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迷宮ダンジョンラビリンス。強力な魔法効果のある装備品希望。 Ⅲ

七十三



 程なくして皆が全ての外れる石を探し当て手を突っ込むと、さっきよりも大きな音が今度は周囲全体からけたたましく鳴り響いた。この広場が崩れるんじゃないかとブービートラップの存在を思い出しながら様子を探っていると、重量級な門は豪快な音を響かせてその身を引きずり左右に分かれる。その光景は一瞬だけ過ぎった不安も杞憂であると引き裂いてくれた。


「これはすごいですなぁ」


 ようやく口を開いた門の奥から流れてきたのか、ひんやりと冷たい吐息が私の足元を撫でる。同時に唸り声に似た低音が広場に零れてきた。


「これこれ、これが醍醐味だよね!」


 居ても立ってもいられず未踏破迷宮の一番乗りをすべく真っ先に門へと突撃する。


「やはり、迷宮の新階層発見はいつ見ても心躍る光景ですな」


 ほぼ同時。門の中、塵が積もった床に私とゲンジロウさんは足跡を付ける。


「む、ゲンジロウさん」


「おや、すずめさん」


 片足を踏み入れた体制でお互い見詰め合う。


「私が一番でしたね」


「いえいえ、私でしたねぇ」


 そう一番を主張し合った。


「私の方が奥に着いてますよね」


「いえいえ、この場合はその分手前にいる私が先に足を着いたという事でしょう」


 私もだがゲンジロウさんも譲る気は毛頭無い様で、睨み合いは平行線を辿る。

 後から入ってきた四人に判定を任せるも、「そうですね、はっきりと見えませんでしたので」「んなのどっちでもいいじゃねぇか」「同時で良いのではないか?」「あぅー、二人とも怖いですー」と、決着しなかった。


 決着は一時保留にして、私は更に一歩前に足を踏み出す。


「とりあえず、二歩目は私ですね」


 にやりと微笑むと、ゲンジロウさんは二歩三歩と足を進め「三歩目は私が頂きましたよ」と振り返る。

 そして開幕のベルが高らかに鳴り響いた。私が飛び出すのが早いかどうか、ゲンジロウさんも奥へと向けて走り出す。


「あ、ちょっと二人とも……」


 後ろからカタハナさんが何か言っているのが聞こえるが、今の私は埃を巻き上げて疾走する一筋の弾丸。ターゲットは前方のゲンジロウさんだ。


 しかし片手で大剣を振り回していただけあってゲンジロウさんは早かった。負けない様に必死で足を運んでいると、重い木槌を叩きつける様な鈍い響きと共にゲンジロウさんの姿がかき消える。それと同時に埃まみれだった床が消えて足元には黒い穴が広がった。

 気付いた時にはもうすでに止まれる様な勢いではなく、そのまま浮遊感に包まれると風景が急激に上へと流れていく。


「うっそーーーーん!」


 様にならない悲鳴を上げると、下の方からは「なんですとーーー!」と聞こえてくる。どう考えても罠の定番、落とし穴です。


 ──どうしよーーーー!


 落下しながらいい魔法がないか考えていると、お尻に鈍い痛みが走りそのまま坂道を転がる様に更に下へと落ちていく。体勢を整えようともがくけれど上手くいかず、それどころか摩擦でスカートが捲れ上がってくるため茶巾、おたいになってしまうのを防ぐのが精一杯になっていた。


 幸い直滑降の穴自体はそんなに長くはなかったが、この急斜面はぐねぐねと曲がりくねっていて、あちこちに身体を打ち付けられた。しかも斜面は鏡のようにつるつるしているので、足で踏ん張っても勢いは微塵も落ち無い。どこまで落ちるんだろうこれ。




 終点は突然だった。不意に投げ出され宙を舞うと、がっしりとした何かに受け止められる。


「あ、ありがとうございます」


「いえいえ、お安い御用です」


 ゲンジロウさんは塵に噎せ返りながらも私の身体に纏わり付いた埃を払ってくれた。


 というか私、受け止めてもらった時スカートどうなっていた……。

 モロ出しだった場合の事は考えない。というよりか忘れよう。


「変わった肌着を身に着けているんですな」


「はぅっ!」


 ばっちりかー!

 こういう時は何も言わないのが乙女への対処のはずなのに、ゲンジロウさんに悪びれた様子は全く無い。


「カタハナさん達にも言われました」


「ほう、そうでしたか。遠くから来たと言っていましたね。すずめさんの国では流行っていたりするんですかねぇ」


「まあ、これが普通……ですかね」


「ほうほう、そうだったんですか。やはり文化が違うのですな。いはやは興味深いですなぁ」


「はあ……」


「もう一度見せてもらってもいいですかな」


「もう、勘弁してくださいーー!」


 しゃがみ込みスカートを捲り上げようとするゲンジロウさんから、脱兎の如く身を引きスカートを押さえ絶対防御の構え。


「そうですか、残念ですねぇ。すずめさんのその服といいバッグといい見た事も無いデザインですし、一体どのような国なんですかねぇ、気になりますねぇ」


 どうにか諦めてくれたようだ。冒険者カンパニーの補佐官なんかをやっている者は、知らない事への探究心も人一倍というところだろうか。迷宮の一番乗りについてもそうだったし。




