ゲームでいうところの、なんとかハンターに似ている。 Ⅴ
四十六
カタハナさんは勢い良く立ち上がると半壊したカウンターへと走っていき、何かを探すように右往左往し始めた。何かを思い出した風だったけど、何を思い出したのだろう
「あった! 良かったありました!」
そう言ったカタハナさんが手に持っていたのは、赤、緑、黄色の三つのラーイルカイトだった。そしてそれには見覚えがある。そう、買取を頼んだ物だ。
買取を頼んだすぐ後にあの騒ぎが起きたので、そういえばそうだったと私も今しがた思い出した。
「ああ、そういえばありましたっけ。それでいくら位なんですかね?」
「えっとですね…………あああああ!!」
カタハナさんは再び大声を上げるとカウンターの半壊したところから、元の形は分からないが破壊されたのであろう何かの物体を取り出し、どうにか原形を留めているカウンターの上に置いた。
「う……」
「うわぁ……」
「あっちゃー……」
「あうー……」
店員さんの方々が順に悲痛な声を上げる。あれが何なのかは知らないが、結構大切なものだったのだろう。
ラーイルカイトを手に、戻ってくるカタハナさん。表情には疲れ以上の何かが浮かんでいた。
「すいません、すずめさん。レイスコープが壊れてしまって、正確な査定が出来なくなってしまいました」
「ぬぬぬ、レイスコープ……ってなんですか?」
新しい単語。話の前後から買取査定に必要そうである事は分かるが、条件反射で訊いてしまった。
「えっとですね、簡単に言うと、ラーイルカイトの純度を測定する装置です。買い取りは、色と純度と重さで価格を決めるのですが、純度が測れないと、買い取り価格が算出できないんです。どうしましょう」
カタハナさんは私の前で腰を下ろすと、膝の上に乗せたラーイルカイトを指先で転がしている。
「うーん。じゃあ、そのまま預かっててもらってもいいですかね。別にいつでも構わないので」
「分かりました。それでは、このまま預からせてもらいますね。査定が出来次第連絡……したいのですが、どうしましょう。連絡先がありませんでしたね」
明日の報酬受け取りは、ヤナギメさんの家で一泊するという事で解決できたが、買取の方はどうしたものか。査定が出来るまでヤナギメさんの家に居座るわけにもいかない。ならば多分、明日の夜には研究所に戻っているはずだ。そうなると次来れるのはいつになるだろうか。
「査定が出来る様になるのが、いつ頃なのかは分からないのか?」
隣で聞いていたらしいニコが、身を乗り出した。
「それ程掛からないはずです。魔装具管理局に連絡すれば次の日には代わりの物が届くので……今日は、もう時間が過ぎてしまっていますが、明日連絡すれば、明後日には査定出来ると思います」
「それなら明後日、またここに来ればいいだけだな。どうだ、すずめ?」
というニコの案。それはつまりまた連れてきてくれるという事だろうか。それは願ったり叶ったりだ。
「賛成、賛成!」
「よし、決まりだな」
「分かりました。それでは、明後日の夕暮れ時までには査定をしておきますね」
「よろしくお願いします」
カタハナさんは、三つのラーイルカイトを置いてから立ち上がると、カウンターの方へ向かい何かを探す様にカウンターの瓦礫を漁り始めた。
暫くして、髪にかかった瓦礫の屑を払いながら戻ってきたカタハナさんは、その手に小さな青い箱を持っていた。
「これに入れておきましょう」
言いながら、三つのラーイルカイトをその青い箱の中に入れると、カチリとカギをした。なるほど、これなら無くす心配も無さそうだ。
「では、そろそろ行きましょうか」
そう言い湯飲みを片付け始めるカタハナさん。
「それじゃあ、エプロン回収するっすよー」
言われて、エプロンを外す私とニコ。皆のエプロンを一まとめにしてカウンター裏へと持っていくソラヅキさん。
「それじゃあ着替えてくるね」
