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二一九七年一月十二日。
宮殿別邸での新生活が始まり、物資を整えるためにアレンたちは首都ガルディアスの中心街へと繰り出していた。冬の午後の柔らかな陽光が石畳を照らし、行き交う人々や電動無人タクシーの走行音が、適度な活気を街に与えている。
「そういえば、二人用の共鳴指輪を作らないとな」
ふと目に留まったジュエリーショップを前にアレンが何気なく口にすると、隣を歩いていたリィナとセリスの瞳が同時に輝いた。
共鳴指輪 ── アレンが自作するそれは、魔力を通すことで登録した相手の指輪を光らせ、物理的な距離や遮蔽を超えて緊急事態を知らせるための魔導装備だ。 すでに公女王エリシアには贈られているが、最も近くにいる誓導者二人には、まだ適切な「依代」となる指輪を渡せていなかった。
「せっかくだ。良いものを買おう」
アレンの一言に、セリスが即座に反応した。
「……でしたらアレンさん、あちらに良い店がありますわ」
彼女はアレンの腕を半ば強引に引き、元々入ろうとしていた店とは正反対の方向へ歩き出した。 案内されたのは、外観からして周囲とは格の違う風格を漂わせる高級店だった。アレンは「いかにも高そうだな」と内心で呟きながらも、二人の嬉しそうな様子に抗うことなく店内に足を踏み入れた。
店内には眩いばかりの照明の下、数々の魔導具や宝石が陳列されていた。リィナは落ち着いた足取りで店員を呼び、凛とした声で注文を伝えた。
「石が埋没型のリングを見せていただけますか?」
戦闘時の動きを阻害せず、かつ日常的に身につけられるデザイン。コーナーへ案内されると、二人はそれまで見たこともないほど真剣な表情でリングを選び始めた。
「こちらのほうが魔力伝導率が高いですわ。機能性を考えれば、これ一択です」
セリスは宝石の美しさよりも、誓導者としての実用性を重視し、魔力効率の数値を厳しくチェックする。 一方のリィナは、シンプルながらも愛らしい装飾が施された一点を手に取り、淡い青色の瞳を和ませた。
「でもアレン様、こっちのデザインのほうが可愛いです。お揃い感もありますし……」
「こっちがいいですわ」「でも、これも捨てがたいです」
あぁでもない、こうでもないと議論が続く。アレンは二人の背中を見守りながら、数秒の沈黙を選んだ。 普段の迷宮攻略における完璧な連携はどこへ行ったのかと分析しつつ、女性特有の買い物における熱量に、ただ圧倒されるしかなかった。
「……お客様。こちらは婚約指輪でしょうか?」
見かねた店員が、少し困惑した様子のアレンにそっと尋ねた。
「違う、違う。魔道具用だ」
アレンが慌てて否定するが、横にいたセリスが平然と言い放った。
「違いますけれど、まあ似たようなものですわ」
「アレンさんの大事な人ですから。間違いではありませんね」
リィナも柔らかく微笑んで頷く。
誓導者という関係は、この世界において「婚姻と同格」の社会的重みを持つ。 彼女たちにとって指輪を選ぶという行為は、単なる装備の新調以上の意味を含んでいることを、アレンは改めて突きつけられた。二人の満足げな、しかしどこか挑戦的な視線に、アレンは絶句するしかなかった。
ようやく二人の意見が一致し、一組のリングが決まった。だが、提示された代金を見た瞬間、アレンの頬が微かに引き攣った。
「……え、桁。これ、桁が間違ってないか?」
「アレン様、こういうものは『質』が大事なんですのよ。一生ものですわ」
セリスが当然のように胸を張る。
「アレン様の強大な魔力に耐えられる素材じゃないと、すぐに壊れてしまいますから」
リィナの納得させるような眼差しを受け、アレンは自分の指に嵌まっている指輪を見つめた。 (……俺の魔力のせいか。陛下に贈った指輪も、これくらいの値段だったんだろうか……)
素材そのものが超一級品である以上、この価格は妥当なのだと分析を終え、アレンは溜息を吐きながらアーク・リンクで決済を済ませた。 三兆エルを超える資産を持つ彼にとって、支払えない額ではない。何より、二人の笑顔にはそれ以上の価値があるのだと、アレンは自分を納得させた。
「大切にしますね、アレン様」
「ええ、大切に致しますわ」
新しい指輪を嵌めた二人の手が、冬の陽光を受けて眩しく輝いていた。二一九七年一月、守護者としての新たな絆が、その指先に刻まれた瞬間であった。




