王道の職業。それは大魔導師フラグに違いない。 Ⅴ
六十八
「そういえばゲンさんはアカデミーに何しに来たんスか?」
ソラヅキさんが訊いた事に私も同意する。そんな冒険者カンパニーの人が学校ともいえるアカデミーに何用だろうか。学生の時から有能そうな生徒に当たりを付けておくとか?
「ええ、アカデミーの地下に出現した迷宮について学長殿とお話しにきたんです」
「まだ諦めてなかったんスか……」
「もちろんです」
二人の会話に紛れたある単語。それは私の興味を一気に攫っていった。
「迷宮ってなんですか?」
「やっぱりきたっスねー」
カラカラと笑うソラヅキさん。その反応からして、やはり私の行動を把握されている気がする。恐ろしい娘!
「簡単に言えば、神出鬼没で正体不明な遺跡の事っス。見た事も無い様な形状、何で出来ているのか分からない材質でできた建築物なんスよ。
共通している事といえば、何層にも続いている事、見たことも無い財宝が眠っている事、そしてアクゼリュスや時には魔獣が居るって事っスね」
「なるほど、そんな素敵なプレイスが」
まさに冒険! 私の望んだ遺跡そのまま。是非とも聖剣、魔剣、宝杖の類を手に入れなければ。迷宮とやらに眠っている可能性大とみた。
「何をおっしゃいますか。迷宮などというアクゼリュス蔓延る危険な場所が街中に、あまつさえアカデミー内にあるのです。早急に冒険者を送りアクゼリュスの討伐を行わなければなりません」
「確かにそうかもしれませんが、今まで迷宮からアクゼリュスが出てきたという話も聞きませんし、それにあの迷宮はアカデミー生でも難なく倒せる程度と聞きましたが。いい実戦訓練に使えると」
「そうなんですよねぇ……。アカデミーの地下に冒険者を多数送り込むのも問題があるとかで、教師だけでも十分対処が出来るからと突っぱねられてるんですよ。私が言うのも何ですが、品行方正とは言い難い方々もおりますし……」
カタハナの言葉に、分かってはいるけれどといった風に勢いを無くすゲンジロウさん。
「冒険者カンパニーともあろう存在が管理出来ていない迷宮などあってたまるか! といった上層部の事情でして。いやはや難儀しております」
「ゲンさんも大変っスねー」
「ええもう胃に穴が開きそうですよ」
「なんでしたら、良い治療院紹介しますよ」
ゲンジロウさんの言葉に反応したヒメユキさんが、道連れを求める亡者の様な瞳を輝かせる。
「ははは、いずれお願いするかもしれませんな」
板挟みであっちを立てればこっちが立たずという状態みたいだ。職員の人も色々と大変なんだなと、心の中で励ましのエールを送った。
「では、皆さんまたお会いしましょう。すずめさん、ニコさんも冒険者カンパニーバビロン支部を是非ともよろしくお願いします」
気合を入れ直したのであろうゲンジロウさんは、先ほどまでの気重そうな雰囲気を払拭し快活に笑いながらエントランス中央の階段を上がっていった。これから、学長先生との話し合いに臨むのだろう。
貰ったチラシに目を落とす。もちろん字は読めない。冒険者カンパニー、とても興味を惹かれる響きだ。冒険者となれば、思う存分魔法世界を満喫出来るだろう。身も心も。
そして、いつしかまだ見ぬ冒険者仲間と魔獣討伐に迷宮探索。一仕事終えた後には宿屋の食堂で仲間と騒いで、手に入れたお宝を分け合ったりするんだ。
「背中は預けたぜ」「また後先考えずに突っ込んじゃって」「ま、今更ですけどね」「もう、皆私が居ないとダメなんだから」絆で結ばれた仲間と共にアクゼリュスの群れを相手に戦う私。いつしか辿り着く熟練冒険者となった大魔導師すずめの伝説がこの一枚のチラシから始まるのだ。
「くふふふふ……」
見える、一流の冒険者として名を馳せる私達のパーティ。そして新米冒険者たちの憧れの的となっている姿が。
「すずめさん、全部声に出てたっスよー」
「私が居ないとダメなんだから。ってところがすずめさんだよね」
「はぅ!」
チラシから顔を上げると、からかうような笑みを浮かべるソラヅキさんとヒメユキさんが目に入る。
妄想大冒険は今まで一人の時に自室で繰り広げていた。もしかして、その時も私は声に出していたのだろうか。思い出す以前に、今の状況に顔が熱くなる。やめて、こんな私を見ないで!
