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129 王妃の暗躍

王妃とデセウス王国との連絡を絶つことが、デセウス王国の指示系統の混乱を招くかもしれない。

確証はないが、戦地で戦っている自国軍のために、可能性のあるものは全て試す、それがクーデターの中心人物たちの考えである。

ユークリッドに付き従い、戦地に息子たちを送り出している貴族も多い。



王妃の警備で交代で下がる兵を捕まえたところ、王妃が慰安している孤児院への手紙を持っていた。

「王妃陛下が慰安に行けなくなった孤児院の子供達に宛てた手紙です」

預かった兵士は、王妃が不貞で監禁されているとしか知らされていないから、その手紙が大きな意味をもつなど思いもしなかったのだ。

王妃の筆跡の手紙を開封すると、子供達を心配する内容である。

シスターへの季節の挨拶が、暗号ではないかと調べて見たが不都合もない。


「あれ、この封筒、なんとなく厚くありませんか?」

それに気がついたのは、補佐官の一人だ。


慎重に封筒を裏返すと二重になっているのが見て取れた。

ペリペリ・・・

重なった紙を()がすと、デセウス王に宛てた親書であった。


誰もが息を飲んで手紙をみる。それは、デセウス王国が有利に停戦するための指示案であった。

「王妃は反逆の罪で、地下牢に移送しなけらばならない!」

私室での監禁では逃走の可能性もあり、さらなるデセウス王国との交信もありえる。


「王妃が手紙を宛てた孤児院に兵を派遣します」

司令官は言いながら、宰相室を出て行く。

孤児院に届いた手紙を、デセウス王国に運ぶ人間がいるはずだ。


バーミリオン王太子をデセウス王国が受け入れたのも、王妃の手配だったのかもしれない。

監禁になった場合を想定して、手紙のルートを含め、様々な準備をしていたと思われる。

王妃はどれほどの先読みをしたのか。

「あの王の妃だけでいるには、もったいない才覚であったのでしょう

デセウス王国でしていたように、嫁いできた我が国でも能力を発揮できると考えていたかもしれない。

だが、たとえ王妃であっても女性に政治的な活躍の場はなかった。




「王妃陛下、地下牢に移っていただきます」

宰相が王妃の私室を訪ねて告げた時、王妃は小さく笑った。


「では、私の策は失敗したということね」

暴れるでも、泣き叫ぶでもなく、しんしんと王妃は受け止めた。

背筋を伸ばし(りん)として歩く姿は、見惚(みと)れる程に堂々としていた。


「これが王妃陛下の本当の姿なのですね」

宰相の言葉に返すことなく、王妃は私室を出た。


王妃が入る地下牢は、逃走も自死も出来ないように、常に監視が付いていた。

窓もなく外の光も風も入らない。



デセウス王に進言していたのがアトラス王妃であったと、戦地の砦にいるユークリッドに報告が届いた。

ユークリッドを含め、誰もが王妃はデセウス王国の指示で動いていると思われていただけに、驚くばかりだった。


「母上がそんなことあるはずない」

砦に拘束されているバーミリオンは、ユークリッドから伝えられたが、否定の言葉しか出てこなかった。

「補助金横領も、偽造紙幣製造も、大胆な犯行ながらも巧妙に隠されていた。母上などができるはずがない」

その言葉は、母親を(かば)う気持ちからでたものではない。

バーミリオンにはアトラス王国の女性蔑視、平民を見下す思考が簡単には無くせないようだ。

ナーディアとの婚約解消、クーデター、人生を(くつがえ)すような事を経験して考えを改めても、幼い頃から植え付けられた思考は完全には訂正できないようである。



読んでくださり、ありがとうござました。

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