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王道の職業。それは大魔導師フラグに違いない。 Ⅱ

六十五



 お城の入り口が近づくにつれて、どうにもおかしな事に気づく。扉が全開だ。細かい事情はよく分からないが、これは防犯上どうなのだろうか。国のお偉方が揃っているだろうし、それなりの警備は必要だと思う。そもそも、もうすぐその入り口に着くというのに警備兵らしき人物も見当たらない。一国の主の住む場所として、いくらなんでも無用心すぎないだろうか。


 どこかに隠れてるんじゃないかと辺りを見回しながら進む。

 気付くと入り口を通り過ぎお城の中にいた。


「なんですと!?」


 お城の厳粛な雰囲気はどこへやら、私と近い年齢層の男女がそこかしこと歩き回っている。しかも気になったのはその服装だ。上着の色はいくつか違いがあるが形状はほぼ同一で、男子はズボン、女子はスカート、そしてネクタイかリボンといった違いで、なんだかどう見ても学校の制服だ。

 この光景を目の当たりにして、さっきソラヅキさんにアカデミーとは何かと訊いた時に言ってた、すぐに分かるという返事の意味に気づいた。


 このお城がアカデミーだったとは……。言われてみれば、門番も居ないし敷地内に兵士らしき人影は皆無だ。となると、皇女様とはどこにいるのだろう。


「すずめさん、こっちっスよー」


 ソラヅキさんの声に振り向くより早く、腕を掴まれアカデミーの奥へ奥へと駆け足で引っ張られる。途中、生徒たちの視線が部外者の一行である私たちに集まっている事に気付く。

 すれ違う生徒たちが皆足を止めて一礼をしたり、女子は黄色い声を上げたりしている。フユギリさんが先輩達は有名人、とか言ってた事を思い出す。

 このざわめきと眼差しは、この騎士達へのものなのだろう。そんな有名人と知り合いの私、ちょっと優越感。気持ち大きめに廊下を走る。


 突き当たり、全開になった扉の中へとアカデミーの生徒達が吸い込まれるように入っていく。どうやら目的地はあそこらしい。ソラヅキさんの引く力が更に上がると、一気に扉の向こうへ飛び込んで行く。


 賑わうその部屋は、どうやら学食の様だった。一番奥に調理場とカウンターがあり、十人位で囲えそうな四角いテーブルには白いテーブルクロスが掛けられ、前列後列に五台ずつ並んでいる。結構繁盛しているみたいで、後列はほぼ埋まっていて生徒たちが順番待ちで壁沿いに列を作っていた。 私はソラヅキさんと共に、列の最後尾に並んだ。


「すずめさんは何食べるっスか。ここの学食は世界各国から生徒が集まるっスから、誰にでも対応出来る様に料理の数も沢山あるんスよ。ここだけでアースガルズとヴァナヘイムの有名どころは全部味わえるっス。ちなみにボクはオムライスっス!」


 食べ物のことを語るソラヅキさんはとてもとても幸せそうだ。

 後ろで騒ぐ誰かを見たら有名人のソラヅキさんだった、正にそういったような表情で固まっている私たちが並ぶまで最後尾だった女生徒が何気なく目に入った。


 ソラヅキさんが何度も何度も言うので、私も気分はオムライス。そう思っていると、賑わいが突如歓声へと変わった。理由は簡単だ。駆け足で先に到着した私達にカタハナさん達が追いついたのだ。ソラヅキさんは素早く列に並んだために、余り生徒の目に留まらなかったが、カタハナさん達は、ヒメユキさん、ヤナギメさん、フユギリさん、そしてニコと集団で入って来たものだから一番に気付いた者が声を上げると学食内へ一気に広がったという事だろう。


 生徒達に一斉に囲まれたカタハナさん達。それとほぼ同時、「ソラヅキ様!」という声と共に私とソラヅキさんも囲まれてしまった。

 向こうとこっちでほぼ同時に騒ぎ立てる生徒。双方の間でどちらの島に取り付こうか彷徨ってる者が数名見られる。


「あ、握手してください!」


「はいっスー」


 ソラヅキさんが快く応じると、それで気兼ね無くなったのか「私も!」と無数の手が差し出される。騒ぎの中、気づくと私はソラヅキさんを囲む人塊の外まで追いやられていた。しかし、この四騎士のお陰で列に並んでいた生徒も皆集まったので、学食のカウンターがガラ空きとなっている。チャンスは逃さない。それが良い女の条件。


「オムライス一つ!」


 颯爽と空いたカウンターまで行くと、カバンに入れた封筒からお札を一枚人差し指と中指に挟み華麗に取り出す。イメージはブルジョワの「カードで」だ。


「あいよ。はいお釣りね。七番で待っといてね」


 恰幅のいいおばちゃんにお釣りと言われ数枚のお札と硬貨、それと数字の『7』が書かれたプラスチックのカードを渡される。お釣りは封筒に入れ直した。


「三番出来たよ、持っていきなー!」


 よく響く大きな声に呼応するように、カタハナさん達の集団に紛れ込んでいるらしい誰かから「はーい」と返事だけが聞こえた。

 カウンターに置かれたトレーには、3と書かれた立て札と共に、ふんだんに野菜の使われた餡かけ焼きそばがゆらゆらと湯気を立てている。正に出来たてといった風でとてもおいしそうだ。


 さて、私は席を確保してオムライスを待つとするか。そうしてカウンター近くに適当な空席を見つけて腰掛ける。


「三番でーす」


 餡かけ焼きそばを取りに来た生徒と振り向きざまに目が合う。同時にその容姿に目が囚われる。制服からすると男子なのだが、そこらの女子が霞むくらい可愛らしい顔立ちだった。中性的な美少年、これほどの希少種に逢えるなんて流石魔法世界。


