常識について、教えてください。 Ⅷ
六十三
「まず一つ。昨日のようにアクゼリュスが街を襲うことは、ここでは珍しい事じゃないのよ。まあ、魔獣が来るのは稀なんだけどね。いつもは大抵アクゼリュスの集団だから私のチームやカタハナのチームでどうにかなるの。というより、私たちやカタハナ達じゃないとちょっと危ないかな。
だからこそ皇女様にこの店を任されている訳だけど、そもそもの本業は騎士だから二チームで訓練と店番を交代しながらしてるってわけなのよ。だから私も店長、カタハナも店長なの」
「はぁ、なるほど」
チーム交代制で営業とは、なかなか特殊な店だ。最低限守れるだけの戦力は必要だけど、それだけの力を持つものはそういった職に就いているだろうから、店をメインで任せる事も出来ないだろうし。だから半々にしてるという事か。
昨日カタハナさんが言ってた、皇女様直々に頼まれたという事も頷ける。
そうなると、この店は国営になるのかな。本当に特殊な店だ。
「あ、すずめさん、ニコさん。お待ちしてました」
噂をすれば塔の中からエプロン姿のカタハナさんが出てきた。髪をツンツンに逆立てたエプロン青年も一緒だ。初めて会うが、彼も店の人だろうか。
「あー、またやってるんですか副隊長。フユギリさんと……と、こちらのお方は?」
「どうも、すずめと申します」
コトノハさんの胸元辺りから返事をする。
「ああ、貴女がすずめさんでしたか。初めまして、クウカクです。お話は伺っています。あ、そちらの方がニコさんですね。どうぞよろしくお願いします」
「ん、ああよろしくな」
そっけない。男相手だとこうもそっけないのか、こやつは。
しかしこのクウカクさんという人物。見た目はチャラいが、話し方からすると真面目そうだ。
「さあ副隊長、早く戻って手伝ってください」
クウカクさんはそう言いながら、手際よく私とフユギリさんをコトノハさんの魔の手より開放してくれた。この人良識人だ!
「ああー、せめてもう一回チューさせてー」
「なっ、そんな事したんですか。いつか訴えられますよ」
クウカクさんは、コトノハさんを引きずるように店内へと連行していった。お姉さん的な見た目に反し駄々っ子のようなコトノハさんは少々認識を改めておこう。
「ごめんなさいね。すずめさん。コトノハさんってすごく一直線な性格だから。ただの好意からの行動だから、出来れば大目にみてあげて」
「大丈夫です。慣れてますから」
紗由里のお陰でセクハラ紛いの事についてはもう紗由里とニコが同着一位なので、どうという事はない。
「それではすずめさん、ニコさん。報奨金が届きましたので受け取りをお願いします」
「はーい」
「ふむ」
「フユギリも案内ご苦労様」
「えへへー」
カタハナさんの隣でコロコロと笑顔を浮かべるフユギリさん。私とニコは、そんな二人の後に付いて店内へと入る。途中、いかつい男達の視線が集まり、なんとも気恥ずかしい気持ちになる。学校の制服では、この世界では浮きまくりだ。やはりまずは衣装しかない。報奨金で格好いいローブを買うのだ。
店内には、見知った顔のソラヅキさんやヤナギメさんが忙しそうに駆け回っている。他にも職人気質な人たちが棚を組み上げてたり、脚立をたてて壁や天井の補修をしたりしている。
だけど売り物であるはずの、数多くの武器防具は見当たらない。どこかにしまっているのだろうか。残念だ。是非とも吟味したかったのに。
それにしても、昨日の惨状から今日でこの仕上がり方となるとほんの二、三日で元通りになりそうな勢いだ。やはり、慣れているからだろうか……。
「ニーコーさーまー!」
塔の内部は三階までは吹き抜けになっているため、二階に居たヤナギメさんがこちらに気づきニコの姿を見つけると、そこから手すりを乗り越え壁を蹴り飛び降りた。着地の衝撃をまったく感じさせずエプロンだけがフワリと舞うと、滑るように作業中の人たちを躱し疾走してくるその様は、無駄に能力の高さを窺わせる。さすが、守護なんとかの一人。とはいえどうにも能力の無駄遣いに見える。
「ほら、まだまだ片付ける物はいっぱい残ってるっスよー」
