119 つながる感覚
アルチュールの腹の傷は完治していない。
戦地でバーミリオンと対決した傷の療養の為に王都に戻ってきているのだが、宰相がたやすく静養させるわけもなく、宰相室で書類と格闘しながら療養しているのだ。
「アーニデヒルト様の石の欠片が急ぐのは理解してる。
そこが戦場でなければ、僕も反対はしない。とても危険なんだ」
アルチュールはナーディアを止めるべく、包帯が巻かれた腕を見せる。無理をしているせいで、アルチュールの傷の治りは遅い。
「アーニデヒルト様の身体は河原で崩れたと言っていたから、河原にたくさんあって、河の流れにのって海に流れたのはわかるけど、デセウスとの国境も、北の地も遠いわ。どうしてそこに?」
「確かな事は分からないが、鳥や獣に運ばれた可能性が多いな」
あまりに昔のことで、欠片が全部でどれほどあるかもわからない。
アルチュールはナーディアの手に手を重ねた。
「焦る気持ちはわかるけど、今は無理だ。他にも欠片があるかもしれない」
宰相室で、国境のユークリッドから手紙が来ていたことを知っているが、それをナーディアに言うわけにはいかない。
ー休戦の可能性ありー
バーミリオンが使者として、休戦の申し出にきている。
戦争が始まって1週間余りで、両国とも被害は甚大である。
デセウス王国としても、予想以上の苦戦となっているのだろう。
アーニデヒルト様が地中深くにあった欠片の気配を感じる程、戦場の地形は様変わりしている。
「きゃああ」
突然、ナーディアが身をよじって苦しみ始めた。
アルチュールが侍女を呼びに行こうとするのを、ナーディアはアルチュールの腕を掴んで止める。
夢の中でアーニデヒルトの処刑の場面でシンクロしたように、アーニデヒルトの感覚がナーディアに流れ込んできたのだ。
痛みと喪失感。
戦場にある欠片が砕けた痛感。
「アーニデヒルト様が苦しんでいる。欠片が砕けたみたい」
はぁはぁ、と身体を両手で抱きしめ、ナーディアはアルチュールに伝えようとする。
アルチュールが冷めてしまったお茶の入ったカップをナーディアに手渡せば、ナーディアは一口飲んで息をついた。
「欠片はアーニデヒルト様の身体の一部だから、感覚が繋がっているみたい」
ナーディアがアルチュールにもたれかかると、その身体を支えるようにアルチュールの手がそえられる。
「顔色が悪い。アーニデヒルト様が痛みを感じているのか?」
アルチュールの問いかけに、ナーディアは頷いて答える。
「そうか」
欠片が砕けると痛みを共感するなら、違う意味で戦場は危険だ。
アーニデヒルトは姿を現さなかったが、ナーディアのすぐそばにいるように感じていた。
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