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持つべきものは、ブルジョワなお友達だね。 Ⅱ

四十九



 廊下の中ほどにある暖簾の前で執事さんが立ち止まる。はて、ここだけ和風なのは何故だろうか。


「ではこちらが脱衣所となります。ご婦人方は左側、殿方は右側となっております。お着替えの方は後ほどお持ち致しますので、お召し物は、カゴに入れておいて下さい。では、ごゆっくりどうぞ」


 言い終わると執事さんは一礼して去っていった。私も小さく頭を下げると後姿を見送る。


 振り返ると、ニコがこの世の終わりといった表情を浮かべていた。それというのも脱衣所が廊下を挟んで左右に分かれているからだと思われる。浴場が壁一枚で仕切られているという状態ですらないのだから、ニコが期待していたのであろう覗きチャンスは華麗に叩き潰されたのだ。

 実はお風呂の方で合流するというラブコメ的展開の最後の砦すら、この入り口で完膚なきまでに粉砕している。ざまあみろ。

 まあ、お嬢様であろうヤナギメさんと、その友人たちを変態と共にお風呂に入れるわけがない。執事グッジョブ。


「なあすずめ、交代しないか?」


 何をだ。


「却下する」


 右側のドアを開き、ニコを押し込み勢い良く閉めた。この間約二秒。


「では、私もご一緒に……」


 右の扉に手を掛けるヤナギメさんの襟をソラヅキさんが掴むと、ヒメユキさんが左側のドアを開きそのまま中へと連行していった。随分と手慣れたコンビネーションだ。これが何とか四騎聖の実力という事か。


 それからカタハナさん、フユギリさんと続き私も中へ入り確認の後ドアをしっかりと閉めた。


 まず視界に入ったのは、落ちてきたら間違いなく人が死ぬであろう大きなシャンデリアだった。キラキラと光っている。やはりお金持ちの象徴、シャンデリア、どこにでもあるな。


 一人感心しながら、沢山ある壁際のロッカーの一つへと向かう。ちなみに左から三つ目の中段だ。


 皆が、着衣を脱ぐとロッカーのカゴに放り込んでいく。私もそれに習って、制服を脱ぐ。途中、見るとカゴの隣にはタオルが置いてあった。取り出すと、大きなバスタオルと普通のタオルの様だ。なんと用意がいいのだろうか。

 上着とスフィアをカゴに入れてから、スカートのホックを外す。


「すーずーめちゃん」


 ヤナギメさんの声が聞こえたと思ったら、突如として背後から両胸を掴まれた。


「何ですか、ヤナギメさん」


「む……、反応が薄いー。カタハナちゃんだったら飛び上がるくらいビックリしてくれるのに」


 それは突然こんな事をされれば誰だって驚くだろう。だがしかーし、こういう事を日常茶飯事に繰り返す輩が私の知り合いにいた。そう、千林紗由里。その手の奇襲に慣れてしまった私は、ちょっとやそっとじゃ動じないのだ。


「そりゃまあ、慣れてますから」


「慣れてって……すずめさん、結構進んでたんですね」


 カタハナさんとヒメユキさんが頬を赤らめながら見つめてくる。何を言っているんだ。


「すずめちゃん、ずるいーー! せめて間接的にでも!」


 ヤナギメさんが正面に回ってくると突然抱きついてきた。本当に一体なんだっていうんだ!?


「ちょっと……! ヤナギメさん!?」


 身体を密着させたまま押し倒されると、その激しさは鮮明に紗由里を連想させる。


「そこまでっスよ」


「はいはい、そこまで」


 ソラヅキさんとヒメユキさんに引き剥がされるヤナギメさんは、諦めずに私の方へと手を伸ばし暴れていた。その余りにも真剣すぎる表情に少し引く。


「ああーー、ニコ様の感触がーー!」


「何度もごめんなさい、すずめさん」


 カタハナさんの手を借りて起き上がると、ソラヅキさんに羽交い絞めにされたヤナギメさんが、ヒメユキさんに何かを囁かれ真っ青になっているところだった。お母さんにチクるぞとかでも言われたのだろう。


「ごめんね、すずめさん。この子にはちゃんと言い聞かせておいたから」


 大人しくなってくれるなら何だって構わない。詮索しないほうがいい事もあるし。


「すずめさんって、すごく進んでるんですね。尊敬ですー」


 そうした中ふと気づくと、半裸のフユギリさんが熱い視線を向けてきていた。なぜ尊敬されているのか分からない。──……しかし……一目見た限り、フユギリさんとは仲良くなれそうだ!


