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王道の職業。それは大魔導師フラグに違いない。 Ⅰ

六十四



 とにかく運が良かった。それがカタハナさん達の話を聞いていて思った感想だった。


 私が降り立った森は無数のアクゼリュスが潜伏している定番の場所だったらしい。それほど強力なのは滅多に居ないが丸腰で森に入るというのは無謀でしかなく、実戦訓練などで利用されたりもするような場所の様だ。


 意気揚々と遺跡探索して、ゲームのエンカウント的な感覚でアクゼリュスと戦っていた。アクゼリュスを倒して回るハティの手伝いになるとも思っていたが、力試しがしたかったのも確かだ。魔法の特訓をしていたら何となく、初めて出会った熊くらいの相手ならどうにかなるという手応えあった。だから冒険に出たわけだが……。


 話の途中で「すずめさん程の実力があれば大丈夫だと思いますよ」とカタハナさんに言われ事で私の実感はより確かなものになり、その言葉に少し安堵していた。


 ちなみに、カタハナさん達だけでなくニコも私の世界について興味深々なようだ。特に電子技術関連について色々と訊かれた。正直その方面には疎いので詳しい事は話せなかったが、それでもニコは何度も考え込むと「なるほど、なるほど」と呟いていた。

 食文化は、それ程の違いはなさそうだ。主食はパンや米、都市から離れると芋がメインになるらしい。まあヤナギメさんの家で食べたご馳走からしても気になる様な相違点はなかったので、この点で困る事はなさそうだ。




「えっと、それでは話を戻しましょうか」


 カタハナさんから書類とペンを渡される。例の如く理解の出来ない記号模様が紙面で踊っていた。


「すずめさんのフルネームを教えてもらっていいですか?」


「えー、森野すずめです」


「モリノ……スズメ……っと……」


 私の名前を呟きながら、カタハナさんは白紙の紙に文字の様なものを書いていく。


「えっとですね、これでモリノスズメと読むので、これを……ここに書き写して下さい」


 カタハナさんは私の受け取った書類の上部の空欄を示しながら、私の名前が書いてあるらしい紙を隣に置いてくれた。

 なるほど、こうすれば文字が書けなくても書類にサインできる。一人頷いていると、隣でニコはさっさと書き上げてしまっていた。


 余裕しゃくしゃくのニコを後目に、カタハナさんに教えられながら書類をなんとか書き上げる。


「では、こちらが届いた報奨金です。確認してみてください」


 カタハナさんに渡されたのは、まさかまさかの茶封筒。表には何かが書いてあるがもちろん読めない。


 まあどうせ、報奨金だとか何とか書いてあるのだろう。そんな事よりお金だお金。

 若干、興奮しながら糊で留められてる口を開けて中身を取り出す。


「おお!」


 出てきたのは結構な札束だった。もちろん見覚えなどないが数字だけは分かる。これは……、一・・・十・・・百・・・。


 一万! 一万のお札がいっぱいある! 一体いくらあるんだ。




 …………。




 百枚だと! つまりこれは百万。フユギリさんに聞いた物価は、日本円とほとんど変わらなかった。つまりこれは百万円。


 ……テンション上がってキタ!


 こんな大金手にした事なんて無い。月のお小遣いが五千円の今まで普通の高校生だった私は、少し手が震えてきている。


 いつか買ってやると思っていたローブが、もう今すぐにでも買えてしまうこの状況。どうやら私はこの世界に愛されているらしい。威厳たっぷりのローブを纏う賢者の如き神々しい私の姿が眼に浮かぶ。ついでにご馳走をほお張る姿も浮かぶ。


