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持つべきものは、ブルジョワなお友達だね。 Ⅷ

五十五



「主神オーディン。その武器グングニルっスか。すずめさんの魔法の名前カッコイイっスね。今度ボクの魔法にも名前を付けて欲しいっス」


「構いませんよー」


「やったっスー」


 コンコンと扉からノックの音が二回した。

 ゆっくりと開いていく扉の先には、あの執事さんが居た。


「皆様方、失礼致します」


 円卓で寛ぐ皆を見回し渋い微笑みを浮かべる。執事さんはやっぱりダンディーだ。


「お食事の方はお済みでしょうか。寝室のご用意が出来ましたので、皆様の準備がよければご案内いたします」


「お願いします!」


 ほとんど寄りかかった状態のフユギリさんを抱えながらカタハナさんが即答する。

 次は寝室か、いったいどれほどのベッドなのだろうか。楽しみだ。

 私もソラヅキさん、ヒメユキさんとの会話を一旦切ると傍らに置いておいたカバンを肩に掛ける。


 食べ過ぎによる身体の重さは余り解消されてはいなかったので、もう暫くゆっくりしててもよかったのだが、少しだけがんばってベッドの上で落ち着くのもありだろうと思い歩き出す。


 執事さんの後を追って円卓の間を出ると、ヤナギメさんは数人のメイドさん達に囲まれて連れていかれた。名残惜しそうにニコを見つめていたが、意を決したかのように、走り去っていった。


 階段を三度上がり廊下を突き進む。途中いくつもの扉の前を通り過ぎたが、扉の数よりも廊下の途中に置かれている装飾品や調度品の数に驚く。

 紅い絨毯や絵画はもはや当たり前。ブルジョワの代名詞ともいえる全身甲冑や、人の背丈ほどあるカラフルな壷、剣と盾のプラークと輝く小ぶりなシャンデリア。

 ここはハリウッドスター御用達の三ツ星のホテルか何かでしょうか。


「ヒメユキ様、ソラヅキ様はいつものお部屋でよろしいですか?」


「はい、大丈夫です」


「よろしいっスー」


「カタハナ様とフユギリ様は如何致しましょう。本日も同室でございますか?」


「はい、同じ部屋でお願いします。この子、一人にすると着替えずに寝ちゃうんで」


「では、こちらの部屋へ」


 執事さんが高級感漂う木製の扉を開くと、花の様な香りが部屋から漏れ出してきた。なんとも心地の良い香りだろう。扉の奥にチラリと白く小さな花が沢山活けられた花瓶が見えた。私の記憶通りであれば、あれは多分カスミソウだ。異世界で同じとは思えないが見た目は一致している。


「クリームは多めでお願いします~」


 一体何の事だ。突然に脈絡のないことを言い放つフユギリさん。だが良く見ると……寝ている。


「もう、この子ったら……、お先に失礼しますね。おやすみなさい」


 そう言いカタハナさんは部屋の中へとフユギリさんを担いでいった。


「さて、ボクも先に行ってるっスね」


「じゃああたしも。また後でね」


 そう言いヒメユキさんとソラヅキさんは勝手知ったる他人の家の如く、それぞれ扉を開き部屋の中へと入っていった。


「では、こちらがすずめ様のお部屋になります」


 私が案内されたのはソラヅキさんの部屋の隣。若干スター気分に浸りながら案内された部屋は、気分を更に加速させた。


 ここにもあったかシャンデリアから始まり、ふっかふかのソファーに大理石製のテーブル、バーのようなカウンターの後ろに各種ボトルが並んだ棚がある。

 奥には大きな窓が一面に広がり両脇に黒いカーテンが寄せてあった。


「すずめの護衛として、同室を希望する!」


「それはそれは、気づかず申し訳ありません。ニコ様も同室の方がよろしかったですか?」


「どこかの馬小屋にでも放り込んでおいて下さい」


「そりゃないぜー」


「ニコ様。当家の厩舎は人でも大変心地よく過ごせるよう整備されていますのでご安心ください」


「ちょっ、まじか!?」


「冗談でございます」


「くふふふふっ」


「勘弁してくれ」


 真面目そうな執事さんでも冗談を言うらしい。慌てたようなニコの姿につい笑ってしまう。


「ではすずめ様、ごゆっくりお寛ぎ下さい」


「ありがとうございます。またね、ニコ」


「おーう」


 扉を閉めると同時に駆け出し、天蓋付きのベットにダイブする。


「きゃっほー!」


 ボヨヨンという反発の心地よさに揺られながら疲れた身体を休めるべく、暫くの間ベットの上でゴロゴロする。

 少し遠目から扉を開閉する音がした。どうやらニコはすぐ隣の部屋に案内されたようだ。


 少し落ち着いたところで、この豪華な部屋を散策するべく立ち上がる。

 まず向かったのはカウンター裏の棚だ。見上げるほどに沢山のボトルが並び、そのどれもが高そうな気配を感じさせる。カウンターはどうやらキッチンになっている様で、引き戸の中には調理器具が揃っていた。ちょっとした酒のつまみでも作れる様にだろうか。


