アレンは不思議な夢を見た。
それは、セラフィナによって創造された魔術生命体、ルミナの視点だった。
神秘的な「鍵」としての姿ではない。そこにいたのは、短い足で一生懸命に大地を駆け、地図を逆さまに持って途方に暮れる、どこか危なっかしい小さな妖精の姿だった。
ルミナは世界中を駆け回っていた。
ある時は極寒の雪原で吹雪に巻かれながらも、「波長一致者」を探して必死に翼を羽ばたかせ、ある時は候補者を見つけたと思って勢いよく突撃し、そのまま盛大に看板に激突して目を回していた。
(アレン様の……ために……っ)
ボロボロになりながらも、彼女は決して歩みを止めなかった。
主を守り、導くという、一七〇〇年前に託された唯一の使命を果たすために。
そのドジっ子全開の「ほのぼの大冒険」の裏側にある、絶望的なまでの献身と慈愛。
夢の最後、ルミナがこちらを振り返り、何かを言おうと満開の花のような笑顔を向けたところで──。
「アレン様、そろそろ着きますよ」
肩を揺らされ、アレンは意識を覚醒させた。視界に入ったのは、心配そうに自分を覗き込むリィナの淡い青色の瞳だった。
「……ああ。なんか、変な夢を見たな」
「ルミナちゃんの夢、ですか?」
「……なんで分かるんだよ」
アレンが少しだけバツが悪そうに視線を逸らすと、リィナは意味深に微笑んだ。
「アレン様が見るべき夢だったんです。……きっと」
ふと窓の外に目をやると、魔導航空機はすでに下降を開始していた。雲海を抜けた先に広がっていたのは、中央大陸とは異なる、切り立った山々が連なる荒々しくも機能美に満ちた大地──ガルディア公国だった。
そして、都市の中心部。
雲を突き抜けるようにそびえ立つ、巨大な白い塔が視界に飛び込んできた。
「……あれが、誓導者候補を育てる学校か」
「はい。世界で唯一の、誓環学院。……私と、そして“もう一人”が学んだ場所です」
アレンは息を呑み、その白い巨塔を静かに見つめた。
そこには、自分を待ち続けている新たな「運命」の欠片がある。アレンは無意識に、自身の大きな拳を強く握りしめた。




