118 欠片の気配
「なんですって!?」
ナーディアは声をあらげて、思わず手で口を押えた。
自室なので誰も聞いてないが、条件反射である。
「この間まで北の地、って言われてませんでしたか?」
目の前にいるのはアーニデヒルトである。
いつものように寝る前に石に話しかけたら、アーニデヒルトが現われたのだ。
『そうだけど、地が深くえぐれたのかもしれない。
戦地だから、大砲かしら?
深く埋まっていたところの気配を感じるの』
「まさか、戦場に欠片の気配あるなんて」
ナーディアは、手で頭を押さえながらベッドヘッドに身体をあずけた。
国境の戦場になっている場所から欠片の気配を感じると、アーニデヒルトが言うのである。
『それで、もしまた大砲が当たれば。粉々に砕けてしまうわ』
「集めるのは私ですよ?戦場なんて無理」
頭を大きく振りながら、ナーディアは大きく息をつく。
それでも頭の中では、密かに国境に行く方法を考えている。お父様やお母様に知られたら、監禁されるかもしれない。でも、一人では国境までいけないだろう。
こういう時に頼れるのは、アルチュールしかいない。
手紙を書くと、朝を待ってアルチュールに届けさせた。
「良かった、まだいた」
肩で息をしながら、ナーディアの部屋に飛び込んで来たのはアルチュールである。
手紙を見て、すぐに王宮を飛び出したようだ。
ユークリッドが国境の砦にいて戦地を指揮している今、王宮がどれほど忙しいか誰でもわかる。
そこを抜け出して来てくれたのだ。
「心配かけてごめんなさい」
ナーディアは言葉で謝っても、心配して来てくれたことが嬉しい。
「貴女は意外に行動力があるので、手紙を見てどれほど焦ったか」
馬で駆けてきたとはいえ、王宮での業務に疲れ切っているアルチュールには短い距離でも厳しい。
もう何日もまともに寝れない日が続いているのだ。
アルチュールが身体をあずけるように居間のソファに座るのを見て、ナーディアは部屋から使用人をさげた。
アーニデヒルトの話をするのに、他に人間に聞かれるわけにいかない。
「手紙で事情はわかりました。
もしアーニデヒルトが姿を戦場に姿を現したら、戦況は大きく変わります。
石の欠片があるのがデセウス側だった場合、そこに現れるのは困るんです。
アーニデヒルト様が現われた方が、神の祝福を受けたように見えますから」
アルチュールはナーディアに話しているようで、アーニデヒルトに話しているのだ。
ナーディアは机の上に石を置いた。
石の中から聞いていたであろうアーニデヒルトが姿を現した。
『間違いなく、あそこから力を感じるの』
アーニデヒルトはナーディアとアルチュールの様子を確認するが、二人とも渋っているのは間違いない。
『早くしないと、さらに細かく砕けてしまう。やっと探せるほどの力を持ったのに、それさえ失くしてしまうかもしれないわ。戦争が終わるまで待てない』
アーニデヒルトの言葉に、ナーディアとアルチュールは顔を見合わせるしかなかった。
石がアーニデヒルト様だと知られたら、戦地で赤茶けた石の争奪戦になる可能性さえある。
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