感心しながら呆れていると、どこからともなく現れたソラヅキさんがヤナギメさんを担いで去っていった。
「ニーコーさーまぁー!」
悲鳴じみた声はすぐに聞こえなくなり、代わりに遠くからなぜかフユギリさんに対する恨み言の様な声が小さく響いてきた。
「ふむ、俺も罪な男だな」
「淫行罪だけどね」
「ヤナギメ先輩が怖いですー」
フユギリさんは響いてくる声に怯えていた。声は同じ事を繰り返している。『ニコ様とデート、フユギリ許すまじ。ニコ様とデート』といった具合だ。
「まったくもう……、いつもああなんだから」
カタハナさんが溜息を吐きつつフユギリさんの頭を撫でる。フユリギさんも大変だなと、少しだけ同情する。
それから、カタハナさんに付いてカウンターまでいくと、カタハナさんはそこの下から黒い箱を取り出し開く。
「えっと、まずこちらが受取証で、こっちが解体証書です」
渡されたはいいが、もちろん読めない。どうすればいいのだろう。
「ハナさんハナさん」
真上から声がして見上げてみると、器用にエプロンを脚に挟みながら、ソラヅキさんが逆さまになって上の階からカウンター内を覗き込む様に身を乗り出している。カタハナさんもソラヅキさんの姿を見て、何かを思い出したかのように「ああ!」と、声を上げた。
「そうでした。字が読めないんでしたよね」
「です」
「すずめさんの事、大方は説明しといたっス。皇女様にはハナさんが話を通してくれるっスよ」
そう言うと、ソラヅキさんは再び作業に戻っていった。
「異世界人、だったんですよね」
「そうなんですか!?」
カタハナさんが声を抑えて言うと、フユギリさんが驚きの声を上げる。
「どこから来たんですか?」
声が大きいとカタハナさんに注意されつつヒソヒソとフユギリさんは質問を開始する。
「日本ってところからです」
「ニコさんもそうなんですか?」
「いや、俺はこの世界出身だ」
「それではお二人はどうして出会ったんですか?」
「簡単に言うと、俺を閉じ込めていた檻を開けてくれたのがすずめだな」
「檻……ですかー? ニコさんは悪い人なんですか!?」
そう言うとフユギリさんは少し怖がる様にカタハナさんに半身を隠しながら続ける。本当によくコロコロと表情の変わる子だ。見ていて微笑ましい。
「そんなんじゃないさ。単に寝過ごしただけだ」
「寝過ごした……ですかー?」
あながち間違ってはいないが事情を知らなければ分からなさそうな言い回しだ。案の定、フユギリさんは小首を傾げている。良く見るとカタハナさんも小首を傾げていた。
「ニコさんはすずめさんが異世界人だって知っていたんです?」
「ああ、ハティの奴に聞いてたからな」
「ハティさん……そのハティさんという方も異世界人なんですか?」
「いや、俺と同じこの世界出身だ。あいつは森の見回りが趣味みたいなもんでな、その途中ですずめを見つけたって事らしい」
「すずめさんは森に飛ばされてきたんですね。見知らぬ森の中だなんて大変だったんじゃないですか?」
「そりゃもう色々と」
フユギリさんは異世界に興味深々といった具合で次々と質問を投げかけてくる。内容も飛びまくっている。
しかし流石にここでは大っぴらに話すのは避けた方がいいという事で、カタハナさんにカウンター奥の休憩室へと通された。そこで私とニコは、フユギリさんと、それに便乗したカタハナさんに更に質問攻めにされる事となった。
昨日の、ソラヅキさんとヒメユキさんもそうだった様に一喜一憂しながら話を聞く二人が嬉しくて、家族の事、友人の事、学校の先生の事など、どうでもいいような話題も話した。
この世界の学校も、小、中、高、大あるという似た様なところや、フユギリさんと話した警察や軍など、結構違う事もあったりで、私も色々と聞いたりもした。
ニコについての話もした。主な質問者はカタハナさんだ。やはりニコの尋常ならざる強さが気になるらしい。
気づくと、ヤナギメさんがニコの隣に座っていてちょっとだけ戦慄を覚えたが、まあ彼女の事なのでそれほど気にするのも無駄だと思った。
遂に更新が執筆に追いついてしまいました。
更新頻度が下がってしまいます。スイマセン。
現在鋭意執筆中!




