ゲームでいうところの、なんとかハンターに似ている。 Ⅲ
四十四
「あ、そうだ。すずめさん、ニコさん。連絡先を教えてもらえませんか。現金報酬は明日この店に届く事になると思いますので、届き次第こちらから連絡いたします」
「えっとですね、森の…………」
っと、どう言えばいいんだ。ニコ曰く、あの研究所は使い方によっては街一つ潰せるほどらしい。ならば下手に言わない方がいいのではないだろうか。秘密基地だし。かといって連絡先不明というと、かなり怪しい人物になってしまう気がする。どうしたものか。
「俺たちは旅の途中でな、今は無一文だから近くの森で適当に野宿してるんで、連絡先は決まってねぇんだ」
「そ、そうそう」
「そうでしたか。ではどうしましょう、報告書が届く時間が明確ならよかったのですが」
カタハナさんが考え込むように俯くと、その代わりの様にヤナギメさんが勢いよく立ち上がった。
「暗い森の中、暖をとるため身を寄せ合う二人は……そんなのダメー!」
「な……、またっスか?」
「まったくもう、この子は……」
ソラヅキさんがヤナギメさんを引き戻し着席させ、カタハナさんは呆れた様に額に手を当てていた。
「突然ごめんなさいね。この子少し妄想癖もあって」
「野宿なんてダメ! ニコ様、すずめさん。家で一泊していくといいです。そうですそれがいいです、野宿だなんて……私のニコ様がぁぁぁぁぁぁっ!」
またも暴走しかかったヤナギメさんをソラヅキさんが手馴れた様子で封じた。一体彼女は何を妄想しているのだろうか。まあ、ろくでもない事は確かだろう。
「でも、ヤナギメの家で一泊っていうのはありかもしれないっスね。大きい家っスから気兼ねすることもなく寛げるはずっスよ」
「そうですね、野宿するよりはいいと思います。すぐに連絡もつきますし」
「あたしも賛成。恩人を野宿させるってのも忍びないしね」
「どうです? ニコ様、すずめちゃん!」
どうしようか? ニコに囁くと、別にいいんじゃねぇかと軽い返事が返ってきた。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「やった! ニコ様と一つ屋根の下ー!」
飛び上がり喜びを体現するヤナギメさん。えっと、私も一緒なんだけどね。
「それじゃあ、今日は私もヤナギメの家に泊まっちゃおうかな」
「あ、いいっスねぇ。ボクも便乗するっスよー」
「あたしもー。皆でお泊りなんて久しぶりだよねー」
「折角だからフユギリも誘ってみましょう」
「そうっスね。もう外も大分落ち着いてきたみたいっスから、ちょっと行って聞いてくるっスよ」
ソラヅキさんはパッと立ち上がると、階段を駆け下りていった。
暫くして、ソラヅキさんが戻る。
「フユギリも、よければ行きたいって言ってたっス」
「今夜は、楽しくなりそうね」
そして、やんややんやと盛り上がる三人と、立ちつくしたまま静止しているヤナギメさん。当事者の私たちを忘れたように話は暴走し始めていた。
「今日は、ご馳走だって……」
自宅に、皆が泊まりに来るという連絡をしに行ったヤナギメさんは戻ってくるなり、そう呟いた。
ご馳走だそうだ。ここのところ美味しいとはいえ、温もりの無かった缶詰ばかり食べていた私。久しぶりに温かいご飯が食べられそうだ。一体どういう料理がでてくるのだろう、とても楽しみだ。
それからは、皆すぐに戦闘態勢がとれる状態のまま待機しつつ、他愛もない話を続けること暫く、聞き覚えのある鐘の音が幾度と響き渡った。
「あ、終わったみたいですね」
カタハナさんが言うとソラヅキさんが立ち上がり、「それじゃあ皆を呼んでくるっスね」と、地下への階段を駆け下りていった。
「はぁ、どのみち今日は閉店かなぁ」
「店内がこの有様じゃねぇ……」
ヤナギメさんとヒメユキさんが大きく溜息をつく。店内を改めて見回すと、棚も台も倒れたり壊れたりで商品があちらこちらに散らばっていた。これを片付けるとなると確かに溜息が出るのもしょうがない。
「あうっ……すごいですー……」
ソラヅキさんと共に地下から戻ってきたフユギリさんは、店内の有様をみるなり絶句した。ソラヅキさんはそれを見ないためにだろうか、天井の方に目線を逃がしている様に見える。
