第46話 変な声を出さないでください
水着の上に服を重ね準備を整えると、別荘の横にある道を下りてビーチへと歩く。
海が近くて完璧なロケーションだ。
ただ、メアリー先輩がビキニ姿のままなのだが。
「メアリー先輩、それ逮捕されたりしないですかね?」
数分で海に出るとはいえ、水着姿で歩くとか大丈夫なのだろうか。
しかしメアリー先輩は動じない。
「大丈夫さ。ほら、あたしが水着だと違和感ないだろ」
ニカッと良い笑顔のメアリー先輩が、グッと腕でポーズをとる。
メアリー先輩が力説するように、確かに街にビキニ姿が溶け込んでいる。まるで欧米のビーチリゾートのように。
「うーむ、確かに金髪美女がビキニ姿になってるのは自然なような? これがメアリー先輩マジックか」
「だろぉ♡ ほれほれぇ、Tバックにしちゃうぞ♡」
「や、やめてください」
メアリー先輩がビキニを尻に食い込ませようとしたので、慌てて彼女の手を掴んで止めた。
「ちょ、見せるな!」
「見たいくせにぃ♡」
メアリー先輩がイタズラな顔になる。俺に尻を見せようとして。
水泳で鍛え抜かれたデカい尻が、黒い柄のビキニによく似合っている。凄まじい破壊力だ。
「見える、見えるって!」
「見せてるんだよ♡」
「先輩は恥じらいが無いんですか!」
「失礼なぁ、あたしだって恥じらいはあるんだぞ。でも俊にはあたしの全てを見せたいんだよぉ」
「見せなくていいから! だから見えちゃうって」
俺は必死にメアリー先輩のデカ尻に覆いかぶさって、周囲から見えないようにする。こんなの誰かに見られたら問題だ。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
誰かじゃなく瑛理子先輩に見られていた。
後ろに立っていた瑛理子先輩から、途轍もない殺気のようなものを感じるのだ。
「ひぃ! え、瑛理子先輩、これはですね……」
「むぅううっ! そこ、イチャイチャしない! 大崎君、あなたねえ」
瑛理子先輩は、俺に人差し指をビシッと突き付ける。
死刑宣告かな?
「これは違うんです。周囲から見えないように隠してですね……」
「もうっ! もうもうっ! 黒森さんばかりズルいわ」
何がズルいのか分からないが、瑛理子先輩の機嫌が悪化の一途だ。到着した時は良い感じだったのに。
「てへっ♡」
肝心のメアリー先輩は反省していない。可愛く舌を出しておどけている。
「くっそ、メアリー先輩のせいで俺がドスケベみたいな印象に」
「ぬっへへぇ♡」
いつかこの先輩の尻を張り飛ばしてやりたい。
まあ、反撃されてデカ尻に敷かれそうだが。
「はぁ……」
俺たちを見つめていた操ちゃんが、大きな溜め息を吐いた。
「何で私は生徒のイチャイチャを見せつけられているのだ。ただでさえストレスや性欲が溜まってるのに、ガキ共のエロ行為を見せつけられるとか最悪だ」
操ちゃんから本音が漏れまくっている。この先生、大丈夫なのだろうか。
いつか溜まりに溜まった性欲が爆発するのでは。もう事案を起こさないように祈るしかない。
◆ ◇ ◆
ビーチに到着した俺は、砂浜にパラソルを刺し、シートを敷いて荷物を置いた。
潮の香りが鼻をくすぐり、照り付ける夏の太陽が肌を刺激する。普段はインドア派の俺には、なんとも新鮮な感覚だ。
「いえぇーい! 海だぁああ!」
「うわーい! 海ッスよぉ!」
メアリー先輩と雅先輩が、海に向かって一目散に走っていった。子供かな?
「私はここで荷物番をしてるぞ。お前ら危ないことはするなよ」
操ちゃんはパラソルの下に腰を下ろし、どうやら留守番に徹するらしい。
「先生、やっぱり日焼けは天敵ですよね」
「おいこら大崎、私がアラサーだから言ってるのか?」
「め、滅相も無い」
操ちゃんの視線が怖いので顔を逸らす。
「設置も完了したし、これで一段落か」
腕で汗を拭いながら顔を上げると、パーカー姿の瑛理子先輩が視界に入った。
「瑛理子先輩、それ暑くないですか? 脱いで海に行った方が」
「うううっ♡」
瑛理子先輩はパーカーの裾を掴んだまま、モジモジと体をくねらせる。
この人、たまに可愛い仕草をするよな。
「は、恥ずかしいのよ……」
「えっ?」
今、瑛理子先輩の口から変な言葉が出た気がする。
「瑛理子先輩、変な物でも食べましたか?」
「食べてないわよ! 水着姿を見せるのが恥ずかしいの!」
「男の顔を足で踏んだりパンチラを見せつける女王が、水着を恥ずかしがるだと?」
変だな。この清純派っぽい美少女は、本当のあのポンコツ女王なのか?
「むぐぅ、後で覚えときなさい……」
「ひぃいいっ!」
モジモジしていた瑛理子先輩だが、急に女王然とした表情になった。可愛かったり怖かったり忙しい人だ。
「変なこと言ってないで早く脱いでください」
「うくぅ♡ 私に服を脱げだなんて、大崎君って大胆よね」
「変な意味じゃないですよ。海ですよ」
ファサッ!
