135 ユークリッドの戴冠式
ユークリッドの戴冠式は、戦場から戻るとすぐに行われることになった。
国内が不安定という理由で、他国からの臨席を断っての戴冠式である。
だが、ユークリッドが実力行使で自分の結婚式をねじ込んだのだ。
ユークリッドも娘ほどの年のイレーヌにのめり込んでいるのは自覚しているが、イレーヌの美しさに他の男が近づくのではないかと気が気でないのだ。
新王であるユークリッドとイレーヌの結婚式に抵抗したのは、ヴィスタル侯爵である。
婚約式もなしに娘を嫁がせることはできない、と急ぐことを拒否したのだが、イレーヌが父親を説得した。
「私は、王妃という権力が欲しいです」
驚いたのは、ヴィスタル侯爵だけではない。宰相もイースデン公爵もユークリッドもである。
「ユークリッド様は戦地に身をおくような方です。この方には、戦争を否定するお気持ちがないようです。
避けられない戦争であっても、止めるべき者が必要でした」
イレーヌとナーディアが戦地に着いた時、停戦に向けて戦闘は止まっていたが、砦に充満する血の臭いとあふれる負傷者に衝撃を受けていた。
戦争だからとわかっていた、わかっていても賛同のできることではなかった。
アーニデヒルトの欠片を集めた夜、戦争の現実を知ってナーディアとイレーヌは力がいると考えた。
欠片を集める為と言って、無理やりアルチュールに同行して見た戦場は、王都で感じていた戦争とは違った。
男は基本的に好戦的なのが多い。
全てに権力を持たせていいのか?
そこにアーニデヒルトも現れて、王とは独立した権限を王妃に持たすべきだと参加してきた。
夫である王から冤罪かけられたアーニデヒルトの言葉は重い。
そして3人で話し合って、全ての戦死者の為に白い雪を降らせたのだ。
王都の大聖堂で、ユークリッドの戴冠式が執り行われ、ユークリッドの頭上に冠がのせられて名実ともに王となった。
それから続く結婚式である。
豪華なドレスを用意することができたが、それをイレーヌは断って小花を散らしたシンプルなドレスとなった。
ベールだけはヴィスタル侯爵が譲らず、細かいレースの長く豪華なレーンである。
シンプルなドレスが、イレーヌの美しさを際立たせている。
男性への恐怖心を克服せねばならないと分かっている。イレーヌがユークリッドを好ましく思っているから婚約を受けた。きっとユークリッドとなら乗り越えられる予感があった。
その予感は確証に変わってきている。
ウェディングドレスを着て、ユークリッドへ向かう歩みが嫌ではないのだ。
砦で再会した時、手を繫いだ時、キスをした時。
戴冠式と結婚式に参列しているナーディアは、イレーヌの表情を見ていた。
ベールでよく見えないが、歩みに迷いはないように思える。
今は、イースデン公爵家の娘として参列しているが、自分はアルチュールの花嫁としてヴィスタル侯爵家に入る。
イレーヌが王家から改革をするなら、ナーディアは市井から変えていきたい。
イレーヌがナーディアの横を通った時に目が合った気がした。
クスッ、とナーディアに笑みが浮かぶ。
アーニデヒルト様、見てますか?
イレーヌ、とても綺麗ですよ。
アーニデヒルト様のように、冤罪で殺すような王の権力はもぎ取りますから。
読んでくださり、ありがとうございました。




