第43話 大崎凛の悶々3
どうも、私立丸木戸学園の四大S級女子、気さくなお姉さん系担当、大崎凛です。
えっ、いつもと違ってテンション低いって?
そりゃ真美と万里小路さんのバトルに巻き込まれて、毎回毎回被害を被っているんだから、さすがの私もこうなるって。
先日なんて、真美の『腋飯』と『尻クリームコロッケ』をお腹いっぱい食べさせられたんだからね!
彼女の腋汗や尻汗が染み込んだ料理を食べさせられる身にもなってよ!
いくら親友でも、汗入りは食べられないっての! これユリじゃなくムリだから!
そんな私は今、喫茶店で真美の相談に乗っていることろなの。
「ぐすっ、どうしよう凛ちゃん。わた、私……」
大粒の涙を湛えた真美は、息を呑むほどに美しい。女の私が見ても恋に落ちそうなくらい。
「どうしたのよ真美、さっきから落ち込んでるけど」
「だって……だって……わ、私、俊くんにとんでもないことを……」
さっきから真美の話が要領を得ない。
「どうしたの、聞かせてよ真美?」
「そ、それが……」
真美が身をよじる。恥ずかしそうにモジモジと。
「き、きき、キス……しちゃった♡」
「なんですと!」
真美、ついに弟に手を出してしまったのかい。
何だろう、凄くモヤモヤする。
「それから……お尻で半殺しに……しようとして」
「は?」
「俊くんにお仕置き顔面騎乗を」
「ブッファアアッ!」
思わず私は飲んでいたアイスコーヒーを吹いてしまった。
ががが、顔面騎乗だとぉおお!
何だそれ何だそれ! 変態か!?
「あっ、顔面騎乗しようとしただけで、お尻を顔にめり込ませていないから安心して」
安心できねーよ!
マイフレンド真美さんや、何でキミはそんなに変態なんだい?
「そ、それでね、舌を絡ませる大人のキスをしたんだけど、俊くんが恐怖で動かなくなっちゃったの」
「は?」
展開が飛びすぎていて理解が追い付かないぞ。
「私も怖くなっちゃって、そのまま逃げちゃって」
「えっと……」
ファーストキスで、いきなりディープな舌絡ませだと!? 何で顔面騎乗からディープキスに? Why?
「待って待って! いきなり舌を絡めたの?」
私は真美の肩を掴んで揺すった。
しかし真美は妖しい目を光らせる。
「うん♡ しゅ、俊くんに、舌を出すように命令してね♡ わ、私、従順な俊くんにゾクゾクしちゃって♡ それで、舌をチロチロ絡めるようにぃ♡ きゃ♡」
真美は頬を赤らめながら話し続ける。
それホントに悩んでるの? 自慢? 自慢なのか?
「で、でもね……それで俊くんが固まっちゃって。私、いきなり襲うようなことして、俊くんを怖がらせちゃったのかなって……。どうしよう……」
今度は一転、絶望的な表情になる真美。両手で顔を押さえてガタガタと震え始めた。
「ああぁ、それやっちゃったかも。きっと俊、引いてるよね」
あれっ? 私の口から思ってもみない言葉が?
これは嫉妬なのか?
