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ゲームでいうところの、なんとかハンターに似ている。 Ⅵ

四十七



「先輩方! 明日はアカデミーが休みなので、ばっちり手伝います!」


 カタハナさん、ヤナギメさん、ソラヅキさんが明日の店内の片付けで誰が何をするかを話していたところに、フユギリさんが割り込んだ。


「いいっスよ。フユギリは、店の方も明日は休みなんスから休んでればいいっス」


「そうそう、あたしたちに任せておきなさい」


「でも先輩方……」


 ヒメユキさんはフユギリさんの肩をポンポンと叩く。すると、今度はカタハナさんがヒメユキさんの肩をポンポンと叩いた。


「ヒメユキもね」


「そうっスよ。ヒメさんは明日、大人しく治療院に行ってくるっス」


「う……、ほら、あたしはもうフユギリとあの子のおかげで大丈夫だからさ」


「大丈夫かそうじゃないかは、専門家が判断する事だよねー」


「う……」


 ヤナギメさんの最後の一言に、反論することが出来ずヒメユキさんはコクリと小さく頷いた。


 カタハナさんは、まだ納得のいっていなさそうな表情でいるフユギリさんと手をつなぎ寄り添うと、


「ねえフユギリ、明日はすずめさんたちの案内をお願いできないかしら。お二人は私たちの恩人、是非明日は楽しんでもらいたいですから」


 と、フユギリさんに語りかける。


「ね、お願い」


 優しく笑みを浮かべるカタハナさんの横顔は、女の私でもドキッとしてしまうほど綺麗だった。


 その矢面にいるフユギリさんは笑顔が伝染するように、たちまち表情を一変させた。


「任せてください、私がすずめさんとニコさんに一生忘れられない思い出を作らせてあげます!」


 高らかにそう宣言すると、勢いよく振り向いた。


「すずめさん、ニコさん、明日は私が思い出に残る素敵な一日をお約束します!」


 何やら自信に満ちたその表情は、どういうわけか一抹の不安も感じさせるものに見えた。気のせいならいいけど。





 五人に、この街の観光スポット等をを聞きながら進んでいると 暫くの間同じ景色が続いている事に気づく。大きな通りを行く我ら一行の右手にはずっと続く高い塀。まだ端が見えない。


 そんな長い長い塀にあった大きな門の前を通り過ぎる時、ふとヤナギメさんが立ち止まる。するとゆっくり門が開いていった。

 長く高い塀の内側には、白く宮殿のような建物が聳えていて、玄関と思しき扉まで長い小道が続いている。


「おかえりなさいませ、お嬢様。ご友人の方々も、いらっしゃいませ」


「ただいまー」


 門の先にいた、ロマンスグレーのオールバックが素敵な殿方がかしこまる様に会釈をした。着ている服からして、執事のようだ。


「見慣れない方がいらっしゃいますね。そちらのお二方が連絡にありました方々ですね」


「うん、こちらの素敵で凛々しい方がニコ様。で、こっちの見慣れない服の女の子がすずめちゃん。お店のお客様だったんだけど、二人にはフォーティシージの時に助けてもらって、その後色々。詳しいことは後で話すね」


「かしこまりました。ではこちらへ」


 案内されるまま、玄関へと向かう。どうでもいい事だが、私の説明が少し雑ではなかろうか。


「本日は、旦那様も奥様もアカデミーの方で御用があるとの事で、帰らないそうです」


「そっかー。それじゃあ、フィアンセのニコ様を紹介するのはまた今度かな」


「そうですね、折角ですのでその時は宴の席を設けましょう」


「新しいドレス用意しなくっちゃ。あとニコ様の礼服も!」


「では、エクレール洋品店に発注しておきましょう」


「うん、よろしく!」


 小道を歩きながら、ヤナギメさんと執事さんが盛り上がっている中、私は敷地内の景色に目を奪われていた。


 まずは、大きく広がる庭。職人の手によるものであろう生垣のアートの数々、疎らに見える離れの宮殿。どう見ても一般的には思えない。

 これはもう、もしかしなくともヤナギメさんの家は、大金持ちなのだろう。本物の執事なんて初めて見た。


 扉の前まで着くと、執事さんは慣れたように回り込み扉を開ける。そのまま中へと入る一行。それに続く途中、執事さんと目が合った。その際に、微笑みかけられ私は小さく会釈を返す。一瞬で頬が熱くなり、そうするのがやっとだったのだ。


