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アーク・コントラクター  作者: 瑠志彦
第3章:常識を壊す初遠征

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3-2

航空機のタラップを降りた瞬間、アレンを待ち受けていたのは、肺の奥まで震わせるような巨大な熱狂と、極彩色の光の奔流だった。


王都アルヴェンの空を埋め尽くすのは、幾千、幾万ものホログラムによる魔導広告だ。虚空に浮遊する巨大なポーションの瓶や、白銀に輝く魔導剣の映像が、夜の帳を塗りつぶさんばかりに明滅している。

一九二センチメートルの巨躯を持つアレンは、無意識に身を縮めるようにして周囲を見渡した。


「……でかいな。それに、人の数が尋常じゃない」


「アルヴェリア王国の心臓部ですから。人口は六億を超えているんですよ」


隣を歩くリィナが、アレンの大きな手を迷いなく引き、誘導する。

彼女の指先から伝わる体温。魔力循環誓約オースによって結ばれた二人の魂は、この雑踏の中でも互いの位置を正確に捉え、静かな安心感を共有していた。


空港から市街地へと直結する「モノレール」に乗り込むと、流線型の車窓からは、雲を突き抜けるような高層ビル群と、青白い火花を散らす巨大な「魔石発電所」が次々と後方へ流れていった。

車内の広告は、その八割が魔軌士向けの重厚な武具や、戦場での生存を謳うサプリメントの宣伝に占められている。穏やかだった世界樹の町とは決定的に異なる、剥き出しの「迷宮経済」の熱気がそこにはあった。


到着した王都の市街地は、鉄と石、そして絶え間ない魔導の光が交錯する大都会だった。

武装した魔軌士たちが、まるで日常の一部であるかのように大通りを闊歩し、街角には魔獣の素材を解体する生臭い風が、微かに、けれど確実に漂っている。


二人が辿り着いたのは、迷宮街の片隅に佇む小さな安宿だった。

「当分は節約しないと、本当に路頭に迷いますからね」

リィナが真顔で釘を刺す。彼女の全貯金を切り崩して手に入れた航空券。今のアレンは、財布の中身は文字通りゼロという「最強のヒモ」状態であった。


狭い客室の中、窓から差し込む二つの月の光が、リィナの白銀の髪を美しく照らす。

誓約の影響だろうか。彼女が近くにいるだけで、アレンの身体は甘やかな温もりを帯び、彼女の規則正しい鼓動が自身のものと錯覚するほどの密度で流れ込んでくる。


翌朝。二人は最低限の装備を整え、街の北側に口を開ける巨大な断崖――迷宮『蒼風峡谷あおかぜきょうこく』へと向かった。

アレンは武器を持たず、リィナもまた機動性を重視した軽装に徹している。アレンの異常な魔力量とリィナの《三重魔導護膜トリプル・アークシェル》があれば、並の鎧などかえって邪魔になるという彼女の冷静な判断だった。


入場ゲートへ向かう道すがら、周囲の魔軌士たちが次々と立ち止まり、アレンへと疑念の眼差しを向けた。

誓約によって活性化したアレンの理外の魔力が、抑えきれずに周囲の大気を震わせていたのだ。


「……アレン様、少し魔力が漏れています。抑えてください」


「そう言われてもな。勝手に出てくるんだ」


「大丈夫です。私が隣にいますから」


リィナがそっとアレンの逞しい腕に触れる。その瞬間、荒ぶりかけていた魔力の奔流が、堰き止められたかのように静かに凪いだ。


やがて、天を圧する断崖の麓に、神話の巨人が開けたような巨大な魔導門が姿を現した。

門の前には、栄光と富を求める数千人の魔軌士たちが、獲物を待つ獣のように殺気立った列を作っている。


入場審査にて、アレンがアーク・リンクを提示する。

受付の職員は、端末に表示された「魔軌補まきほ」という最低ランクの文字と、目の前の男から放たれる圧倒的な魔力圧の乖離に、一瞬だけ怪訝そうに眉を寄せた。

しかし、国際行政機関である魔軌士局の署名に偽りはないと判断し、事務的にゲートを開いた。


「……お二人とも、登録確認。入場どうぞ」


「……あっさりだな」


「魔軌士局に登録さえあれば、迷宮は誰に対しても自由な場所ですから」


重厚な魔導門が、錆びついた咆哮のような音を立てて開く。

その先から吹き抜けてきたのは、大地の深淵が吐き出したような、冷たく湿り気を帯びた「魔力の風」だった。


アレンが一歩、踏み出す。

胸の奥底で、ルミナという温かな核が、迷宮の濃密な魔力に呼応してドクンと激しく脈動した。


「大丈夫です。私がいますから」


銀髪を揺らし、隣で微笑むリィナ。その凛とした瞳に勇気を得て、アレンは光と風が渦巻く、未知なる闇の深淵へとその身を投じた。


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