134 捕虜交換
バーミリオンも窓の外の雪を見ていた。
捕虜交換ということで集められた全員が見ている。
「この時期に雪などありえない」
この地域に詳しい一人が声を出したが、傷にさわって痛みに呻いている。
捕虜の多くは傷を負っている。無傷は、停戦の特使として来たバーミリオンと随行員のみだけだろう。
バーミリオンとゾーテックは、他の随行員の指示の元でケガ人の看護をしていた。
捕虜交換といっても、それはいつになるかわからない。
医師は自国の兵の治療で手いっぱいで捕虜にまで診察はできないが、衛兵が医療品をもって捕虜の治療をしてくれていた。
ユークリッドの指示というそれに、バーミリオンは大きな衝撃を受けたのだ。
兵の多くは平民で、しかも敵国の兵である。もし、バーミリオンの父である王が指揮をしていたなら、捕虜の治療などしないだろう。
痛みに苦しむ兵は赤い血を流し、どこが貴族と違うというのだろうか。
戦争のための情報をすすんで提供したバーミリオンにとって、実際に見た戦場の悲惨さは壮絶であった。
ナーディアを大切にしないで、他の女性に気持ちを動かしたことを後悔した。
ナーディアを取り戻しさえすれば、全てが戻ると思った時もあった。
それが、どれほど傲慢で恥知らずな事か、今になってわかる。
雪を見て思う。
あれは、竜神の力かもしれない。
処刑場で現れた竜神は、ほんとにトレファン侯爵の頭上だったか?
そこにいたのは、ナーディアだ。
ナーディアを群衆から守る為に、トレファン侯爵が声をあげたと考えると辻褄があう。
もし竜神がトレファン侯爵を加護しているなら、戦争はもっと早く圧倒的に終わっていただろう。
今になって竜神の力がみれるのは、昨日来たというトレファン侯爵の婚約者ヴィスタル侯女、きっとナーディアも一緒に来ているからだろう。
ナーディアこそが、竜神の加護を得ているのだと思う。
こんな僕だけど、君を想うことを許してほしい。
「殿下?」
ゾ―テックが手の止まったバーミリオンを見る。
「もう、殿下ではない。雪を見てたのだ」
バーミリオンは兵の傷に包帯を巻く。
「あの雪を奇跡というのかもしれませんね」
ゾ―テックも雪を見る。
「竜は天候を制するというから、竜神が戦場を清めようとしているのかもしれない」
「ああ、僕も王宮前広場に現れた竜神を見ました。トレファン侯爵が名を呼んでましたね」
「そうだな」
トレファン侯爵がナーディアを隠そうとした気持ちは同意する。
バーミリオンはゾーテックと共に、包帯の巻き終わった重傷者を担架に乗せる。
捕虜交換は国境で対面にして行われた。
両国の捕虜が、国境ですれ違う形式で交換される。
歩けない兵士は担架に乗せられ、同じ捕虜の兵士が運ぶ。その中に、バーミリオンもゾ―テックもいる。
担架を持ちながら、横を歩く兵士達に声をかけて鼓舞する。
「傷が痛むだろうが、ガンバレ。もうすぐ国境を超える。家に帰れるぞ」
「よくやったな、堂々と歩けばいい」
その様子を離れた所から、ユークリッドが見ていた。
戦場は、彼を変えたのであろう。優秀な王太子であった頃にもどったようだ。
彼を見ているのは、ユークリッドだけでなく、アルチュールもだ。
ユークリッドはバーミリオンから目を離し、戻って来た自国の捕虜の受け入れに指示を出す。
「すぐに医療室に運べ。食事の準備はできているか!?」
国境を超えた途端に倒れ込む兵士もいる。
国境を挟んで、アトラス王国もデセウス王国も捕虜の受け入れで騒然としている。
デセウス王国もロドリゲス・デセウス王が出迎えに来ているようだ。
アトラス王国とデセウス王国は停戦となった。
読んでくださり、ありがとうございまいた。




