王道の職業。それは大魔導師フラグに違いない。 Ⅲ
六十六
はて何の事だろう。皆で顔を見合わせるが全員首を傾げるばかりだ。
「ああもう。それじゃあ分からないって……」
「ふぇ?」
少年は少女を下がらせると、代わりに自身が一歩前に出た。
「いきなりすいませんでした。僕は、ここの高等部一年アマヅキ・トオル。トオルと呼んでください」
「えっと……、ルークスリア・エミットです。皆にはエミって呼ばれてます」
「さっきエミさんがお礼を言ったのは、そちらの方にです」
自己紹介してきた二人。トオル君とエミちゃんというらしい。
そちらの方と言ったトオル君と、何度も頷いているエミちゃん、二人ともモデルみたいに可愛いなーっとファンタジーの美形修正に満足していると、なぜかその二人と視線が合った。
「ん、え?」
そちらの方、そういえばそちらとはどちらだろう。
見回すと皆とも目が合い、視線を戻すと二人ともまた目が合う。これは……、私なのか?
「えっと、私じゃないよね?」
「いいえ、貴女です。遠くからでしたが、目には自信があります。確かに貴女でした。お名前を聞かせて頂いてもいいですか?」
「森野すずめです」
「すずめさんですね。あの時は少し意識が朦朧としていましたが、見た事も無いその特徴的な服ははっきりと覚えています。エミさんも多分そうだと言ってましたし」
後方に待機していたエミちゃんがしきりに頷き、覚えていると肯定している。遠くから見られていた……いつだ?
「あの時……ですか?」
「えっとですね。野外実習で先生とはぐれてしまった僕達と……もう一人いるんですが、森でグリベアードと遭遇してしまったんです」
「グリベアードっスか。高等部じゃ……ちょっと……危ない……相手っスね」
ソラヅキさんがオムライスを口に運びながら言う。見知らぬ二人の登場にも気にせずに食事を続けるとは、さすがソラヅキさん。
「グリベアードって何です?」
もはやクセになっているのかもしれない、知らない単語が出てきたらすぐに訊くクセ。グリベアードってなんぞや。
一瞬、呆けるように私を見るトオル君。エミちゃんも小首を傾げている。
「流石すずめさんっスね。グリベアードは熊のような外見をしたアクゼリュスの一種っスよ」
「あー、ああー! あいつかー」
「すずめさんの故郷はこことはかなり違う所みたいっスから、常識に疎いんスよ」
二人に簡潔に伝えてくれたソラヅキさん。田舎者でどうもすいません。
「そうなんです。どうぞ続けてください」
「えっとですね、僕たちはそのグリベアードと戦ったんですが歯が立たず、そんな時に突然現れたすずめさんに助けてもらったんですよ」
「そうだったんスか。やるっスね、すずめさん!」
「ん~? そんな事…………あ……ああ!」
そういえば、遺跡探索で森を闊歩していた時、熊のアクゼリュスと戦っていた三人組がいた。リアル戦闘をワクワク気分で観戦していたら、思いのほかピンチだったので横から魔法を二発打ち込んで倒した事があったっけ。そして、今みたいに見つめられて恥ずかしくなって逃走したわけだ。
「あの時の三人のうちの二人!」
二人の顔を良く見る。エミちゃんの方は言われてみると見覚えがあった。ローブ姿ではなく制服姿だったのでイメージが合わなかったが、確かに顔立ちは同じ感じだ。剣士の少年は短髪でいかにも熱血な顔立ちだったので、トオル君はあのフードを目深に被っていた軽装の少年の方か。あの時は顔がほとんど見えなかったけれど、まさかこんな美少年だったとは。
「はいそうです。あの時は本当に助かりました。改めてありがとうございました」
「あ、あ、ありがとうございましたっ」
上品で気品の漂う姿勢で華麗なお辞儀をするカオル君と、あたふたと慌てたように繰り返し頭を下げるエミちゃん。対照的でいて何となく似たような空気感から、仲の良さはハッキリと伝わってくる。
「もう一人、一緒にいた魔剣士のジャックも会えたらお礼がしたいと言っていたんですが、あの日からアカデミーを休みがちで連絡が無いんですよね。彼の事なのでどこかで過剰な自己鍛錬をしているんだと思いますが、代わりにお礼を言わせてもらいます」
