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誰にも媚びない孤高のS級ヒロインが、最近なぜか俺にだけ優しいのだが ~ドS級美少女の瑛理子先輩は、俺が好きすぎてデレを隠し切れない~  作者: みなもと十華@書籍&コミック発売中
第2章 瑛理子先輩は俺にだけ優しい

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第56話 夏祭りの夜

 八月も中旬に入ると、窓の外で鳴く蝉の声が騒がしくなった。さしずめ大合唱というところか。

 少し前までは、猛暑の影響なのか蝉が少なかったのに。


「いかにも夏って感じだな。まあ、部屋の中はエアコンで涼しいけど」


 俺は窓から外の景色を眺め、そんな感想をつぶやいた。

 夏合宿が終わってからは、宿題や小説の執筆で、ずっと部屋にこもりっぱなしだったからな。


「たまには何処かに遊びに行きたいような……。何年も地中で過ごした蝉は、たった二週間で一生を終えてしまうというのに」


 バタンッ!


 俺が蝉と自分を重ね感傷に浸っていると、いつものように姉が突撃してきた。

 まるで蝉を捕まえにきた子供みたいだ。


「こらぁ、俊! あんたのせいで私が百合堕ちの危機なんだからね!」


 部屋に入るなり意味不明な発言の凛。今日も通常運行だ。


「姉ちゃん、相変わらず人生楽しそうだな」

「ちょっと! 私を何だと思ってるのよ! そんな能天気キャラみたいに!」


 能天気キャラじゃなかったのか。


「姉ちゃんが百合堕ちするわけないだろ。弟に電気あんまするのが趣味なのに」

「それは俊にしかしないわよ!」


 当たり前だ。同級生男子にしたらドン引きだぞ。


「姉ちゃん、最近ちょっと変だぞ」

「誰のせいよ!」

「誰だよ」

「あんたに決まってるでしょ! 俊のせいで、私が○○○白玉あんみつの危機なんだからね!」


 今、卑猥《ひわい》なワードが聞こえた気がするのだが。

 いや、聞き違いかな。きっと小豆白玉あんみつと言ったはずだ。


「何で真美を振ったのよ!」

「えっ」


 突然、真美さんとのことを聞かれ、俺は固まってしまった。

 真美さんから聞いたのだろうか。


 真美さん……。俺……が振ったことになるのか。憧れの真美さんを。


「それは……まだ決められなくて……」

「あんた、ずっと真美さん真美さん言ってたじゃない」

「そうなんだけど。そんな簡単なことじゃなくて」


 俺はどうしちゃったんだ。あんなに真美さんと付き合いたかったのに。ずっと憧れの女性だったのに。

 でも、どうしても瑛理子先輩を放っておけなくて。

 そのせいで真美さんを傷つけて…………。


 恋がこんなに苦しいなんて知らなかった――


 その想いが『恋』と自覚して、自分でも驚いてしまう。そうだ、俺は二人に恋してしまったんだ。


「もうっ! いくら親友でも、真美の尻餅や腋パイはキツいんだって!」


 だから、人がせっかく感傷に浸っているのに、何で凛は意味不明なワードをブッ込んでくるんだ。


「あんたが真美の尻や腋を受けなさいよ!」

「姉ちゃん、いきなり下品なこと言わんでくれ。真美さんは清純派なんだぞ」

「はあぁああ?」

「そ、そりゃ、たまにドSっぽく感じる時はあるけどさ。でも清純派なのは間違いない」

「ああぁ、この愚弟はぁ! 何で分からないかなぁ!」


 凛がグイッと体を寄せてきて、俺の眼前に整った顔がアップになる。

 弟の俺が言うのもなんだが、改めて眺めても美人顔だ。


「くっそ、我が姉ながら、何でこんなに美人なんだよ……」

「えっ♡ ちょ、ちょっと♡」


 凛が顔を赤らめて俺を見つめる。

 何故そこで照れる!? 気まずいのだが。


「じゃ、じゃあさ、俊が私と付き合う……とか?」

「は?」


 おいおい、凛は何を言い出しているんだ。


「姉ちゃん、さすがに冗談が過ぎるって。近親はヤバい」

「じょ、じょじょ、冗談に決まってるでしょ! なに本気にしてんのよ! ばーか、ばーか!」


 ドタンバタン!


 慌てた凛は、アチコチに体をぶつけながら部屋を出て行った。一体何をしに来たのやら。



「さて、どうしたものか」


 ピンコーン!


 何かしようかと席を立ったその時、スマホから着信音が鳴った。

 すぐに俺はスマホ画面をのぞき込む。


【今日は夏祭りがあるそうね。一緒にどうかしら?】


 ん!? 瑛理子先輩からメッセージなのだが!

 これは何だ? 何で瑛理子先輩からデートのお誘いが?