しばらく躊躇していた瑛理子先輩だが、やっとパーカーを脱いで水着姿になった。
「こ、これで満足かしら♡」
瑛理子先輩の水着姿は輝いていた。
白く艶めかしい肌に白いビキニが似合っている。ところどころフリルが付いていて可愛らしい。
スレンダーだと思っていたけど、脱ぐと意外に出るとこは出ているというか……。まさに均整の取れた完璧なプロポーションだ。
特筆すべきは、長く美しい曲線を描く脚だろう。スリムなのに意外と肉付きが良く、思わず見惚れるほどにエロい。
これは国宝ものだ。
「ごくりっ、瑛理子先輩……綺麗だ」
「んっんんぅ♡」
ぼふっ――
瑛理子先輩の顔が、恥じらうように赤く染まっていく。いや、顔だけじゃない。首筋から胸元にかけても、すっかり赤く染まっている。
「あ、あなた、それ無意識なの! 急にそういうの禁止よ!」
「えっ、俺は思ったことを言っただけなのに」
「もうっ♡ もうもうっ♡」
真っ赤になって両手をブンブン振っている瑛理子先輩が可愛い。
「でも意外ですね」
「えっ?」
「瑛理子先輩だから、きっと黒いボンテージ風の女王様水着だと思ってました……って、あれ?」
ズゥウウウウウウゥーン!
瑛理子先輩の威圧感が急上昇だ。もうオヤクソクかもしれない。
「大崎君、踏まれたいのかしら?」
「じょ、冗談ですよ! 先輩はどんな水着でも似合います!」
「本当かしら?」
「本当です。その白い水着姿も、天使みたいに可愛いです」
「んんぅ~ん♡」
また瑛理子先輩が挙動不審になった。
おかしい。出会った頃は、俺が『可愛い』と言っても、眉一つ動かさなかったのに。
「も、もうっ♡」
「ほら、早く海に入りましょう」
「待って。まだ背中や脚に日焼け止めを塗ってないのよ」
瑛理子先輩は腕を背中に回し、ぎこちなく日焼け止めを塗ろうとしている。
その不器用そうな仕草が、思わず手を貸したくなるほどだ。
「瑛理子先輩、手伝いましょうか?」
「きゃっ♡」
何故か胸を隠す瑛理子先輩。
「だから背中を塗りましょうかって言ったのですが」
「へ、変な意味じゃないのよね?」
「変な意味って何ですか?」
「な、何でもないわ♡」
瑛理子先輩は操ちゃんに一瞬だけ視線を向け、躊躇いがちにうつ伏せになった。
俺は日焼け止めを手に取ると、瑛理子先輩の背中へと腕を伸ばす。
「じゃあ塗りますね」
「え、ええ♡」
ピトッ!
「んんっ♡」
瑛理子先輩の体がピクっとなって、変な声が漏れた。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ、何ともないわ。ちょっと冷たかっただけよ」
大丈夫そうなので、背中に置いた日焼け止めクリームを延ばしていく。白く艶やかな柔肌に。
にゅるっ! ぬちゃ!
「んんっ♡ あっ♡ んぁあっ♡」
「せ、先輩、変な声を出さないでください」
「だ、出してっ♡ ないわ♡ あっ♡」
出してるのだが。めちゃくちゃエッチな声が出ているのだが。
これじゃ俺が変なことしているみたいじゃないか。
ぬりぬりぬりぬりぬり!
俺の手が瑛理子先輩の脇腹に入ったところだった。
「んぁあああぁん♡」
瑛理子先輩は足をバタつかせ、思わず色っぽい声を上げた。
「えっと、瑛理子先輩?」
「はぁ♡ はぁ♡ はぁ♡ だ、だいじょ……ぶ……」
「そうですか。じゃあ脚も塗りますね」
瑛理子先輩に返事はなく、荒い息に合わせて胸を上下させている。
「では」
腕を太ももに伸ばしたところで気づいた。瑛理子先輩の魅惑の脚に触れてよいのかと。
えっ? 先輩の太ももに塗るのか? このエッチで官能的な脚に? めっちゃエッチなのだが?
そもそもこれ、どこまで塗るんだ? 太ももの付け根なのか? 何処までが太ももで、何処からが危険な場所なんだ?
ええぇーい! もう進むしかない!
俺は日焼け止めクリームを乗せた手を伸ばした。
ピトッ! にゅるにゅる!
「んんんっ~ん♡ んっ♡ あぅ♡ んくぅ~ん♡」
瑛理子先輩の体が小刻みに震えている。ときおりビクッビクッと痙攣するように。
くすぐったいのだろうか?
「んっ♡ んぁ♡ んんっ♡ うくぅ~♡」
「くすぐったいですか?」
「んぐぅ♡ ううぅ~」
「あと少しで終わりますから」
早く終わらせねば。何か瑛理子先輩が我慢しているみたいだし。なるべく手早く終わらせよう。
俺は指先を駆使して、瑛理子先輩の美脚に日焼け止めを塗り込んでいった。