私の俊が取られたと感じたら、無性に真美が羨ましくなっちゃって。何で真美は私から弟を奪おうとするんだって。
「凛ちゃん……どうしよう。私、どうしたらいいの?」
真美が私を見つめる。涙に濡れた瞳が煌めき、吸い込まれそうな美しさだ。
ごめん、真美。私、イジワルしちゃった。
俊を取られるって思ったら、頭の中がモヤモヤして。
真美は純粋に俊が好きだけなのに。
「えっと、ちゃんと話せば良いんじゃないかな。告白して、付き合おうって」
「そんなの無理だよ」
真美の目から光が消えた。まるでハイライト無し目のように。
「だって、俊くんは万里小路さんが好きみたいだから……。私が告白しても振られちゃうよ」
「そんなこと――」
「あるよ!」
真美の声が大きくなり、私の声を遮った。
「ホントはね、分かってたの。体育祭の借り物競争……あれって告白イベントなんだよね。俊くんが私のところに来てくれるかもって、ちょっとだけ期待してたんだ。でも、俊くんが向かった先は万里小路さんだった……」
真美が絶望的な表情になる。
「もう……ダメなのかな。先日のキスで、俊くんに嫌われちゃったかも」
「そんなことない!」
「凛ちゃん」
思わず私は真美を抱きしめた。
いつも迷惑かけられたり、変な料理を食べさせられたりと困った子だけど、本当はとても良い子なんだよ。
やっぱり真美を応援したい。
「真美だって負けてないって。確かに万里小路さんは強敵だよ。めっちゃ可愛いし、所作も綺麗だし、それでいて意外と初々しいし。でも真美だって可愛いから」
「り、凛ちゃん?」
「もっと自信を持って! 真美はモテるんだから。俊だって真美のこと好きなはずだよ。押せばイケるって」
私の言葉で真美の瞳に光が戻ってきた。
「そ、そうだよね♡ 押せばイケるよね♡ 俊くんってMっぽいし♡」
「そうそう」
「もっともっと押しちゃおうかな♡ 『地獄の尻車』とか『ぱいぱいタイフーン』とか♡」
真美の口から変な必殺技が出てきて、私の思考が一瞬だけフリーズした。
「凛ちゃんも協力してね♡ 今度○○○白玉あんみつとか♡ 試食お願い♡」
「は?」
それ、私が試食しないとダメなやつ?
私は言ったそばから後悔していた。真美がド変態すぎて。
やっぱり万里小路さんを応援しようかな?
「あ、あははぁ……、か、考えとくね」
「凛ちゃん、お願い」
「えっと……」
「お願い」
「は、はい……」
真美の目が怖くて頷いてしまった。
くっそ、愚弟め! 何であんたはド変態女子にばかりモテるのよ! 私の身にもなってみなさいって!
こうして私は、今しばらく真美の変態レシピに付き合う羽目になってしまったのだ。
◆ ◇ ◆
帰宅した私は、憂さ晴らし目的に弟の部屋を強襲する。もういつもの日課だ。
「ごらぁ、愚弟! 私に電気あんまさせろぉおお!」
勢いよく部屋のドアを開けた私に、俊は溜め息混じりのジト目を向ける。
「はぁ、姉ちゃん。ドアを開けるときはノックしろって言っただろ。俺がアレの最中だったらどうするんだよ!?」
「そりゃガン見するに決まってるだろ」
当然だ。弟の色事は私のもの。私の色事は私のもの。
強烈な独占欲が湧き起こった私は、俊に掴みかかる。
「ほらほらぁ! お姉ちゃんのお仕置きタイムだぞぉ!」
「やめろぉ! このエロ姉め!」
ああ、私の俊に真美がキスしたんだと思うと、無性に腹が立ってくる。俊は私のモノなんだよ。でもブラコンじゃないからな。
「ほぉら、お姉ちゃんがキスしちゃうぞぉ」
「やぁ~めぇ~ろぉ~」
ふざけてキスしようとする私を、俊は必死に止めている。ドMっぽい顔しやがって。
こんなの止められないだろ。
ガタッ!
「きゃっ」
「あっ」
ぶちゅ~!
ベッドの上で両手四つになっていた私たちだったけど、体勢を崩して折り重なるように倒れてしまった。
口と口を密着させたまま。
「ちょ、な、なな、なにしやがるアホ姉! 姉弟でキスとか!」
文句を言いながら口を拭う俊。だけど、私はそれどころじゃない。
「あっ♡ え、えと♡ わ、わざとじゃなくて♡ えっ? あれっ? 今のって…………」
頭がショートしたみたいにグチャグチャだ。
「きゃあぁああああ! 私のファーストキスを返せぇええ!」
「お前からキスしてきたんだろうが! このアホ姉ぇ!」
「いやぁああああぁん♡ バカ! バカバカバカ! 私のはじめてがぁああ! もう知らない!」
一瞬だけ禁忌の扉が開きそうになる私。でもブラコンじゃないからな。




