ゲームでいうところの、なんとかハンターに似ている。 Ⅳ
四十五
「お待たせしましたー」
弾むような声でヤナギメさんがカウンター奥の扉から飛び出してきた。その後他の四人も姿を現す。皆、白いワイシャツと膝丈の黒いスカートにエプロンという服装だ。
「すいません、お待たせしました。それとこれをお二方に、そのままでは汚れてしまいますから」
そう言いカタハナさんに手渡されたのは皆と同じ柄のエプロンだった。確かに散乱している瓦礫やら何やらを片付けるのだから、細かい屑などが沢山舞い散るだろう。
受け取ったエプロンに首を通すと腰の紐を後ろで結ぶ。む……す……びたいのだが……これが中々上手くいかない。
「ん、何だ結べないのか。ほれ、貸してみろよ」
ニコは、私の後ろに回り私の手からエプロンの紐を受け取ると、手際よく結んでくれた。
「あ、ありがとう」
「いいって事よ。しかし、すずめは意外と不器用だったのな」
「むぅ、こういう見えないところでもぞもぞするのは苦手なの」
黒いエプロンは中央に大きなカバー付きのポケットがあり、胸の辺りに虹色の剣と盾がプリントされていた。なんとも奇抜なデザインだ。
「ああ~ん、ニ・コ・さ・まぁ~ん。私もエプロンの紐が結べません~」
ヤナギメさんは乱れたエプロンの紐を身体に絡ませながらニコに擦り寄っていった。さっきまでピッチリとしていた気がするのだが、はてさて気のせいだったろうか。
「何バカな事してるっスか」
ソラヅキさんがヤナギメさんを引っ掴み絡まった紐を解くと、手早く結び直す。そのままヤナギメさんは非常に不服そうな表情で引きずられていった。
「さあ、とっとと始めるっスよ。ヤナギメはボクと一緒に散らばった商品の整理っス」
「うわぁ~ん、ニコさまカムバーーーーック!」
この場合、離れていくのはヤナギメさんの方なのだからカムバックはどうかと。等と考えながら見送る。どうぞお達者で。
「さあ、それでは私たちはまず、この棚の残骸から片付けるとしましょう」
カタハナさんの指示の元、ニコは一人で軽々と大きな残骸を運び、フユギリさんは箒とちりとりを手に細かい塵屑をかき集める。私は、カタハナさん、ヒメユキさんと共に中位の残骸を片付けていく。
残骸は全て、壁に開いた大きな穴から外に運び出し、店の裏にあるゴミ置き場に山積みにしていく。本来ならカウンター裏の扉の先からここへ出るらしいが、今はあの穴を使った方が早いらしい。
しかし、店内のほぼ全ての棚が壊され、商品もあの有様だ。店としてはかなりの痛手ではないだろうか。
「これだけ壊されちゃうと被害総額も相当なんじゃないですか?」
気になったので聞いていみる。
「んー、後片付けとかは大変ですけど、実は金銭的にはそうでもないんですよ。フォーティシージは、昨日今日から始まったってわけでもないので、どこの店も被害を想定して店作りをしてるんです。うちでも棚や台なんかは廃材利用のリサイクル品を安く調達してきてますし、フォーティシージで出た被害は国が補償してくれますので」
「なんか至れり尽くせりですねー」
「まあ、こういうところですので。その分毎月損害補償基金に募金する義務がありますが、これはお小遣い程度で大丈夫ですし、何より全額補償っていうのは大きいですね。皇女様のお陰です」
「へぇー、皇女様って立派な人なんですねー」
皇女様。この国の偉い人だろう。話からして、どうやらここは結構良い国な印象がする。初の魔法世界の街が内乱真っ只中で、疫病が蔓延し腐った貴族が民から搾り取っている様な国でなくて良かった。
「ええ、そうですよ。今の代になってから、大分良くなりました。本当に、素晴らしいお方です」
「そうそう、それであたし達は、そんな皇女様の力になりたいっていうことで、宮廷近衛騎士団の試験を受けたんだけど、見事最終試験で落第。今はしがないレリクトショップ店員ってわけで……」
そう言ったヒメユキさんが大きく溜息をつく。騎士団の試験というと、シェルター内でフユギリさんが言っていたアレか。最終試験まで進んだだけでもすごいとか何とか。
「こら、ヒメユキ。ここの仕事は私たちの力を認めてくれた皇女様が与えてくれた仕事じゃない」
「それは分かってるけど……ねぇ」
皇女が店の仕事を斡旋するなんて余り聞いた事のない話だ。どちらかというと、警邏隊とか別の騎士団とかそういうのにいきそうなもんだけど。
