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王道の職業。それは大魔導師フラグに違いない。 Ⅵ

六十九



 やはり……大魔導師たるものイメージは大切だ。時間はいくらでもあるのだから、逸る気持ちすら楽しむとしようじゃないか。


「それでは、買ったら持って行きます」


「はい、分かりました。ではレリクト化の一覧を用意しておきますね」


「ありがとうございます」


 二日の待ち時間の間に、アクゼリュス討伐でラーイルカイトを集めておくのもいいし、よりスフィア捌きに磨きをかけておくのも一興だろう。どうせならば、試験官を驚かせるくらいはしたいところだ。歴史に名を残す偉大なる大魔導師すずめは、その始まりもまたセンセーショナルなのだ。




「それでは私は、コトノハさんに頼まれた封書を学長先生に渡してから店に戻ります。それまでよろしくねソラヅキ。ヒメユキは早く家に帰ること。ヤナギメはニコさんから離れなさい。すずめさんニコさん、明日には一覧の用意が出来ると思いますのでまたその時に。フユギリはお二人をよろしくね」


「了解っスよー」


「うう……はーい」


「ニコ様ー、これ私のコネシェルのアドレスです。是非ご連絡をーー」


「すずめさんとニコさんには、楽しい思い出山盛りですー」


「はい、また明日伺います」


「またな、お嬢ちゃん」


 ソラヅキさんはヤナギメさんをニコから引き剥がしながら答え、そのヤナギメさんはニコに何かが書かれた紙を手渡していた。ヒメユキさんは治療院の事を思い出したのか、また彼方を見つめ、フユギリさんは気力十分といった様に喜色満面で答える。


 手を振りながらカタハナさんが階段を上がっていく。渡しに行った封書の中身は分からないが、これほどの学校の学長宛てだ、少し気になる。そして二人が会いに行った学長、これだけ大きな規模の学長先生だ、きっと凄腕に違いない。


 それとこのアカデミーという所にも興味がある。野外実習があったり教師が騎士然としていたり、いかにもファンタジーな学校だ。きっと騎士科とか魔法科とかあるに違いない。

 私もこういう学校だったらがんばって勉強してたのにな。


 エントランスを眺めながらアカデミー生になった自分を想像する。「あ、先生おはようございます」「おお、森野か。昨日の実習はお前が一番だったぞ。次もその調子でがんばれよ」「はい、ありがとうございます」


 私のやる気ならばきっと主席卒業は間違いない。魔法学校というのも憧れる。


「ほれ、すずめ。いつもの出てるぞ」


 ニコに声を掛けられると同時に頭に手を乗せられ、現実に強制送還される。


 またやってしまった!


 あざ笑う様な視線を予想して皆を見回すと、優しく肩に手を置かれ両手を握られる。そして何やら末期の病を宣告された患者に向ける様な視線で「皆、分かってるから」と憐れみの声をかけられた。

 優しさが時には深く傷つける事があるのだと、この時身をもって知った。


「すずめさん、自制心っスよ。自制心」


 そう言いながらサムズアップするソラヅキさん。良く見ると瞳にからかうような光がちらついているのは気のせいでしょうか。


「大丈夫、欠点じゃなくてすずめさんのチャームポイントだと思うから」


 ヒメユキさんは慰めにもならない言葉の後に「治したいと思ったら良い治療院紹介するからね」と道連れを求める一言を付け加えた。


 ヤナギメさんはニコに夢中のままだったようで、どうやら聞こえなかったらしい。

 フユギリさんは、何やら小さな本を手に捲っては戻り捲っては更に戻りと忙しなくしている。


「すずめさん、アカデミーに興味あるっスか?」


「それはもう。剣と魔法の世界の学校だなんて私にしてみれば鉄板中の鉄板ネタです」


「やっぱりすずめさんは勉強熱心なんだね。でも、ここは学校とはちょっと違うかな。アカデミーだし」


 ちょっと違う? アカデミーは学校の上位種みたいな認識だったけれど私の偏見だったのだろうか。


「そうっスねー。学校は一般職、アカデミーは冒険者や騎士団、傭兵といった戦闘に関わる職を目指す人の通う専門学校みたいな所っスかね」


「初等部の基礎教養の授業に変わりは無いから、中等部から学校かアカデミーのどちらに進むか決めるのが普通かな」


「なるほど、そんな違いがあったんですか」


 やはり行くとしたらアカデミーしかないな。まあ、入り方とか知らないけれど、勉強の場があるというのはありがたい様に思える。

 いつだったか担任の藤林美鳩先生、通称ふじみーが言っていたっけ。学生のうちは勉強する環境が用意されているから、しっかり勉強しとけと。私もきっと、アカデミーでなら勉強できると思う。気分が違う。