「えっと、何の事でしょう」


「もちろん、すずめさんとニコさんのことだよ。慣れてるなんて、二人はもうそんな所まで進んでいたんだね」


 再考すること暫く、やっとヤナギメさんの奇行とフユギリさんの言動に合点がいった。


「違う違う! だから私とニコはそんなんじゃないから! 慣れてるって言っても、友達の紗由里が何度も同じ事してきてたってだけだから!」


「サユリさん、ですか。彼氏?」


「同性です」


「まあ、ボクはそんな事だろうと思ってたっス」


「それじゃあ、ニコ様とは……」


「何もあるわけが無いです」


「なーんだ、残念」


「残念です」


 ふっと冷めた様に着替えを済ますヒメユキさんとフユギリさん。その傍ら青ざめていたヤナギメさんの顔が、爛々とした輝きを取り戻していった。


 ニコとは何でもないと何度か言っている気がするが、他から見るとそう見えてしまうのだろうか。迷惑な話だ。


「それにしても、すずめさんの下着、可愛いですね」


「あ、あたしもそう思ってた」


「ほんとだ! もしかしてこれでニコ様を誘惑……」


「だから二人はそういう関係じゃないって言ってたじゃないっスか。でも、これは可愛いっスねー」


「この街では売ってないですよね。旅先の街で買ったんですか? 私も欲しいですー」


 みんなの視線が、私の下着に集中する。普通の白いソフトブラとパンツなのだが、どこが珍しいのだろうか。


 そう思いみんなの下着を見てみると、カタハナさんは白色、ヒメユキさんは黄緑色、ソラヅキさんは水色、ヤナギメさんは黒色、フユギリさんは桃色のスポーツブラととてもとてもゆったりとした一分丈のショーツだった。


 確かに、それらは可愛いという括りには当てはまらない下着ではあるが、私の下着だってお母さんがどこぞのデパートで買ってきたのをそのまま着用しているだけに過ぎない。これが可愛い等とは思った事は無かったのだが……、やはりこの世界では少し習慣と感性が違うのだろうか。


「この形に小さなリボンのアクセント、すっごく可愛いですー。すずめさん、どこで買ったんですか、教えて下さいー」


 フユギリさんが、私のブラとパンツを引っ掴み懇願してくる。そう言われても、この世界では多分売っていないだろうから教えようが無い。どう言ったものか……、そう考えながらパンツを押さえる。

 

「えっと、これはお母さんが買ってきたのだから、どこで買ったのかは詳しく知らないんです」


 嘘はついていない。実際、お母さんはどこかの店でバーゲン品を買って来ている様だ。まぁ余り下着にはこだわらないので特に問題は無い。


「そうなんですか、残念ですー」


 しょんぼりとしながらも、私の下着をいじり続けるフユギリさん。いつの間にかヤナギメさんも加わっている。そろそろ脱がされそうだ。


「あの……お二方……」


「ほーら二人とも、すずめさん困ってるじゃない」


「あ、ごめんなさいですー」


「すずめちゃん後で貸して、もっと良く見せて。うちの職人に同じの作らせるから!」


 渋々引き下がったフユギリさんと、ブルジョワ発言をするヤナギメさん。とはいえ、着用済みの下着を良く見せてというのは、ちょっと勘弁して欲しい。


「いえ、流石にそれは……」


「そうですよヤナギメ、私も気になりますが、流石に下着を貸すなんて出来ませんし」


「うん、そりゃそうだよね」


「むー、残念」


「さあ、それより早くお風呂に入っちゃいましょう」


「そうっスね。そして早くご馳走にありつくっスよ」


 カタハナさんとソラヅキさんは、そう言うと手早く下着を脱ぎタオル片手に浴場へ入っていった。


 ご馳走、それは非常に楽しみだ。おいしいとはいえ、缶詰は温もりに欠ける。


 ブルジョワな夕飯……こうしちゃいられない。


 私も二人に続き、下着を棚に放り入れるとタオルを引っ掴み浴場へ向かった。……この時の私は、ヤナギメさんとフユギリさんの先に入ってしまった事を後で後悔する事になるとは思ってもいなかった。

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