130 砦の地下牢
戦争を通してデセウス王国軍は新兵器の操作に精通したが、大国アトラス王国の軍事力には及ばなかった。
アトラス王国はクーデターでも、統率力が失われなかった事が大きい。
デセウス王国もアトラス王国も被害が大きく、両国が停戦の機会を伺っていたが、デセウス王国から仕掛け、戦闘も不利な状態ではデセウス王国は簡単には受け入れられない状態でもあった。
ユークリッドは、バーミリオンの牢に来ていた。
母親の事を聞いてから、バーミリオンは寝ていないと監視から報告がきている。
バーミリオンはナーディアとの婚約中に側妃の公言、クーデターが起こると逃走し、交戦国の騎士として参戦し、休戦を求めて特使として現れた。
大国アトラスの王太子として生まれ、バーミリオンにとっては周りが自分に従うのは当然であった。
母親がアトラス王国を手中に治める為に、祖国デセウス王国の参謀であったなど信じられない事だった。
女性は男性の庇護が必要な存在のはずだった。
ナーディアが婚約解消を出来たのも、イースデン公爵の力によるものだ。
ヴィスタル侯子との婚約も、イースデン公爵の意によるものであるはずだ。
それが、母親が男性以上の知己と指令をしていたということで壊れていく。
「バーミリオン」
正式に王太子の地位を剥奪されたことで、ユークリッドはもう王太子とは呼ばない。
呼ばれて、バーミリオンはゆっくりと顔を上げた。
たとえ牢に収容されていても、バーミリオンには矜持があった。それが、壊れていったのだ。
「王妃は、君が婚約者であるイースデン公爵令嬢をないがしろにしだした頃から用意していたようだ。
王家と高位貴族の融和で王家の権力の回復を画策していたのだが、不可能だと考えたらしい」
「はははは!」
天を仰いでバーミリオンが笑い出したのを、ユークリッドは静かに見ていた。
「ナーディアは正妃だ! それじゃダメだというのか」
ダメだからこうなっていると、バーミリオンも分かっている。
「君が側妃にと望んだ令嬢のことはいいのか?」
ユークリッドは彼女がすでに処刑されたとわかっていても、聞かずにはおれなかった。
「ああ、そんなのがいたな。ナーディアがいたからこそ目についただけだ。
品もなく、知的な会話もできない」
ナーディアが婚約者でなくなって、ルシンダへの興味は無くなった。王宮に部屋を与えていたが、訪ねる事もなく面会も許さなかった。
王宮から逃亡する時に、連れて行くどころか頭の隅にもなかった。
「僕がバカだったと後悔している」
その言葉は本心なのだろう、バーミリオンの視線は遠くを見ているようだ。
王妃の身辺を徹底的に探したが、偽造紙幣製造と王家の私財とのすり替えの証拠は見つからなかった。
王妃の浮気相手であるデセウス王国の商人は、拷問でも口を割らず、瀕死の状態でありながら監視が目を離したすきに姿を消した。
だが、デセウス王との交信の証拠の手紙があるので反逆罪は免れようがない。
それは、バーミリオンも同じである。
「デセウス王国との国境地帯が、我が国の領土になることで停戦になる。
戦犯として王妃は処刑が確定した。
デセウス王国は王が引退する」
ユークリッドの言葉が判決文のように、バーミリオンには聞こえた。
自分も母と同じく国賊なのだから。
王太子でありながら、国から逃げ出した。
何より大事なナーディアであったのに、傷つけた。
たくさんの罪を犯した。
「ゾーテックは、僕に従っただけだ。彼だけが僕に忠告をしたんだ。勝手な願いだと分かっているが、ゾーテックの減刑を願う」
最後まで側にいてくれたのは、ゾーテックだ。守りたいと願う。
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