133 停戦
ナーディアとアルチュールは、砦が近づくにつれ、足音にまで気を付けて暗闇を歩いた。
周りからみたら、怪しい行動に間違いないのだ。
停戦調停に支障をきたすような事になるわけにはいかない。
「かわいい」
ユークリッドはイレーヌに何度も口づけながら囁く。
警備の兵をごまかすため逢瀬を装ったのだが、ユークリッドはイレーヌの唇に夢中になっていた。
兵が遠ざかっても、イレーヌを抱きしめる腕が離れる事はなかった。
イレーヌが崩れおちるようにユークリッドの腕の中でぐったりして、やり過ぎたとユークリッドはあわててイレーヌを抱き上げると砦に向かった。
砦では、アルチュールに用意された客室で、ナーディアとアルチュールが待っていた。
横には、アーニデヒルトが姿を現している。
『世話をかけた。ずいぶん力が戻って来た』
アーニデヒルトは、自分の力は天候を操る事だ、と言う。ここの欠片を集めた事で、その力が戻って来たようだ。
翌日は朝から事務官レベルの調整があり、昼前から代表者による調印となった。
アトラス王国側は、ユークリッド・トレファン次期王。
デセウス王国側は、ロドリゲス・デセウス王。
戦争を仕掛けて敗戦国となったデセウス王国としては屈辱的な内容であるが、これ以上戦争を続けても勝機はないことがわかっている。
それぞれが相手の武力行使を警戒し、緊張を含んだ厳かな雰囲気の中、両者の調印がすすむ。
ユークリッドとロドリゲスが署名をし、お互いが書面を交わして停戦が締結された。
「雪だ!!」
窓の外の景色に声があがる。
「この季節に!?」
締結に合わせたかのように、外では雪が降り始めた。
降って来た雪は地面に溶けるように消えていく。積もるほどではない。この地域に雪は降らない、そして、降る季節でもない。
「アーニデヒルト様だ」
ユークリッドの言葉に、側に居るロドリゲスが視線を向ける。
「とても美しい竜神だ。戦争を嘆いておられた」
窓の外を見ながらユークリッドは皆に聞こえるように言う。
調印がされている部屋には、クーデターの時にユークリッドの頭上に竜が現われたのを見たのもいる。
ロドリゲスは、バーミリオンから聞いている。
アトラス王国に潜ませていた諜報員からも、同じことを聞いていた。
「あの雪は竜神の仕業と?」
「アーニデヒルト様は天候を操られる女神だ」
肯定をするユークリッドに、ロドリゲスはもっと早く停戦するべきだったと思うのだ。
勝てるはずがない。
静かに息を吐いたロドリゲスは、窓の外を見つめた。
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