132 戦場の欠片
夜の砦に動く影は4つ。
戦闘で大きく地形が変わった場所に向かう。
大砲で大穴が開いた場所に古いレンガでできた遺跡があったというのだ。戦時中なので詳しく調べる事ができず放置されているらしい。
アーニデヒルトが指す方向と合致している。
「しっ」
先頭を行くアルチュールが、巡回の兵士の気配に足を止める。
アーニデヒルトの石を吸収する様子を見られるわけにはいかない。それが竜の石だと分かると争奪戦が起こるだろう。
静かに身を潜めていると、兵士の足音が遠ざかって行く。
ユークリッドの権力で、この時間帯は警備を緩くしてある。それが効いているようだ。
ナーディアは後ろを歩く、イレーヌとユークリッドを盗み見た。
手を繫いでいる。
モテすぎて偏屈になった伯父が、女の子と手を繫いでいることに驚いていた。夜の暗闇とはいえ、しっかり見えている。
イレーヌはナーディア達に気遣って、手を解こうとしているが、ユークリッドが離さないようである。
暗闇でイレーヌの足元が不安定なのを心配しての事だろう。
砦周辺の厳重な警備をくぐりぬけ、デセウス王国軍の大砲の球が何度も着弾した場所に着いた。
辺り一面が窪み、地形が変わってしまっている。
ここがどれほどの激戦であったか、月明かりだけの闇夜でもわかる。
まるで兵士の血を吸ったような赤い土。
開いた穴から古いレンガが見える。かなり古い時代に埋もれてしまったのだろう。
ナーディアがアーニデヒルトの石を取り出すと、小さな音を立てて割れたレンガから石が吸い寄せられて集まって来る。
イレーヌとユークリッドは初めて見る光景に目を見張っている。
「ナーディアが言うには、あれは全てアーニデヒルト様の欠片だそうだ。
最初は手で拾い集めていた。石が集まりアーニデヒルト様の力が少しずつ戻って来ると、近くに行けばああやって集めれるようになった」
アルチュールが小声で説明をする。
「この埋もれていた建物に使われたレンガは、王都の河原の石を混ぜて作ったものかもしれないわ」
昔の事は分からない。けれど、河原で砕け散った欠片がレンガの中に混じってここにあることだけは確かな事だ。
ナーディアは両手で石を持っている。かなりの石が集まったように見えたが、石の大きさは変わっていない。
「人が来るようだ。ナーディア、まだかかりそうか?」
周りの様子を見ているアルチュールが、3人に声をかける。
「もう、吸い寄せられて来る石がないから、集め終わったと思う」
「そうか、じゃ、急いで帰ろう」
アルチュールがナーディアの手を取って、急ぎ足で歩く。
明日は停戦の調印という夜中に不審な行動をとっているのを、見つかる訳にはいかない。
突然、ユークリッドがイレーヌを抱き上げ前に出て行く。
「お前達は、向こうから逃げろ」
アルチュールとナーディアに目配せすると、ユークリッドは人のいる方に歩く。
ユークリッドの存在を気づかせるように、瓦礫にもたれるようにして音をたてた。
「君が男に恐怖を持っているのを分かっているのに、こんなことをする私を嫌わないでくれ。イレーヌ」
ユークリッドはイレーヌを抱きしめて、唇を重ねる。
驚いたイレーヌは抵抗しようとしたが、その手を止めた。ユークリッドの真意がわかったからだ。
自分達に注目させて、その間に、ナーディアとアルチュールを逃がすつもりだ。
イレーヌの手がユークリッドの首に回される。
ユークリッドは若い婚約者に溺れている王の役を被ってくれる、とイレーヌは思った。
「うわぁ、申し訳ありません」
ユークリッドの姿を確認した兵士達は、ユークリッドの逢瀬だと悟って、その場を逃げるように去って行った。
王都から文官達とユークリッドの婚約者が来たことは、皆が知っている事だったからだ。
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