「いえいえ、お気になさらず。当たり前の事をしたまでです」
憧れていた一言を口にしながらニヤリとほくそ笑む。正に王道のセリフ、私カッコイイ。
「ぷっ……すずめさん、また自分の世界に入ってるっスねぇ」
「………………」
その一言で全てをぶち壊された私は、無言でオムライスを口に運び始める。ソラヅキさん、私のパターンをもう把握したというのか。恐るべし。
「今度、時間がありましたら是非お礼をさせてください」
「させてくださいっ」
お礼と言われても私がさっき言った通り、それほど大した事はしていないのだけれど。グングニルを二発撃ち込んだくらいだ。だがしかし、折角お礼をしてくれると言うのだ。
少し考えて、思いつく。
「えっと、でしたらお言葉に甘えて。
日常で使う文字が勉強できる物とかが欲しいんですが、どこで買えるか教えてもらってもいいですか」
「文字……エイダス語ですか? そうですね……初等部の購買で売っているはずです。買ってきますね!」
「あ、トオル君。私も行く」
言うが早いか、人の隙間を縫うように学食を出て行ったトオル君と、深くお辞儀をしてからその後を追いかけるエミちゃん。………………あ、転んだ。
「えっと……教えてもらうだけで良かったんだけどね……」
「まあ、いいじゃねぇか。飯食って待ってようぜ」
「うーん、それもそうか」
確かに、オムライスがおいしいので止められない止まらない。
「エイダス語の勉強かぁ。昨日の今日で勉強だなんて、すずめさんは勉強好きなんだね。あの本が読めるのに……」
ヒメユキさんはオムライスを一口含むと、何やら遠い目で彼方を見つめている。ちょっと怖い。
「いえいえ、好きではないですが、何かと不便そうなので」
「そうっスねぇ。エイダス語は全国での共用語っスから、読めた方がいいっスよね」
そう言ったソラヅキさんは、一つ目のオムライスを完食し、もう二つ目も半分まで食べ終えている。
「ですです」
この世界を冒険するためには、やはり文字も読めないと都合が悪そうだ。言葉は通じるのがほんとにありがたい。
それからオムライスを食べつつ、森で三人を助けた時について訊かれたので皆にその様子を語って聞かせた。
だが、皆が注目したところはグリベアードを倒した所ではなく、私が居た森の事だった。
「よりによって銀狼の森で遺跡巡りですか……」
「話の内容からすると、ニコさんと出会う前だよね。一人で銀狼の森だなんて危なくないかな」
「そうっスよね。アカデミーの野外演習となると、結構奥まで行っているはずっス。グリベアードも多くて、野営するにしても危険な場所っスよね」
まさかそんな場所だとは。拠点は研究所の居住区だったので、近所を歩き回っている程度の認識だったのだが、そう言われればこの街から行くと考えるとかなりの奥深くである事に気付く。
そして銀狼の森だなんて呼ばれている事も知らなかった。だが理由は、どう考えてもハティだろう。
うーん、どう説明したものか……。視線でニコにヘルプを送る。
するとどうやら私の視線に気づいてくれたようで、ニヤッと笑み揺らぐニコ。嫌な予感がする。
「ああ、それはだな。銀狼の森には、その名前にもなっている主がいるだろう」
「銀狼様ですね、ニコ様!」
「そうだ。その銀狼の縄張りが森にはいくつかあってだな、そこにはアクゼリュスが入ってこない。すずめはそこを拠点にしてたって事だ」
「そうだったんですか。銀狼様の縄張りが……」
何だか考え込み始めるカタハナさん。だが、ある意味嘘って程でもない。石球の研究所周辺には危険な生物は入って来ない様な事を言っていた気がする。つまりあの辺りがハティの縄張りとすればあながち間違いでもない。
「そうなんですそうなんです」
下手に追求される前にニコの言い訳に乗っかる。
自分だけしか知らない(ハティとニコは除く)設備の整った施設。秘密基地としては最高の部類に入るのではないだろうか。私の秘密基地には国を落とせる程の性能まであるらしいから、絶対に誰にも秘密だ。