続いて、地下シェルターに避難していた客達が上がってくる。こちらも同時に店内をみるなり、魔獣の残した傷痕に声を上げる。
「こりゃ酷いな」もっともな感想だ。
「で、魔獣はどこいったんだい?」 研究所の人たちが回収していきました。
「たしか守護四騎聖だったっけか。あの歳で魔獣を倒しちまうなんて流石だなー」 聞こえたのか、カタハナさんの表情がちょっと曇る。
それぞれが思ったことを呟きながら、ヒメユキさんとヤナギメさんの案内に従い店の扉跡から外へと出て行った。途中、緑色のローブの少女をヒメユキさんとフユギリさんが呼び止めた。
「あの、先ほどはありがとうございました。私一人じゃあんなに早く回復しきれませんでした」
「ありがとう、おかげで無事に戦線に復帰出来ました」
二人がお辞儀をすると、ローブの少女は慌てたようにフードを被り、
「あの……私なんてその……大した事じゃないです……」
ボソリボソリと呟いた。
「いえ、大した事ですよ」
「うん、大した事だよ」
二人に満面の笑みを向けられて戸惑う少女だったが、次第にその表情は和らいでいき微笑みに変わると、一礼してから恥ずかしそうに店を出て行った。その一瞬だけ見せた笑顔は、女の私ですらドキッとするほど可愛らしかった。
同時に、下心満面で飛び出そうとしたニコの襟首を引っ掴む。
「すずめは隙がないな……」
「今までの行動見てれば、予想はつくからね」
「よく見てやがる……」
「褒め言葉として受け取っておく」
しょんぼりとするニコは、どうにも締まらない。だがまあ、私としてはこんなニコだから気兼ねなく一緒に居られるわけだが、そこは黙っておこう。
「あの、お二方」
声に振り返ると、そこにはフユギリさんが居た。
「お二方が、飛び出していった時はどうなるかと思いましたが……、ソラヅキ先輩に話は伺いました。先輩たちを助けていただきありがとうございます」
深々と頭を下げるフユギリさん、そう改まって言われると、どう言えばいいか言葉に詰まる。そもそも私は大した活躍はしていないのだから。
「なーに、礼を言われる程の事じゃあない。それにあの四人、見上げた根性だったぜ。立派な先輩だな」
「はい! 私の憧れなんですー! いつか私も先輩方のように、立派な騎士になるのが夢なんですー」
「ほう、いい心意気だな、それなら大丈夫だ。がんばれよ」
フユギリさんの頭を撫でながらエールを送るニコ。なんだか、良いお兄ちゃんといった雰囲気だ。
「ありがとうございます!」
キラキラと満面の笑みを浮かべるフユギリさん。こちらは、兄に褒められて喜ぶ妹といったところだろうか。
なんだかちょっと、疎外感。
「さて、それでは私たちは店内の片付けがありますので、お二人は日が沈む頃にまた来てください。その時に皆で一緒にヤナギメのお家へ向かいましょう」
お客を見送ると、カタハナさんは壊れた扉を片付けながら言った。
「いえ、折角なので手伝います。いいよね、ニコ」
「ああ、構わないぜ」
折角なので薦んで手伝いを申し出てみる。ニコも快諾してくれた。
「そんな、お客様にわざわざ手伝ってもらうわけには」
「一晩厄介になるってなら、このくらいしないと罰が当たっちゃうし。それとも何か見られちゃいけない極秘の物があったりとか?」
「いえ、そういう物はないですが……」
「いいじゃん、手伝って貰っちゃおうよ! ニコ様と愛の共同作業なんてす・て・き」
「あたしも賛成。正直あたし達だけじゃ、どれだけかかるか分からないし。男手があると大分助かると思うよ」
「そうっスよ、折角手伝ってくれるって言ってるんスから」
「あなた達は……まったくもう。分かりました。ではすいませんが、すずめさん、ニコさん。よろしくおねがいします」
「はーい」
「任しときな」
快く返事をする。カタハナさん達は、「着替えてきますので、少し待っててください」と言い残し、若干原形をとどめていたカウンターの奥の扉へと消えていった。この時、再びニコの首根っこを引っ掴む。
「はいそこまで。覗きは死刑だからね」
「我が志、ここに潰えん……」
ニコは砕けた棚の残骸に座り込むと、燃え尽きたかのようにうな垂れた。