「すずめさん、色々大丈夫ですか?」


「え、ああ……はい大丈夫ですなんの問題もありません」


 カタハナさんの一言に我に返るとお金を封筒に戻し、無くさないようカバンの中にあるチャックで閉じられる別ポケットに大事に大事に入れておく。


「さて、それでは丁度いい時間ですので、皆でお昼ご飯を食べに行きましょうか」


「賛成ですー」


 真っ直ぐピシッと右手を上げならがフユギリさんが答える。


「いいっスね。折角なのですずめさんとニコさんに、ボクのオススメなお店を紹介するっスよー」


 休憩室の扉を勢いよく開き、突如として現れたソラヅキさん。まあ、ヤナギメさんがここに居るところからしてもうじき来るとは思っていた。


「あたしも行くからね!」


 続く様にソラヅキさんの肩越しに、ヒメユキさんが姿を見せた。


「ヒメさん、治療院はもう終わったんスか?」


「特に問題無しだって。だからもう大丈夫」


「で、次はいつっスか」


「な……何の事だか……」


 急に表情を一変させたヒメユキさんは逃げる様にソラヅキさんから離れると、休憩室の奥へと向かおうとする。……はい残念カタハナさんに捕まった。


「えっとー……」


「ああ、ダメー!」


 カタハナさんはヒメユキさんのピンクのパーカーのポケットから何かを取り出すと、それをソラヅキさんに投げ渡した。


「ハナさん、ナイスっス」


 ソラヅキさんは受け取った物から一枚のカードを取り出した。カタハナさんに捕まったままのヒメユキさんは抵抗を試みているが完全に封じられている。


「三日後っスね」


「ちゃんと行くのよ」


「あい……」


 どうやらあのカードは診察券か何かの様だ。ソラヅキさんは抵抗を止めて力無く返事をするヒメユキさんのパーカーのポケットにそっとカードを戻した。


「カタハナー。あ、皆揃ってるね。私たちそろそろ休憩入るけど、そっちはどするー?」


 開きっぱなしの扉からコトノハさんがひょっこりと顔を覗かせた。


「こちらも今からお昼ご飯に行くところですよ」


「そっかそっかー。どこに行くかは決まってるの?」


 そんな会話を続けながら、コトノハさんが私の後ろにやってきた。


「ソラヅキお薦めのいつもの所です」


「ああー、いいね。オムライスが絶品だよね」


 絶品、のところでコトノハさんにぎゅっと抱きしめられた。ただ、何となくこうなる事は分かっていたので驚かない。紗由里の行動パターンと一緒だ。


「そうなんスよ! 安いし大きいし美味しいんス。最高っスよ」


 ソラヅキさんが幸せそうに笑み崩れている。オムライスか……。


「あ、そうだ。丁度学長先生に届けるものがあったんだけど、代わりに渡しておいてもらってもいいかな?」


「ええ、構いませんよ」


「ありがと、じゃこれを……」


 そう言うと、コトノハさんは私の襟首を引っ張り、


「ちょっ、何入れたんですか!?」


「ひ・み・つ。じゃあよろしくねー」


 背中に何かを入れられた。そしてコトノハさんに激しく頬擦りされると、当の本人はそのまま逃げる様に退散していった。


「あ、副隊長どこいってたんですか。また誰かに迷惑かけてないですよね?」


 外からあの常識人の声が聞こえた。悲鳴染みた声と共にコトノハさんが引き摺られて行くのが、なぜか鮮明に想像できた。


「俺が取ってやろうか?」


「結構です」


 手を怪しく動かすニコを警戒しながら、服の中に入れられた何かを取り出す。


「これは……」


 アニメやマンガ、映画などでたまに見かける、蝋で封をして印を押してあるあの偉そうな封書だった。宛名らしきものが書いてあるが例の如く読めるわけがないので、そのままカタハナさんに手渡す。


「ありがとうございます、すずめさん。まったくもう、コトノハったらしょうがないんだから」


 しょうがないで済ましてしまうあたり、これもまたいつもの事だったのだろうか。この世界の住人は、みんなクセが強いな。


「それじゃあ早く行くっス。オムライスが売り切れちゃうっスよ!」


 急かすソラヅキさんはすでにエプロン姿からカットソーとホットパンツに着替え終わっている。ソラヅキさんの目的はオムライスらしい。あの食いしん坊のソラヅキさんの事だ、かなり美味しいのだろう。そう思うと私もオムライスが食べたくなってきた。