「私も行ってまいります」
「ちょっと待ってて下さいね、ニコ様」
ヒメユキさんとフユギリさん、ヤナギメさんも一緒にカウンターの裏へと入っていった。
ここで立ち上がりかけたニコを引き戻し着席させる。
「覗きは個人の権利だと思うんだ」
「そんな権利など無い」
あからさまに、いじけてみせるニコ。何やら五人が行った方を見つめたまま、ぶつぶつと呟いている。よく聞くと……、
「流石の俺でも、これだけ壁が厚いと……、クソッ……せめて色だけでも……」
見ると鋭い眼差しを向けている。呟きの内容からするともしや……。これだけの実力者で夢と希望溢れる魔法世界、むしろ出来ないと考えるほうが野暮だ。
五人のプライバシーを守るため、ニコの後ろに回りこみヘッドロック気味に両目を塞いだ。
「ぐあああ! パステルカラーがぁぁぁ!」
「ねえニコ、もしかして透視能力とか持ってないよね」
「そんなの、俺たちアルス・マグナにとっては基礎じゃねぇか」
「ふーん……じゃあ今、何見てたのかな」
「そりゃもう、ナニを見……………………、いやあれだよすずめ。そんなスペシャルな能力あるわけねぇじゃねぇか。ハハハハハ……」
あからさまに動揺するニコはもう疑う余地も無かった。
ヘッドロックから開放すると、回れ右をさせてから五人を待つ事にした。
「お待たせしました」
戻ってきたカタハナさんは、白い膝上丈のワンピースに、淡い空色のカーディガンを羽織り、大きな黄色いリボンのついた白いバックを持っている。お嬢様風とでもいうのだろうか、これがまた今までとうって変わって、かなり印象が変わった。
そして不釣合いに思えるが、帯剣しているのが何ともファンタジー世界らしくていい。
カタハナさんに続いて、他の四人も戻ってくる。
「お待たせですニコ様~」
ニコに擦り寄っていくヤナギメさんは、チェックのプリーツスカートに黒いハイソックス、ボーダーのオフショルワンピに黒のリュックを背負い黒い鞘の剣を腰に下げている。
「ほほぅ、これはこれは……」
そんなヤナギメさんを見つめるニコの瞳がキラリと光る。
「ニーコー、普段はそれ使用禁止だからね」
背後から両手を回し、ニコの目を塞ぐ。
「マジでか」
「マジです」
両手を離すと、力なく虚空を見つめるニコの瞳が現れた。そこまでショックなことなのだろうか。
「ニコ様、どうしたんですか」
「世の無常に嘆いていたんだ」
「……ニコ様す・て・き」
目をきらめかせるヤナギメさん。実にくだらない無常だ。
「それじゃあ、帰るっスか」
そういったソラヅキさんは、裾が黒い赤のU字ネックのカットソーにフード付きの白いパーカーを羽織り、紺色のホットパンツを合わせている。活発そうなキャラに合っていて、健康的で程よく引き締まった太ももが羨ましい。そして、腰に下げた得物はトゲトゲ付きの金属球に棒をつけたような鈍器、モーニングスターのようだ。
ヒメユキさんは薄手のピンクのパーカーを羽織り、幾何学模様のフレアスカートからスラリと綺麗な両足が現れる。整った身体、羨ましい。
一見したところ、ヒメユキさんは得物を持っていなさそうに見えたが、肩に掛けたピンクのショルダーバックから剣の柄の部分が覗いている。ギリギリ見えた鍔の大きさからして、長剣ではなく短剣であろうと思われる。そいえばさっき、剣が折れたとか言っていた。となるとあれは、護身用の脇差みたいなものかな。
フユギリさんはというと、犬のマスコット? がプリントされたワンピースに、ダックスフントを模したかのようなリュックを背負っていた。まるで小学生だが、異様に似合ってしまっている。それでいいのか、フユギリちゃん。
ついでにフユギリさんの剣も見てみる。細身の鞘に、柄には細工の施されたナックルガードがあることから、レイピア、またはエペといった細剣、突剣類だろうと想像する。ちなみに私の持っている細剣はレイピア類だがナックルガードは付いていない。装飾が多い事から考えると実戦より儀礼用に使われていたのかもしれない。
