128 新しい国の支配者
ナーディアとイレーヌは、昼間は宰相室で執務補助をして、夜はアーニデヒルトの報告を聞く日を過ごしていた。
その間にも、戦場からの通知が届く。
毎日、多くの兵士の命が奪われていく。
「あのお兄様が疲れているのよ」
イレーヌにとって、兄のアルチュールの評価は厳しい。
「夜会で一晩中騒いだ朝でも、完璧な装いをしていた兄が!」
一刻でも早く戦争を終わらしたいと、宰相をはじめとした全員が案を練っているのだ。
戦地のユークリッドはもっとであろう。
『王妃が関与していた証拠はみつからないわ』
アーニデヒルトの声が、ナーディアとイレーヌに聞こえる。
『でも、組織表はみつけたわ』
「組織表?」
聞きなれない単語に、ナーディアもイレーヌも首をかしげる。
『デセウス王国が戦争で勝利した後、支配下においたこの国の組織表よ。頂点には王妃の名があったわ。
でも、これは証拠と呼べるものではない』
それから、と言ってアーニデヒルトが警備兵についての報告をした。
王と王妃の部屋の警備兵は、宰相たちが身元も調べた者達で、アーニデヒルトの報告も新しいことはなかった。
『そういえば、警備兵で下町のお菓子の名前を言う者がいたわ。
河原に長くいたから、下町で聞き馴染んだお菓子だったの』
「警備兵には、クーデター側の貴族の縁者をだしているはずよ。下町には無縁のはず」
イレーヌの言葉を、ナーディアが手で制す。
「王妃陛下は、孤児院に慰問に行ってたわよね?
優秀な孤児は、貴族や商家に引き取られることもあるわ。
王妃陛下が嫁いできてから、20年かけての計画なら孤児も大人になる」
「孤児院の時代に王妃陛下から恩を受けていたなら、協力するかもしれない」
王妃の手紙を持ちだす事など、容易いだろう。
イレーヌはアルチュール達を呼ぶように、部屋の外に待機している侍女に伝える。
すぐにアルチュールが駆け付けてきて、アーニデヒルトの話をもう一度聞くことになった。
「すぐに、行動を見張らせよう」
顎に手を置いて、アルチュールは溜息をついた。
「そこまで考えつかなかったな。
組織表、王妃が中心で動いていたのだな。
表に出て来ない者が、支配者であったということか」
助かった、と言ってアルチュールは宰相室に戻って行った。アーニデヒルトの事は秘密とされており、宰相にどう説明するかは、ナーディアとイレーヌには想像もつかない。
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