「はいはい、じゃあ着替えてくるから先に外で待ってて」


 立ち上がったカタハナさんとヤナギメさん。奥の部屋の扉を開けるとカタハナさんが振り返ると、


「そういえば、すずめさんの服ってアカデミーの制服に少し似てますね」


 そう言い残して扉が閉められた。


「そういえば、そうっスねー」


 言いながらソラヅキさんとフユギリさんに制服をあちこちひっくり返され始める。スカートをめくられる直前に、どうにかニコへの牽制カバンが間に合った。


「あの、そこは制服とは関係ないと思いますが……」


 しゃがみ込んでスカートを持ち上げたままの二人は、明らかにパンツを見ている。少し見えちゃった程度ならなんて事の無い私だが、ここまでガン見されるとやはり恥ずかしい。


 どさくさに紛れてしゃがみ込むニコに前蹴りを食らわすと、そのまま身を引き立ち上がりながらスカートを押さえる。


「もう勘弁してください」


「残念っスー」


「残念ですー」


 二人は心底残念そうに呟いた。


 さて、元はといえばアカデミーの制服に似ているという事だったが、そもそもアカデミーとは何ぞや? 私のイメージでは学問関係の施設に使われている言葉だった気がする。そして高校の制服に似ているというと、やはり学校のような施設であろうか。


「ところでアカデミーってなんですか?」


 色々考えたが結局訊いた方が早いだろうと、ソラヅキさんに質問する。


「アカデミーっスか。もう見た事あると思うっスけど、まあすぐ分かるっス!」


 そう言うが早いか、またもソラヅキさんに腕を取られると、そのまま引っ張られながら店を飛び出した。見た事があると言ったが、はて……学校の様な建物なんてどこかにあっただろうか。


 急激な光量の変化に少し目を細める。ゆっくりと目を開いていくと、大通りの雰囲気が随分と変わっていた。通りのあちこちに露天や屋台ような馬車が並び賑わいをみせている。それぞれに人が押し寄せ、街着のようなシック装いやエプロン姿の人達の中に鎧やローブを纏った人が混ざっている光景は、何とも心が躍る。

 どうやら色々な食べ物を売っている様で、バーガーや丼、四角いケースなどが見かけられた。


 今この街は完全にお昼ご飯タイムみたいだ。店の前にいた職人達も、もう休みに入っているようで姿は見えず、作業用の道具などが一箇所にまとめられている。


「早くするっスよー」


 扉から店内に向けて呼びかけるソラヅキさん。またじっとしてられない様で足踏みを繰り返している。

 治療院で分かれた後の事をヒメユキさんと話しながら一分ちょっと待っていると、カタハナさんとヤナギメさんが出てきた。


「お待たせしました」


「おまたせでーす」


「さ、早く行くっスよ!」


 早々に歩き出すソラヅキさん。皆で顔を合わせると、やれやれといった感じで後に続いた。


 ソラヅキさんオススメの店とはどんな所なのだろう。そう期待していると、ソラヅキさんに続き皆が格子の門を通り、そのままお城の敷地内へと入っていってしまった。一瞬躊躇するも、皇女様と知り合いらしい皆がいるのだから何かあっても大丈夫だろうと思い、小走りで追いかける。


 どう見ても一行は真っ直ぐとお城へ向かっている。カタハナさんもヒメユキさんも何を食べようかと話している。フユギリさんはシャーベットやゼリーがオススメらしい。ソラヅキさんはオムライス一択のようだ。ヤナギメさんはいつも通りニコに取り憑いている。もしかして、食事前に私の事を皇女様に伝えに行くのだろうか。


 まあ、付いていけば分かるか。

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