こうやって、今まで鎧姿でエプロン姿だった皆が私服で並ぶと、何とも私だけが取り残された気分になってしまう。地味な制服では、なんとも色気が無い。
しかし、剣と魔法のファンタジー世界でも、一般的な私服は元の世界とそれほど大きくは変わらない様だ。素材の差はありそうだけれど基本パーツは一緒っぽい。
やはり、まずは服だ、服を買おう。出来れば高名な大魔導師的な服を。そう強く思いながら五人の後を追う。
「まあ、すずめの言うとおり、モロよりチラの方がいいな、バツグンだ」
「私は、そんなこと言ってない」
何やら呟きながらニコは、五人をそれぞれ見回し、ウンウンとしきりに頷いていた。その瞳はまたも怪しい光が蘇っている。ニコの動向には注意をしておいた方が良さそうだ。
私が最後に扉を出ると、カタハナさんが施錠し、ヤナギメさんを先頭に歩き始める。
辺りを街灯の薄明るい光が照らし、昼とはうって変わった様相を見せている。大通りはまだ人通りがあり、ちらほらと見える人々の中に、鎧姿やローブを纏った人が混じる。元の世界だったら何の仮装大会かと思いそうだが、この世界ではきっとこれが普通なのだろう。素晴らしい。
こうやって見回す夜の街は、建物の形だけでなく雰囲気までも今まで私が暮らしていた所とは違っていて、ゲームの中に迷い込んだようにさえ感じる。
大通り、まだ明かりの灯る店、灯っていない店、人々。感動ともちょっと違う、憧憬ともちょっと違う、言い表せない気持ちで眺めながら、ふと夜空を見上げると、
「うわぁ……うわぁ!」
目に飛び込んできた光景に、自然と声が漏れた。
「ん、どうしたすずめ」
「空、星、すごい!」
天を指差し声を上げる。
見上げた夜空は、どこまでも続いていそうなほど深く暗い闇の中に、ビーズをばら撒いたような星が広がっている。そんな星の海を、星の川が大きく二つに分ける。今までの人生で、これ程の星を一度に見た事など無かった。この迫力は、プラネタリウムも真っ青だ。
「そうか? 前見た時と大して変わらん気もするが」
「そうですねぇ、今日は新月で雲一つ無いので星はよく見えますが、いつもと変わらないと思いますよ」
「これでいつも通りとは……」
私は、許容量をはるかに超えているかと思えるほど満天の星空の下、覚えている限りの星座を探した。
……やっぱり、無い。さすがに地球から見える星空とは別物だった。星が多すぎるという点もあるが、私の知る限りでは、一致する星座は見当たらなかった。
「すずめちゃんの故郷は、空が暗い所だったんだねぇ」
「空が暗い……かぁ」
確かにこの空は『明るい』といえるかもしれない。
都会は明る過ぎて、夜でも星が見えないと聞いたことがある。私の住んでいたところは都会ではなかったけれど夜は暗く、良く星が見えるほうだと思っていたが、これを見てしまうと確かに『暗い』といえるだろう。
その後、今日の戦闘の反省点やら魔獣の攻略法などを話し合いながら、大通りから小道へ入る。
話の流れの中、明日の手伝いも買って出たところ、
「いえいえいえ、そこまでお世話になるわけにはいきません! すずめさん方はこの街は初めてなのでしょう。折角ですので観光なさって下さい」
と丁重に断れたので、お言葉通り明日は満喫させてもらう事にしよう。
途中、ゴーンとお腹に響く鐘の音が響いた。その大きな音から、近くにあるのだろうと思い辺りを見回す。
再び、大きな鐘の音が鳴り響く。
「こっちかな?」
振り向くと、高い鐘塔が目に入る。煌めく星空を背にした雄大なシルエットが、圧倒的な神々しさを感じさせる。気がする。
位置的に多分あれは、街に入る前に坂の上で見た教会のような建物。ファンタジーに神の家は欠かせない要素の一つ。明日、絶対に見学しよう。




