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120 特使とユークリッド

バーミリオンがデセウス側の特使として訪れているアトラス側は複雑であった。

国を捨てて逃げた王太子が目の前にいるのだ。


「バーミリオン殿下、ご自分の立場をおわかりでないようですね」

ユークリッドはゆっくりと顔をあげる。

「現在手続き中ですが、王位譲渡が完了するまで、貴方はアトラス王国の王太子です。

それが戦争中の敵国に参戦し、さらに休戦を提示してデセウスの特使となるなど、背信行為でしかありません」

ユークリッドが片手を上げると、控えていた兵士がバーミリオンを取り押さえた。


「何をする! 休戦の特使だぞ!」

通常なら身の安全を保障し、返信を持たすのが国際間の取り決めである。バーミリオンもだからこそ、特使としてアトラスの砦にきたのだった。


「デセウス国民の代表なら、こちらも誠意をもちましょう。

だが、貴方は国を裏切った戦犯だという自覚がないようですね」

王族としてユークリッドは、バーミリオンを幼い頃から知っている。優秀な王太子だと思っていたが、自分に都合よく考えるふしがあるようだ。

だから、結婚前に側妃などと言ったのだろう。


バーミリオンは押さえつけられ身をよじるが、拘束が緩むことはない。

後ろに控えていたゾーテックや護衛も取り押さえられている。

多勢に無勢なのだ、兵士の数の差はいなめない。

「僕を誰だと思っている!?無礼であろうが!」


それを聞いたゾーテックが表情を変えた。

「殿下、貴方はこうなることを覚悟しても和平を望んだと思ってました。

変わったと思ったのは、僕の買いかぶりでしたか」


「戦争を止めた英雄になりたいお子様のようだね」

ユークリッドが上から見下ろすように、バーミリオンの横に立つ。


「違う! 戦場で弱い民から死んでいくのが・・」


「それを分かっていて、戦争は始まるのですよ。

覚悟もなく上に立つな!」

ユークリッドの(さげす)んだ視線が、バーミリオンを突き刺す。

「手加減をする必要はない」

興味を無くしたかのように、ユークリッドはもうバーミリオンを見ていなかった。


兵士に拘束されてバーミリオンは、悔しさに唇を噛み締めていた。

いろんな事が情けなかった。

ただ、この戦争は無意味だと止めたかった。

でも、また間違えたのだ。

僕はデセウスとアトラスの血を引く存在。僕こそが戦争を止めなければと思っていた。

けれど、本当にそう思っていたのなら戦争を回避するように動くべきだったのだ。

分かっていたさ!

この国で僕だけが両家の血を引く存在、手遅れだと、認めるしかなかった。



読んでくださり、ありがとうございました。

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