「えっと、すずめさん。それなら是非、冒険者の登録をしておくといいですよ。すずめさんの実力なら登録試験も大丈夫でしょうし、ノルマも問題なくクリア出来ると思います」
そう薦めてくるカタハナさん。表情は明らかに何かを堪えているが、華麗に話題を振ってくれたその優しさに涙する。
「そうっスね。折角のお誘いなんスから行ってみるといいっスよ。ボクたちも冒険者登録してるっスけど、冒険者証は便利っスよ。カンパニー協賛の食堂は三割引で食べれるんス。最高っスよ」
「もう、それだけじゃないでしょう。…………ああっ!」
目端を下げながら呆れた様子のカタハナさんだったが、唐突に声を上げると口元に手を当てて周囲を探るように見回す。生徒の数も少なくなってきたエントランスはいくつかの足音だけが木霊している。
「すずめさん、遠くから来たという事は魔装具取扱証は持ってないですよね」
「あ、そういえばそうっスね」
「そっか、取扱証が無ければ買取り出来ないよね」
買取り……、きっとラーイルカイトの買取りの事に間違いない。言われてみれば、私の世界でだって古物営業法とか何とかで身分証が必要だった。やはり必要だったのか……何とか証。
「持ってないですね。どうすれば貰えるんでしょう」
持っていないなら、手に入れればいい。報奨金で懐も暖かいことだし、それ程急ぐ事でもないだろう。
「冒険者登録すればいいんですよー、これが貰えるんですー」
そう言ってにっこにこの笑顔で、カード状の何かを手にし見せてくれたフユギリさん。それには文字の他に、楽しそうなフユギリさんの顔写真と、右上に数字の『5』と大きく書かれている。
「もしかして、これが冒険者証とかですか?」
「そうですよー」
「冒険者証には、魔装具取扱証の機能も付いてるっスから、すずめさんが冒険者になればすぐに買取りも出来るっスね」
「おお、それは便利ですね」
冒険者になればアクゼリュスと戦う機会も増える。そうなるとラーイルカイトを手に入れる機会も増えるという事だ。理に適っている。職業冒険者を経て世界的英雄の大魔導師。悪くない流れだ。
「これはもう運命が私を冒険者にしようとしているみたいですね」
「では、次の目的地は冒険者カンパニーですね。先日行ったばかりなので場所はばっちりですー」
「すずめさんなら二日もあれば冒険者になれそうっスねー。がんばるっスよ」
「そうだね。あの魔法を見た限りなら登録試験くらいなら問題なさそうだよね」
これで、お昼の予定は決まった。冒険者カンパニーで冒険者になる。しかし二日くらいでなれるとはどういう事だろうか。そして登録試験?
「こんにちは、冒険者になりに来ました」「はい、それではこちらが冒険者証です」「これで私も冒険者ですね」「おめでとー」「ありがとー」
というように、簡単にはいかなさそうだ。……まぁ当たり前な気もするが。
「登録し……」
「登録試験は、カンパニーの試験官の監視下で簡単なアクゼリュス討伐をこなせばいいんスよ。すずめさんの実力なら一発っス」
「けー……んー……。なるほど」
してやったりな表情で胸を張るソラヅキさん。もう完全に手の内で踊らされている様な気がする。そして強調された揺れる…………けしからん、実にけしからん。
アクゼリュス討伐か。タイマンならばきっとどうにかなるだろう。試験官に見られながらと言うのが少し緊張しそうだ。
見られながら……か。
「フユギリさん。まずはまたあの服屋に行きましょう」
「ロイヤルぶー……びゅ……ヴュー……ズ服飾店の事ですー?」
「えっと……そうですそれです」
フユギリさん噛み過ぎです。
偉大なる大魔導師の第一歩、やっぱりそれなりの服装で望まないと。資本金は百万。十五万のクロークですら、今ならば一括払いだ。
「店に来る前に、そんなところに行ってたっスかー」
「楽しかったですー」
「やっぱり折角の憧れた世界ですから、冒険者になるからにはそれっぽい格好したいですしね」
「そっかー、あたし達ににしてみれば普通だけど、すずめさんには文字通り別世界だからね」
「でも、冒険者として使うのでしたらレリクト化しないと、すぐにダメになってしまいますよ」
……レリクト化? 確かに冒険者として戦いに身を投じるとなると破れたり解れたりと、痛みが激しくなりそうだ。そこまで考えてなかった。カタハナ曰く、レリクト化をするとその痛みが軽減出来る様な話し振りだが……。
「レリクト化というのはっスね、通常の武器や防具、服や装飾品にラーイルカイト製の付加効果を秘めた各素材を合わせて戦闘向けにカスタマイズする事っス」
「な……なるほど……」
……今度は完全に上を行かれた。もはや一言も発していない内に……。更に「すずめさんは顔が読みやすいっス」と一言添えてくれた。おのれぇ……。
「レリクト化は私たちの店で出来ますよ。買取りのついでに買った服を預けていただければ、戦闘用に強度を上げる位でしたら二日程度で出来ますので」
レリクト化に二日かかるのか。そして登録試験も二日かかる。
服を預けてからすぐに登録試験に行った場合は、二日で冒険者証とレリクト化された服を同時に手に入れる事が出来る。
レリクト化してから登録試験に行くと、合わせて四日。
効率を取るか、これからのアイデンティティ確立を取るか。さぁどうしようかな。
これから徐々に王道の流れになっていくようです。