「直接仕事を貰ったなんてすごい事ですよね。でもなんでお店なんでしょう?」
「えっと、それはですね。ここと同じようにアクゼリュスの大群に襲われる街というのがいくつかあるんですが、どういうわけかレリクトショップが全ての施設の中でも群を抜いて被害が大きいんです。明らかに狙われていると想定されるんですが、まだ原因は分かってないんですよね」
「戦うための武器が沢山備蓄されているからだって説もあるけれど、アクゼリュスにそのような戦略的知識があるわけないって、学者の人たちが言ってるし、真実はどこなのか」
「そういう事でして、この店はアクゼリュスの襲撃率が高いので皇女様が私たちを信頼して、ここの仕事を与えてくださったというわけです」
「そんな理由が」
アクゼリュスがまだどういうものなのか詳しくは知らないが、一拠点を狙うといった戦略的行動をするほどの知能は無いという事か。しかし、実際にこうして狙われている。専門家でも分からないそんな行動にはきっと何か謎があるに違いない。これはちょっと気になることだ。
壊れた棚の欠片を集めながら雑談に華が咲く。
「へぇー、すずめさんって弟さんがいるんですね」
「いいな、あたし一人っ子だから羨ましいよ。可愛い弟が欲しかったもん」
「いえいえそんな、 弟なんて可愛いもんじゃないですよー、私のことバカすずめなんて呼びますし。何度もお姉ちゃんって付けろって言ってるのに聞かないし、生意気でしょうがないです」
「それはきっと恥ずかしがってるんじゃないかな。可愛らしい弟さん」
「あの堅物に限ってそれはないですよー」
他にも二人の日常や私の事など話し合いながら作業を進めていく。ちなみに私が別の世界から来たということは内緒にしておいた。それが王道だから!
半分ほど片付け終わったところで今日は一段落。カタハナさんとヒメユキさんが、壁に開いた大きな穴を、黒いテープを幾度も巡らせて通れないように塞いだ。立ち入り禁止といった感じだろうか。そして「危ないので触らないで下さいね」と一言。何か魔法のトラップみたいなものかな。素晴らしいマジックアイテムだ。
皆で適当な所に腰を降ろすと、カタハナさんが煎れてきてくれたお茶を啜り一服。何だか労働が少し気持ちよく思えてくる。こんな気分は初めてだ。
大穴のテープの隙間から覗く外の朱色はほぼ黒く代わり、聞こえていた喧騒や音も今は止み夜の静けさが少しずつ染みていく。だが隣ではヤナギメさんがニコを質問攻めにしているので、ここは静寂とは無縁だ。きわどい質問を繰り返すヤナギメさんに対し、救援の視線を向けてくるニコだが、拳を突き出し親指を上に向けて「がんばれ」とエールを送っておいた。
私は今日の戦闘を思い返しながら、体の大きな相手に対しての魔法を考えていた。火炎弾による遠距離攻撃と、両手の爪による直接攻撃。そのどれもが広い攻撃範囲をもっていた。またあんなのを相手にした時の事を考えて、何か戦略を考えておかないと。
ポケットから取り出したスフィアと、にらめっこしたまま頭の中で想像を巡らせる。
「あれ、すずめさんはスフィアをそのまま使ってたんですね?」
私の手元のスフィアを見たカタハナさんは、何ともおかしな事を聞いてきた。
「そのまま? 他に使い方があるんですか?」
「他に……というか、大抵はレリクトにセットして使いませんか? 私のスフィアは盾にセットしてありますし。その方が効果も拡張出来るので便利ですから」
「なんと、そんな使い方が!?」
レリクトにセット。もしやスフィアはレリクトと合わせる事で更にパワーアップさせることが出来るという事か。これは素晴らしい情報だ。是非とも欲しくなったぞ、レリクト!
ということで、今回の報奨金で買うものは決まった。レリクトを買おう。
「すずめさんは、知らずにここへ来たんですか?」
「えっと、ここでラーイルカイトを買い取って貰えると聞いたので」
「そうでしたか、それでここへ…………………ああっ!」
突如として、カタハナさんが何かを思い出したかのように大きな声を上げた。質問攻めをしていたヤナギメさんは何事かと振り返り、ぐったりと横になっていたソラヅキさんは飛び起きる。うとうとしていたヒメユキさんはきょろきょろと辺りを見回し、フユギリさんはお菓子袋を落としかけながら声の方へと視線を向けた。