「あれ?」


 その少年と目が合うと同時に激しく見つめられる。通り過ぎたかと思ったら振り返り見つめ直してくる。私が余りにも可愛すぎて見惚れてしまったのだろうか。罪な女だ。


「あ……!」


 何かを思い出したのか零れる様に呟くと、少年は隣のテーブルに餡かけ焼きそばを置きカタハナさん達の人塊に突撃していった。


「何だったんだろう……」


 私自身も、何か少しだけ引っかかるところを感じつつオムライスの出来上がりを待ちながら、ソラヅキさんとカタハナさん達を囲む生徒を眺める。


 少しずつだが、満足したのであろう生徒がテーブルに戻り四騎士の話で仲間同士盛り上がり始める。握手出来た、だとかサインもらっちゃった等と楽しげに話している。


「七番出来たよ、持っていきなー!」


 七番、私だ。すぐさま立ち上がり七番の立て札のトレーをしっかりと掴み、テーブルに戻る。


 ぱらりと炒められたチキンライスの上にふっくらと綺麗なオムレツがぷるるんとのっている。赤いケチャップが波をうつようにかけられていて、卵の甘い香りと相まってお腹がきゅるりと反応した。


「あー! すずめさんもオムライスっスね! 何度見ても絶品っスねー」


 いつの間にか、ソラヅキさんが後ろにいた。私の背に乗りかかるようにしながら頭の上から顔を覗かせオムライスを絶賛している。


「皆さん大人気なんですね」


「そんなこと無いっスよ。ただちょっとだけアカデミーで仕事する事が多かっただけっス」


「アカデミーで仕事ですか?」


「そうっス。店の当番じゃない日は訓練したりアカデミーの野外実習の手伝いなんかしてるんスよ」


「へー、皆さんが一緒なら安心ですね」


「いやぁ、これが結構緊張するんスよー」


 これ程の騎士が緊張するとは、それほどまでに野外実習というのはすごいものなのだろうか。魔法の世界のアカデミー。これは楽しそうだ。


 きゅるりと小さな音が聞こえた。だがそれは私ではなく後ろからだ。


「お腹鳴っちゃったっス。すずめさんが見せ付けるからっスよー」


 言うと私の背中からあっという間にカウンター前へと移動したソラヅキさん。無駄に素早い身のこなしだ。


「オムライス二つちょうだいっスー」


 普通に二つ頼むあたり流石ソラヅキさん。そんな事を考えながら後頭部に残るソラヅキさんに見せ付けられた柔らかかった感触に少し嫉妬する。


「あ、すずめさんもオムライスなんですねー。おいしそうですー」


 周りの騒ぎも少し落ち着いただろうか、フユギリさんがひょっこりと顔を出した。


「ソラヅキがあんだけ言ってたら食べたくなっちゃうよね」


 すぐ後にヒメユキさんも顔を覗かせ私のオムライスを見つめる。カタハナさんとヤナギメさんも同意するようにしきりに頷く。


「こいつははじめて見る食い物だな。俺もそれにしてみるか」


 そして全員がオムライスを頼むという何とも仲良しな結果となった。


 それぞれが注文して、全員分のオムライスが揃う。三人と四人で向かい合う様に席に着くと、皆でいただきますをする。

 スプーンを手に取り端っこからオムレツとチキンライスを掬おうとした瞬間に、勢いよく手首を掴まれた。


「すずめさん!」


「なんですかっ!?」


 右隣りのソラヅキさんだった。ソラヅキさんは真剣な表情で私の手首を掴んだまま、スプーンの動きを誘導する様に動かしていく。


「このオムライスは……こうやって食べるっス!」


 スプーンは、上にのったオムレツの中心を横になぞるように切り込みを入れていく。するとそこから上下にトロッと半熟の卵が拡がりチキンライスを覆い隠した。


「おお、これはプロの技ですね」


「そうっス。ここのオムライスは最高なんス」


「ほー。面白いなそれ」


 ニコも見たままにオムライスをひらく。他の皆はと見てみると、もうひらいて食べ始めていた。フユギリさんに至ってはすでに頬にケチャップを付けている。頬張る様に食べるその幸せそうな笑顔はやはり可愛らしい。生意気な弟よりこんな妹が欲しかった。そう思いながら和む。


「あのっ…………!」


 声がした方に皆で同時に振り向くと、そこには生徒と思われる女の子と先ほどの美少年がいた。


「えっと……その……あの……ですね……んっと……」


 目線を泳がせるその様から女の子は緊張している様で、言葉尻が少しずつ小さくなっていく。まあ、有名人に揃って見つめられれば、私だって少しは緊張してしまうかもしれない。有名人なんて今までの人生で会った事ないけど。


「お……お~~……お……」


「おー?」


 フユギリさんが小首を傾げながら女の子の言葉を繰り返す。カタハナさんやヒメユキさんも言葉には出していないが、少し傾げ気味だ。


「お邪魔しましたー」


「違う違う違う。もう僕が言うからね。いいね?」


「ううん……。が、がんばるよ。がんばるから」


「分かったよ」


 胸のあたりで両手をぎゅっと握り、真一文字に口を結び気合を入れる様に強く瞬きをした少女が一歩前に出た。


「あ……、ありがとうございました!」


 言い終わるのが早いかどうかのところで、勢いよく頭を下げる少女。後から追いかけるように綺麗な明るい栗毛色の髪がふわりと舞った。

オムライスっておいしいですよね。

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