「すずめさんすずめさん。アカデミーが気になるのでしたら見学していきますかー? よければご案内しますよー」


 エントランスの階段をてててっと数段上がり、きりっとした表情で両手を広げるフユギリさん。まるで我が城を見せびらかす城主の如きふんぞり返り様だ。


「それもいいね。フユギリが一緒なら許可もすぐに貰えるだろうし」


「そうっスね。ボクの母校っスから、良ければ見て行って下さいっス」


「見学出来るんですか……。いいですね、是非お願いします」


「私にお任せですよー!」


 満面の笑みを浮かべるフユギリさんはとても嬉しそうだった。そして、憧れの魔法学校。これは私も楽しみだ。





「それじゃ、またっスー。すずめさん、約束忘れないで下さいっスよー!」


「ああ、はーい」


「あ、じゃああたしも。今度、アレ良く見せて!」


「はいはい、分かりましたー」


「ニコ様、いつでもお待ちしておりますー!」


「ああ、早速今夜は寝かせ………………、いや、そのだな。早く寝るんだなお嬢ちゃん。夢の中でまた会おうぜ」


「すぐに寝ますー!」


 ソラヅキさん、ヒメユキさん、ヤナギメとお城のようなアカデミーのエントランス出入り口で分かれ、私達はそのままアカデミー内へと戻る。そう、アカデミー見学の為だ。


「ではすずめさん。まずは見学の許可を貰いに学長先生の所へ行きますねー。私の後にしっかり付いて来てくださいー」


 びしぃっとエントランスの中央階段上方を指差すと、「出発ですー」とリュックのダックスフントの首をカクンカクンさせながら進んでいくフユギリさん。なんだか、無性に和んでしまう。


 エントランスの中央階段を登る途中で、聞き慣れた様なそうで無い様な鐘の音が響き渡った。同時に、周囲でこちらをチラチラと覗き見ていた生徒たちが慌てたように散っていく。授業の開始合図とかだろうか。


 エントランス二階から真っ直ぐ廊下を突き進む途中で、円形の広い吹き抜けの空間に辿り着いた。見ただけでも七階くらいはあるだろうか、休憩用であろうベンチや観葉植物などが飾られており、壁際を沿う様に階段が螺旋状に高く続いている。


 フユギリさんは、その螺旋階段の方へと進んでいく。アレを登るというのだろうか……。少し見上げて「うへぇー……」と思わず声を漏らしてしまう。



 結局、螺旋階段を最上階まで登りきった私の足は小刻みに震え、今は手摺にしがみ付いて体力の回復を待っている。二人はというと、息一つ乱れていない。ニコはともかく、私と体格にほとんど差が無い(胸は私が少し勝ってる)はずのフユギリさんですら「大丈夫ですかー?」と余裕そうに心配してくれている程だ。流石、後輩。


「何なら抱っこしてやろうか」


 そういうニコは両腕を腰の辺りで抱え上げる様に曲げて、指をいやらしそうに動かしている。あの形は間違いなくお姫様抱っこというものだが、相手がこれでは何をされるか分かったものではない。


「結構です」


 私は大きく深呼吸をしてから意を決して手摺から離れ、まだ疲労の残る脚を持ち上げるようにしながらフユギリさんの方へと歩き出す。


「さあ、行きましょう」


「はいですー」


「つれねぇなぁ」


 最上階の廊下は扉の数も少なく、どことなく凛とした雰囲気が漂っている。丁度、校長室や職員室の前のような気配だ。つまり、きっとこの扉のどれかが学長室だろうと予想する。

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