 高級感漂う絨毯の上をうろついていると、出入り口とは違う扉を見つけた。開けてみると、白い円筒形の物体と、何となく見覚えのあるレバーの付いた白い四角い物体があった。円筒形の方には蓋が付いており上に開けてみると、ここが何なのかすぐに分かる。


「へぇ……これがこの世界のトイレか……」


 便座があり中心部分に水が溜まっている。ばっちり水洗式だ。壁には見覚えのあるロール紙。研究所のトイレより分かりやすくて良い。


 折角なので用を足してからトイレを後にすると、そのまま窓の方へと向かう。綺麗な星空に、静かな街並みが広がっている。


「はぁ……」


 思わず溜息が出る。窓に写る自分のローブ姿を見て、本当に魔法の世界に来たんだなと再確認した。これはコスプレではない。


「ふむ、私の力を借りたいと」


 私に助力を求めてくる高名な勇者に答える。今私は、大賢者だ。鏡の様に姿を反射する窓の前で一旦後ろを向くとローブを翻しながら振り返る。


 私、超セクシー。




 二回、扉を叩く音が聞こえた。


「すずめさーん。続きを聞かせて欲しいっスー」


「ブラックホールについてもっと詳しく!」


 同時に、ソラヅキさんとヒメユキさんが部屋に飛び込んでくる。この間一秒も無かった。


「あ……」


「……ぷっ……」


 窓の縁に腰を掛けて、中身の無いワイングラスを傾けながら星空に乾杯している状態でご対面。せめて体勢を直す時間は欲しかった。


「またやってたんスか……すずめさんっ……」


「すずめさんに、それはまだ早いと思うよ……っ」


「うあーーー、笑うなーー!」


 フードを目深に被り部屋の隅っこで丸くなる。タイミングの悪さに頭を抱える。


「ごめんっスよすずめさん。でもボクは、すずめさんみたいな人好きっスよ」


「あたしも。可愛いと思う」


「ホント?」


 二人の慰めの言葉に顔を上げ振り向く。


「ボクも子供の頃は、兄さんの訓練用の木刀をこっそり持ち出してよく何かと戦ってたっス」


 二人に手を引かれながら立ち上がる。どうやら部屋で着替えてきた様で、二人とも浴衣を着ていた。


 ……浴衣!? どちらかといえば西洋っぽい雰囲気が多数あった中で、こんなところで和に出会う。何ともミスマッチな気もするが、スタイルの良い二人が着ると非常に艶っぽい。


 くふふふ、ローブは体のラインが誤魔化せるのがいいな……。くふふふふ……。


「すずめさんは、まだ着替えてないんスね」


「ええ、まあ」


「早く着替えて、早く続きを!」


 そう言った二人の仕事は早かった。ソラヅキさんにベルトを外されヒメユキさんにローブの裾を掴まれると一気に捲り上げられる。

 二人のコンビネーションを、まさかこのタイミングで自らの身で味わう事になるとは思ってもみなかった。


「なーーーーっ!」


 その後、右腕を取られ振り飛ばされると、ソラヅキさんに受け止められ、どこから持ってきたのか浅葱色の生地に白い百合が咲き誇る浴衣をそのまま着付けされる。


 あっという間に、森野すずめ浴衣バージョンの完成です。

 ベッドに腰掛けて乱れた髪をヒメユキさんに梳かれながら一息つく。壮絶な着替えは三十秒も掛からず終結した。


「さぁすずめさん」


「お願いするっス」


 二人の興味は、かなりのものなのだと実感しながら、それぞれの望む話の続きを始める。


 ソラヅキさんには、北欧神話。トールの勇ましさに感銘をうけたらしい。


「決めたっス。雷属性の鎚を作るっスよ。武器名はミョルニルで決定っス!」


 瞳を子供のように爛々と輝かせながら、握り拳を振り回している。


 ヒメユキさんには、ブラックホール。そのとてつもなく壮大な規模に興奮気味だ。


「光も逃げられないほどの重力の星……。もしかしてこの空の上にもあったりするのかな!」 


 ベットをぼよよんぼよよんと揺らしながら外の星空を見上げてヒメユキさんが言う。

 ここまで楽しんで聞いてもらえると、何とも気持ちがよかった。


 三人で夜遅くまで話し込むと、そのまま三人並んで眠りにつく。思いのほか、ソラヅキさんよりもヒメユキさんの方が寝相が悪く、いつの間にか抱き枕代わりにされるが、私も大分疲れていたので特に気にはならなかった。


 ソラヅキさんと同じほのかな石鹸の匂いと柔らかな感触に、お母さんのような心地よさを感じながら、ゆっくりとまどろみ、優しい夢に落ちていった。

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