「おじゃまします」


 広い広いエントランス、中央にはどこぞの豪邸にありそうな大きな階段が、どーんと構えている。

 中に入るとほぼ同時に、皆が持っていた武器を執事さんに手渡している。


「では、すずめ様。剣を預からせて貰ってもよろしいですかな」


「え、……ああ、はい。ありがとうございます」


 私は慌ててベルトから剣と短剣を外すと、執事さんに渡した。そういえば室内で帯剣したままというのも物騒だ。


「ほう……これはこれは、随分と年代物をお使いですね。しかもこの装飾の細かさといい……当家の鍛冶師が非常に喜びそう代物です。もしよろしければ、彼に見せてもよろしいでしょうか? もちろん、折角ですので手入れの方もさせますが」


 あの剣と短剣は、倉庫で適当に見繕った物だ。そしてニコが四百年閉じ込められていた間手付かずだったというなら、確かにかなりの年代物だろうと思う。それだけ放置されていたのなら、実戦で何かある前に、その道のプロに手入れをしておいてもらうのも良さそうだ。


「どうぞどうぞ。好きにしてやってください」


「ありがとうございます」


 会釈をする執事さんにつられて、会釈を返す。


 玄関には少し段差があり、高そうなもふもふのスリッパが並んでいる。皆はその場で靴を脱ぐと、もふもふのスリッパに履き替えてエントランスへ上がっていく。私も同じ様にすると、傍に待機していた二人のメイドさんが私のも含め皆の靴を棚へと並べていった。


「あ、ありがとうございます」


 そう言うと、「お気遣いなく」と素敵な笑顔を見せてくれた。ドキッとするくらい綺麗な人だった。これがブルジョワのポテンシャルというものか。


「それじゃあ、このまま皆と月の間に行くね」


「では後ほど、お飲み物をお持ちします」


「うん、よろしく」


「では、私めはこれで」


 両手で大事そうに武器を持ったまま、深く会釈をすると、執事さんは屋敷の奥へと消えていった。


 私たちは、エントランス中央の大階段を上がって、左右に分かれた廊下を右に曲がる。そこから真っ直ぐ進むと、突き当りの部屋へ入る。


 中で真っ先に目を引いたのは、部屋のど真ん中にある大きな円卓だった。その円卓を囲むように綺麗な細工の椅子が並べられ、壁には立派な剣と盾のプラークが飾ってある。床にはいかにも高そうな赤い絨毯が敷かれ、天井から吊るされたシャンデリアが、キラキラと宝石のように輝いている。その白い光は、落ち着いたブラウンを基調とした部屋を明るく照らしていた。


 なんとも、高級そうな雰囲気に心なしかテンションも上がってくる。


「それではニコ様、着替えてきますので、少しの間寛いでて下さいませ」


「あ? ああ」


 そう言うとヤナギメさんは部屋を後にした。ニコは軽く返事をしそれを見送る。


 部屋の中に視線を向ける。そこには、あの有名な話さながらの『円卓』がある。皆はというと、すでに円卓に着き、まるで我が家のように完全な寛ぎモードだ。


 私は早速、入り口から一番遠い席に回りこみ、肩からカバンを下ろして腰掛ける。気分はアーサー王だ。


 ニコは私の隣で、窓から外を眺めていた。


「ふー、今日は特に疲れたっスねー」


「ええ。今回は、早く終わったからまだ良かったわ」


 円卓に突っ伏すように上半身を預けるソラヅキさん。カタハナさんは椅子に横に座ったまま、背もたれに身体を預けている。


 そしてフユギリさんは、お菓子袋を取り出しヒメユキさんと一緒にポリポリと食べ始めた。


「あ、これおいしい」


「そうなんですー。このピリリと来る辛味が絶妙なんですー」


 そんな喜色満面のフユギリさんと目が合う。


「あ、すずめさんも食べますか? ベイビームーンの新商品、マーボー味ですー」


 言いながら、袋を差し出す。ベイビームーン……何かを彷彿とさせる商品名だが丁度小腹が空いていたところなのと、この世界のお菓子というのが少し気になったので頂く事にする。


