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アーク・コントラクター  作者: 瑠志彦
第17章:首脳会議

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17-3

バルムート王宮、大講堂。

円卓を囲む十五か国の首脳たちの背後には、それぞれ大陸最高峰の武力を象徴する特級魔軌士たちが、一分の隙もない構えで控えていた。 室内を流れる魔導空調の微かな風すら、彼らが無意識に放射する魔力圧によって物理的な質量を帯び、肌にねっとりと絡みつくような重苦しさを生んでいた。


会議の口火を切ったのは、ヴァルゼン帝国の皇帝ダリオスだった。


「もはや、迷宮資源の平和利用などという綺麗事は通用せぬ」


ダリオスの重厚な声が大講堂の石造りの壁に反響し、居並ぶ首脳たちの心臓を直接叩くように響いた。 漆黒の瞳に宿るのは、絶対的な力による秩序への執着だ。


「深層から産出される高純度魔石を、軍事技術へ完全転用すべきだ。それが帝国の、ひいては大陸の絶対安定に資する唯一の道である」


軍事利用の即時解禁 ── 大陸の勢力図を根底から塗り替えかねないその提案に、各国の首脳たちは一様に顔を曇らせた。


「反対いたしますわ、ダリオス陛下」


凛とした、しかし冷徹なまでの理性を湛えた声が円卓を抜けた。

ガルディア公国の公女王エリシア。 彼女は覇王の放つ威圧の魔力を、洗練された魔力波長で受け流しながら、青い瞳で正面から射抜いた。


「迷宮核への過度な干渉は、予測不能な魔力循環の崩壊を招きかねません。それは大陸全土の破滅を意味しますわ。軍事目的での強引な深層開発は、人類そのものに対する重大な脅威です」


エリシアの理路整然とした反論に、アルヴェリアのレオニス王とサハリスのサイファ王が、慎重に、しかし明確な賛同を示すように頷いた。 二つの異なる正義が、円卓の上で火花を散らす。


「……ふむ。では、ガルディアに問おう」


ダリオスが冷徹な笑みを浮かべ、エリシアの背後に立つ男を指し示した。


「その男 ── アレン・ヴァルグレイという『深層への鍵』を独占しているのは、貴国ではないか? 貴国こそが情報を隠蔽し、深層の資源を他国に先駆けて独占しようとしている。そう疑われても仕方のない振る舞いだ」


会場の視線が一斉に、エリシアの斜め後ろに立つアレンへと注がれた。 各国の王たちの瞳に宿るのは、単一の個体でありながら四十階層の守護獣を屠ったという「異物」への、剥き出しの恐怖と、どす黒い独占欲だ。


アレンはそれら全ての視線を、無機質なノイズとして処理していた。 彼の《魔力直接操作アーケイン・マニピュレーション》は、円卓の空気よりも、王宮の隅々で蠢き始めた不自然な「魔力波長の震え」を鋭敏に捉え、分析の深度を上げていた。


「彼については、あくまで個人の魔軌士としての意思を尊重しておりますわ」


エリシアは表情一つ崩さず、外交官としての完璧なポーカーフェイスで淡々と「事実」を告げた。


「実際、アレン殿が我が国の迷宮『深古水環宮』で公的に到達したのは、二十五階層に過ぎません。それ以上の深層データなど、ガルディアにも存在いたしませんのよ」


会場に大きなどよめきが沸き起こった。 他国の迷宮で四十階層を蹂躙しながら、拠点であるはずのガルディアでは浅層に留まっている。 その「不条理な事実」を逆手に取った見事な外交辞令に、帝国の外交官たちは苦虫を噛み潰したような顔で沈黙した。


(……ええ、事実ですわ。本当に二十五階層までしか行ってくださいませんもの)


エリシアは内心で、深い、あまりに深い溜息を吐き出していた。

(アルヴェリアや帝国には四十階層の魔石を贈ったというのに、私には……私の国には、あの時の一欠片もありませんのね。どれほどガルディアが尽くしていると思っているのかしら……)


胸の奥をチリリと焼くような、形容しがたいジェラシー。 制御不能な「理外」の男への苦笑いと、ほんの少しの未練。 彼女はそれを青い瞳の奥に完全に封じ込め、会議を自身の主導権へと引き戻していった。


「……アレン様。エリシア様、少しお怒りのようですわね」


背後で控えるセリスが、小声で、しかし楽しげに耳打ちした。 彼女の琥珀色の瞳は、エリシアから微かに漏れ出る「嫉妬の色」を含んだ魔力波長を、正確に読み取っていたのだ。 隣に立つリィナも、銀髪を揺らしながら、困ったような、しかしアレンへの独占権を確認したような不思議な微笑を浮かべていた。


アレンは沈黙を保ったまま、周囲一〇〇メートル全方位への《魔力直接操作アーケイン・マニピュレーション》を研ぎ澄ませた。

首脳たちの虚栄心と野心が渦巻く大講堂。 だがその影 ── 昼食会の準備に追われる給仕たちの中に、極めて洗練された術式で自身の気配を「物理的に」希薄化させている数個の影がある。


(ネズミが……這い回り始めたか)


それは、現代魔術のレーダーには決して掛からぬ、冷徹な殺意の胎動であった。 アレンは漆黒の瞳を細め、静かに理の刃を研ぎ澄ませていた。


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