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アーク・コントラクター  作者: 瑠志彦
第14章:守護者の休息と共鳴の誓い

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古代の石造りと、どこまでも澄んだ清冽な水が支配するガルディア公国の迷宮、『深古水環宮しんこすいかんきゅう』。壁面の水路を流れる絶え間ないせせらぎが、静謐な回廊に規則正しいリズムを刻んでいる。

迷宮内の環境魔力を肌で感じながら、アレンたちは無理のないペースを保ちつつ、二十四階層の安全地帯へと辿り着いていた。


「……ここまで、たった六泊か」


アレンは手元の魔導端末を操作し、表示されるログと日程を照らし合わせ、短く感嘆の息を漏らした。通常の上級魔軌士パーティがこの階層へ到達するには、最短でも十五泊は要するのがこの世界の常識だ。 彼は端末の青白い光を消すと、傍らに立つ二人の誓導者へ視線を向けた。


「間違いなく二人とも強くなってるな。うれしいよ」


アレンは長身を屈め、リィナとセリスの瞳を真っ直ぐに見つめた。信頼を隠さないその言葉に、リィナは銀髪を微かに揺らし、頬を朱に染めながらも凛とした表情で応えた。


「アレン様の魔力循環が、より深く馴染んできたおかげです」


「当然の結果ですわ。質を追求した結果ですもの」


セリスはツンと顔を背けたが、握りしめたレイピアの柄を弾く指先は、隠しきれない歓喜に震えていた。 アレンは二人の成長を「ことわり」の視点から分析し、その魔力波長が以前よりも鋭く、かつ安定した調和を奏でていることを確認して満足げに頷いた。


「今日はここに泊まりましょう。明日、二十五階層のボスを攻略したら帰還です」


翌朝。探索の準備を整えた一行が大回廊へ足を踏み出す。

二十四階層のフィールドは、膝下まで水に浸かる広大な水没回廊となっていた。 静まり返った水面を乱すように、前方から複数の魔力反応が急速に接近してくる。現れたのは、周囲の水を核へと吸い込み、人型へと構成された古代の自律兵器群 ── 『水環の衛兵アクア・ガーディアン』であった。


「セリス、右です」


「わかっていますわ! ──《真空刃ウィンド・スラッシュ》!」


セリスの指先が空中に鋭い幾何学を描いた瞬間、不可視の風刃が水の身体を易々と寸断し、露出した核の魔石を正確に撃ち抜いた。 崩壊した衛兵が飛沫となって散る中、リィナも遅れずに自らの役割を果たす。


「逃がしません。《水鎖縛陣アクア・バインド》!」


足元の水面から噴出した高圧の水の鎖が、後退しようとした衛兵を雁字搦めに拘束する。 そこへセリスが構築した《雷槍ライトニング・ランス》が吸い込まれるように突き刺さり、轟音と共に敵を蒸発させた。


戦闘の余波が収まらぬまま、一行は二十四階層の最奥へと到達した。 巨大な水門が重厚な金属音を立てて開くと、そこには十メートルを超す巨躯を誇る、半透明の『水の巨神』が鎮座していた。


「リィナ、防御の維持を。セリス、一気に畳み掛けてください」


アレンが後方から短く指示を飛ばす。 巨神が咆哮と共に、丸太のような水の拳を振り下ろした。 回廊の空気が圧縮され、凄まじい衝撃がアレンたちを襲う。


パリンッ!


硬質な破砕音が室内に響き渡った。 リィナが展開している《三重魔導護膜トリプル・アーク・シェル》の第一層が火花を散らし、巨神の物理衝撃を完全に死殺させた。膜が砕ける光の粒子を浴びながら、リィナは歯を食いしばり、魔導ロッドを構え直す。


「くっ……重いです! でも、負けません!」


「よく耐えましたわ、リィナ! これで終わりです! ──《閃光砲フラッシュ・キャノン》!」


セリスのレイピアの先から、光と火が高度に圧縮された極大の熱線が放たれた。 至近距離から放たれたその一撃は、巨神の胸部を跡形もなく貫通。 爆発的な熱量が巨神を構成する数トンの水を一瞬で蒸発させ、支配者は断末魔の霧となって回廊へと霧散した。後に残されたのは、魔石発電所の心臓部となる、眩いばかりの高品質魔石であった。


続く二十五階層。 魔物の強度はさらに増し、古代機構によるトラップが複雑に絡み合うが、二人の連携に一点の乱れもない。


「アレン様、前方から多数の反応が来ます!」

「《風裂陣ウィンド・ブレイク》!」

セリスが周囲に展開した多重斬撃が、殺到する魔獣を次々と切り刻む。

リィナが《光矢連射ルミナ・アロー》で撃ち漏らしを精密に仕留めていく。


「……完璧だな」

アレンはポケットに手を突っ込んだまま、一歩も動くことなく後方から二人の背中を見守っていた。

彼女たちの魔力循環は、もはやアレンが介入せずとも自律的に最適化され、特級魔軌士に相応しい「理」の力へと昇華されつつあった。


二十五階層のボスは、古代の重金属と高圧の水が融合した、巨大な蟹型の魔獣であった。その漆黒の装甲は並の中級魔術では傷一つ付かず、周囲の環境魔力を吸い取って自己修復を繰り返す。


「リィナ、足止めを!」


「はい! 最大出力……《水鎖縛陣アクア・バインド》!」


リィナが全魔力を注ぎ込み、床から太い水の杭を噴出させ、巨大な魔獣を地面へと縫い付ける。 装甲が軋む不気味な音が響く中、セリスが最後の一撃を編み上げた。


「とっておきを喰らいなさい! 《嵐雷撃ストーム・ブレイク》!」


セリスの周囲に展開された六属性の術式が、風と雷の複合属性へと収束していく。 指先から放たれた極大の雷撃は、風による超高速回転を伴って蟹の眉間へと直撃した。 轟音と共に硬質な装甲が粉砕され、支配者の巨躯は内側から弾け飛ぶ。


静寂が戻った部屋の中央には、これまでで最大級の品質を誇るボス魔石が転がっていた。

三人はそのまま二十六階層の安全地帯へと足を踏み入れた。 アレンはそこで初めて一歩前へ出ると、その場の空間座標を自らの魔力で固定し、記憶した。


「よし、座標は覚えた。……帰るぞ」


アレンがリィナとセリスの肩にそっと手を置く。


「《空間転移スペース・シフト》」


視界が一瞬で暗転し、次の瞬間には一階層の安全地帯、柔らかな土の感触と冬の湿った空気が三人を迎えた。一週間に及ぶ遠征。 だがその成果は、手元に残された膨大な魔石以上に、二人の誓導者の淡い青色と青色の瞳に宿る、揺るぎない自信となって現れていた。


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