「食べる食べるー」


 言いながら席を立ちフユギリさんの所へ。お菓子袋に手を突っ込み、一抓みすると口へ運んだ。


 噛みしめると、サクサクとした食感と共に、香辛料の香ばしい香りが広がる。そしてピリリと辛味が後からやってきて、何ともクセになりそうな味だった。


「おいしー」


「ですよねですよね。今、一番のお気に入りなんですー」


 フユギリさんは、お菓子を抓む手を止めぬまま、満面の笑みを浮かべている。何だかとても幸せそうだ。


「そういえば、私はずっとシェルターに居ましたから見てないんですけど、ニコさんってそんなに強かったんですかー?」


 言われてみれば、ニコの戦っている姿を見た者は、カタハナさん、ソラヅキさん、ヤナギメさんだけだった。あと私。そして、ニコはとんでもなく強かった。


「ああ、そうそう、あたしも見てないんだよね。…………真っ先に戦闘不能になったから…………」


 ここで、ヒメユキさんがネガティブモード全開といった具合に、円卓に突っ伏した。


「あう……せ……せんぱーい」


 フユギリさんがカタハナさんに援護を要請すると呆れた表情をしながらも、カタハナさんはヒメユキさんを励まし始める。

 最初は、俯いたままだったヒメユキさんだったが、徐々に顔が上がっていく。

 カタハナさんが、ミッションコンプリートの合図をすると、ヒメユキさんが勢いよく立ち上がった。


「あたし、がんばる!」


「がんばれ、ヒメユキ!」


 何か良く分からないが、一段落したようだ。


「えっと、それで……ニコさんってどのくらい強かったんですか?」


「うんうん、あたしも気になるよ!」


 フユギリさんが質問を繰り返し、復活したヒメユキさんが窓際に居るニコに視線を向ける。


「どのくらい……かぁ……。どのくらいなんだろう」


「私が見たところですと、最低でも王立騎士団一個小隊分の力はありそうでしたね」


「ウソ!?」


「本当っスよー。ボクも目の前で見たから間違いないっス。ニコさん、とんでもない人っスよ」


 ニコの評価がドンドン上がっていく。変態だけど強いのは確かなので、その事について口は挟まない。


「そういえば、ニコさんも強かったっスけど、すずめさんも魔法使ってたっスよね。一瞬だったんで良く分からなかったっスけど、もしかして、すずめさんもニコさん位強かったりするんスか?」


「いやいやいや、私はまだまだ素人レベルですので」


 謙遜などではなく、正直ニコの戦いや、この騎士達の戦いを見たら私なんて足元にも及ばないと思う。私だったら、あの魔獣とまともに戦う事は出来なかっただろう。


「何言ってんだよ。すずめは強いぜ」


「ぬ?」


 唐突に、ニコが横から口を挟んできた。しかも、言うに事欠いて私が強いと言う。……だが、悪い気はしない。


「多分、お嬢ちゃん達と良い勝負なんじゃねぇか」


「な、何言ってるの! 流石にそれは無いって!」


「そういえば、すずめさんの魔法。スフィアをそのまま使っているにしては、少し不思議な感じでしたよね。私達を炎から守った、あの魔法はレリクト無しに使ったって事ですよね?」


 あの魔法、イージスのことか。確か、ドライブδ(デルタ)で形状がスクエア、属性が雷だ。


「まぁ、そうですが」


「スフィア単体であの炎を完全に防げるほどの魔法。それにすずめさんが来てから終わるまでずっと出てましたよね。スフィア単体でしたら長くても数秒で消えるはずですけど……」


「私、すずめさんの魔法見てみたいですー!」


 フユギリさんが目を輝かせながら、見つめてくる。でもお菓子を食べる手は止まっていない。

 すると、扉をノックする音と共に間髪入れず、ヤナギメさんが姿を現した。先ほどの執事さんも一緒だ。


 ヤナギメさんは、ピンクのゆったりと落ち着いた雰囲気をした丈の長いワンピースを纏っていた。今までとうって変わって、正にお嬢様といった見栄えだ。執事さんは銀のトレイを持っている。飲み物を運んできたようだ。


「おまたせです! で、何の話です? 何を見てみたいんですか?」


 颯爽とニコの隣を確保すると爛々とした表情で、発言者のフユギリさんへ視線を向けるヤナギメさん。やっぱり中身は変わっていない。元気ハツラツ少女だ。


「すずめさんの魔法ですよー」


「あー、あの雷の魔法。何でまたそんな話になっているのかは知らないけど、家の裏庭使いますか? 修練場も兼ねてるので、少々のことではビクともしませんよ」


 修練場を兼ねた裏庭、やはりブルジョワはどこの世界でも違うな。


「どうしようか、ニコ」


「いいんじゃねぇか別に。見せてやれよ」


 ニコはニッと笑い、ポンポンと私の頭を叩いた。この騎士達にしてみれば、まだまだ使い込んでない私の魔法を見ても大したことは無さそうに思えるが、まあ見たいと言うなら見せない理由も無い。それに試してみたい機能はまだまだあるし、訓練がてら行くとしようか。


「まあ、私の魔法なんてまだ大したもんじゃありませんが、そんなんでよければ」


「じゃあ決まりですね! ヤナギメ先輩、早く早く」


「面白そう。あたしも見たいな」


「すずめさんのあの魔法。私も興味ありますね」


「そうっスね、ボクも見てみたいッス」


 そんな流れから、ヤナギメさんの案内で裏庭へ向かうことになった。


 果たして、今まで研究所で一人練習していただけの私の魔法は、皆にどう映るのだろうか。

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