「えっと…………大事件だよ!」

 ガンッ!


 あまりの驚きに、机の角に足の小指をぶつけた。


「痛っ! いった! いたたたたっ!」


 足を押さえながら、どう返信しようかと考えていたら、瑛理子先輩から追いメッセージが来た。


【か、勘違いしないでよね! ラブコメのネタで必要なのよ!】

【お祭りデートの経験がしてみたいの!】

【取材よ! 取材!】


 くぅ……瑛理子先輩がツンデレヒロインになっているのだが!


「ど、どどど、どうしよう? これってデートだよな? お、落ち着け。いつもポンコツで挙動不審な瑛理子先輩のことだ、本当に取材という線もある……」


 猫みたいに気まぐれで女王のようにクールな瑛理子先輩のことだ。誤解してはいけない。

 でも、先輩からデートに誘われるのは嬉しい。


 ピンコーン!


 迷っていたら、また追いメッセだ。


【どうして既読スルーするの! 私、何かしたかしら?】

【ねえ、どうしちゃったの?】

【嘘つき! 永遠に一緒って言ってくれたじゃない!】


 今度は、思い切りメンヘラヒロインみたいになってしまった。


「えっ、これどうしたら? 迷っている内に瑛理子先輩が壊れ始めたのだが!」


 ピロロピロロピロロ――


「うわぁあっ! 遂に電話が掛かってきた!」


 俺は恐る恐るスマホ画面をタップした。

 ピッ!


「はい」

『ちょっと、俊君! どういうことよ! 私がメッセージ送ってるのに酷いじゃない! 勇気を振り絞って送ったのに!』


 やっぱり先輩がメンヘラヒロインっぽい。


「ご、誤解です! 足の小指を角にぶつけましてですね――」

『私とは行きたくないって言いたいの! 望月さんと行くのかしら? そういえばキスしたって言ってたわよね! キスしたの!? 寝たの!? 振ったって聞いたはずだけど! やっぱり付き合ってるのかしら!? どういうことよ! もうっ! もうもうっ!』


 瑛理子先輩の暴走が止まらない!

 とにかく説得だ!



「という訳でして……返信の言葉を考えていてですね……」

『うん……』


 何度か説明したら、やっと瑛理子先輩が落ち着いた。

 本当にこの人は極端というか何というか。


『そ、その……わ、悪かったわね。取り乱して……』

「いえ、メンヘラヒロインみたいで可愛かったですし」

『うくぅ~』

「どうかしましたか?」

『わ、忘れなさい! 一時間前からの記憶を全て消去するのよ!』

「そんなの無理ですって!」


 前にもこういうのあったのな。懐かしい。


「ふふっ」

『こらぁ! 何で笑うのよ! もうっ、あなたの前だと恥ばかりかいちゃってるわ!』

「笑ってないですよ。思い出していただけで」

『あっ……うくぅうう~っ♡』


 また瑛理子先輩が挙動不審になった。


『そ、それでどうなのよ? 行くの? 行かないの?』

「行きたいです。俺も取材したかったので。やっぱりラブコメには夏祭りが付き物ですよね」

『もうっ! せっかく私が誘ってるのに、取材とか酷いわ!』

「えっ、先輩が取材って……」

『そ、そうだったわね。しゅ、取材よ』

「どっちですか?」

『うるさいわね! どっちでも良いでしょ! とにかく午後六時に駅前に集合! 分かったわね!』


 そんなこんなで、俺と瑛理子先輩のデー……夏祭り取材が決定した。



 ◆ ◇ ◆



 五時半になり、俺は家を出ようとしていた。


「よし、準備は万端のはず」


 服は余所行き用のに着替えたし、身だしなみも整えた。デート……かどうかは分からないが、これで瑛理子先輩と並んで歩けるはず。


 そうは言ったものの、あの超絶美少女の瑛理子先輩と並び立つには自信がないが。


「じゃじゃーん!」


 家を出ようとした時だった。浴衣姿になった凛が、はしゃぎながら現れた。


「どうどう? たまには浴衣も良いでしょ。惚れ直したかぁ~」


 惚れ直すとか意味不明だが、客観的に見ても美人だろう。男子に人気なのも頷ける。

 それより疑問なのを聞かねばなるまい。


「姉ちゃん、何で浴衣を着てるんだ?」

「そりゃ祭りでしょ。真美から一緒に行こうって連絡きてね」

「ん?」

「それよりどうよ。可愛いっしょ。お姉ちゃんのこと、好きになっちゃった?」


 まさかな。偶然だよな。


「こら、俊! 女の子が浴衣着てるんだから褒めなさいよ!」

「はいはい、綺麗綺麗」


 適当に凛を褒め、俺は首をかしげながら玄関を出た。たぶん偶然だと考えながら。



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