「しかし、参りましたなぁ。登れそうにはありません」


 ゲンジロウさんの視線の先、落ちてきたと思われる壁の穴を見上げると、ゲンジロウさんに受け止めてもらえなかったらかなりの痛手を負っていただろう高さに息が詰まる。


「そうですねぇ。どうしましょう」


 もはやさっきまでの勝負はどこかへと吹き飛んでいた。今はどうやって戻るかを考える方が先決だ。

 幸いにも周囲には水晶の不思議な明かりが所々に灯っており、ここがさっきまでいた場所と同じくらいの広さだという事が分かる。違うのは天井が部屋の横幅と同じくらいだというとこだろうか。


 一通り部屋を確認すると私とゲンジロウさんは、共に同じ場所に視線を向けた。


 静かな明かりが照らす四方の壁には、一つだけ黒い口が開いている。何かを飲み込もうとする様に見えるその口は、光が奥まで届かず先がどうなっているのかは分からない。とはいえ、現状ではその一つだけしか進めそうな所はなさそうだ。


「これはこれは……とても怪しいですが、しょうがありませんねぇ」


「そうですね、行くしかないですね」


 頷き合うと、私とゲンジロウさんはその黒い廊下へと続く入り口へと足を踏み入れる。それと同時に、ゲンジロウさんの手元で何かが明るく輝きだす。


「おお、明るいですね。何ですかそれ?」


「これですかな? これは携行ライトというものです」


 そう言いながらゲンジロウさんはケイコウライトというものに付いた紐を腰のベルトに通し、手元をクルリとさせるとベルトに固定した。


 暗闇を照らしてくれるライトは正に冒険者必須ともいえるアイテムだろう。ゲームでは、松明とか明かりの魔法があるのでその重要性は分かってはいたが、こうして目の当たりにするとその事を再確認させられた気分だ。


「便利ですねー」


「これはいいものですぞ。本来はドロップ式クリスタルトーチという名称ですが、持ち運びに便利という事から携行ライトという名で呼ばれてましてな。冒険者カンパニーで販売もしていますよ。お手ごろ価格から、耐久性持続性に優れた一級品まで揃っていますので、是非すずめさんも」


 やけに詳しく教えてくれると思ったら、売りつけようという魂胆だったか。だがまあ、これは……欲しい。


「考えておきます」


 少しだけ強がりながら、光に照らされた廊下を進んでいく。途中でゲンジロウさんは冒険者カンパニーで売っている他の便利アイテムを色々と説明してくれた。冷気を保ち続け食材の長期保存が出来るカバンや、広げるだけでテントになるカバン、様々な調理器具が揃いお手入れ簡単なカバン。他にも色々とあるみたいだけど、なぜゲンジロウさんの紹介はカバンばかりなのかは分からない。しかし、そのどれもがとても魅力的だった。




「おやおや、明かりが見えますねぇ」


「これは慎重にいかないとですね」


 進んだ先で道が左に折れ曲がると、まだまだ距離はあるが先に薄っすらと小さく光が見えてきた。明かりのある広場かどうかは分からないが、こういう迷宮では一筋縄ではいかないのが王道だ。より一層気を引き締めていかねば。


 気合いを入れ直しながら、ふと思い立って後ろを振り返った。

 参考文献『レメゲトンの守護者』『カカシの騎士』『イグニス・アルマ』『ラビリンスメーカー』『姫騎士アマニカ』これら全て、小さな明かりを手に暗い通路を進んでいる時、そっと背後から忍び寄る怪物により窮地に陥る場面が描かれていたからだ。そして今、私達の状況は正にその場面と瓜二つではないだろうか。


 振り返ったまま後ろ歩きで進んで行く。目の端に映る光でゲンジロウさんの進行具合は大体把握出来そうなので、私はこのまま後方を警戒しつつ進行する事にしよう。これが良く気が利く出来る乙女というやつだ。


 私達が降り立った最初の部屋には何もなく、誰も居なかったはずだ。そこから通ってきたのは一本道の暗闇の通路。その通路はゲンジロウさんの携行ライトにより照らされているが、ライトには指向性があるらしく背後は前方よりも薄暗い。普通に考えると何も居なかった部屋から何かが追いかけてくるはずはないのだが、私の経験(漫画知識)が警鐘を鳴らしている。


「くふふふふ、この私を出し抜こうなど百年早いわ」


「何か言いましたかな?」


「いいえ、何でも無いです」


 私の呟きを聞いてしまったゲンジロウさんは、更に「おや、後ろがどうかしましたか?」と訊いてきた。ならばしょうがない。答えてあげるとしようか。


「こういう場合は、背後からの奇襲が大いに予想されますので」


「ほうほう、背後からの奇襲ですか。しかしここまでは一本道、私達が最初に居た部屋にもアクゼリュスの類はおりませんでしたので追いかけてくるとは考えにくいのですがなぁ」


「それが罠なんですよ。いうなれば心理トラップというやつです。無いと思わせておいて生まれた隙を突く。これが王道です」


「なるほどなるほど。一理ありですな。しかし見た限り……おや……?」


「どうしました? …………むむ?」


 話の途中でゲンジロウさんが、今まで来た道を携行ライトの光を向けて照らし目を細める。私もそれに倣い奥を凝視すると、薄っすらと遠くに見える曲がり角の辺りで、何か蠢いたかと思うと奥に引っ込んだ。様に見えた。


「これはこれは、すずめさんの説は当たりかもしれませんな」


「王道はいつだって私の味方です」


「頼もしい限りですなぁ」


 言いながら私は廊下の奥から目を離さずに細剣を抜き、ゲンジロウさんは私の一歩前に出ると背中の大剣を構えた。

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