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ゲームでいうところの、なんとかハンターに似ている。 Ⅱ

四十三



「これはすごい」


「ほほー、こいつは上物だな」


 あっという間に魔獣を囲んだ白衣の男たちが口々に呟く。


「さーて、とっとと作業にかかろう。転がってる首はレンシン、お前に任せる。ここの次は、マリアベル武器商店でも回収指示があった。モタモタしてる暇はない。いいか、三式でいくぞ」


「了解」


 こんな巨体をどうするのかと思ったら、白衣の男全員が大きな本を手に持ち開いた。すると一斉に魔法陣が現れる。

 あれは正にスフィアの魔法陣ではなかろうか。しかし、まだ呪文らしきものも何も言ってないのに魔法陣が現れるなんてどういうことだろうか。あの本に何か秘密が?


「移送浮術・三式!」


 一同がそう言うと同時に、重々しく魔獣の亡骸が浮かび上がった。


「おお、すごいすごい」


 大体肩くらいの位置まで浮かぶと、そのまま壁に開いた穴の方へと運ばれていく。その穴から覗く外の景色に、今まではなかった大きな檻が見えた。何やら木製のタイヤが付いており、研究員はその檻に魔獣の亡骸をゆっくりと降ろす。続いてレンシンと呼ばれた研究員が魔獣の首三つをふわふわと浮かべながら、壁の穴から出て行った。


「よーし、ご苦労ご苦労。じゃあ先に行っててくれ。俺は書類作ってから直接向かう」


「了解です」


 ガタガタという音が遠ざかっていくなか、キショウと名乗った白衣の男がその白衣の内ポケットから紙の束を取り出しながら近づいてくる。


「さて、君たちには、世界体系保全特治法・三章第十一条により討伐した魔獣の所有権が認められている。が、アースガルズ税法五章第二条により、アースガルズ領土内で魔獣を討伐した際は報告の義務と、魔獣から採取される有益な部位を納税する義務が課せられている。これは知っているな?」


「はい」


 カタハナさんが答える。なんだかよく分からない単語が急にいっぱい出てきたのだが……、どういうことだ?


「まーた分けわからんって顔してるな」


 私の膝から顔を上げながら、ニヤニヤと笑みを浮かべるニコは分かっているらしい。優越感に浸っているニコは何か小憎らしい。


「で、どういうことなのさ」


「まあ簡単に言うとだな。魔獣ってのは強い、見てて分かっただろ。まあ俺に掛かっちゃ赤子同然だが、一般レベルでの話だと小さな村なんかじゃ壊滅級の天災みたいなもんだ。だがこの魔獣ってのはそれだけに、その角や皮、牙、爪といった部位が単純な素材として非常に優秀で、物によっては特殊な効果を秘めたものまであるってわけだ」


「おお! なんかすっごく"らしく"なってきた!」


 つまりは、魔獣の素材を使う事で強い武器や防具が作られるということだろう。さっきの魔獣のあの爪、簡単に床を抉っていたところを見るとかなりの強度だ。それを剣なんかに加工すれば、きっと強力な武器になるはずだ。


「でだ、さっきも言ったように魔獣ってのは小さな村を軽く壊滅させる。だが魔獣を討伐するには騎士団の一小隊を派遣する必要がある。事あるごとに小隊なんか派遣してりゃ肝心の国の守りが薄くなっちまうし金もかかるわけだ。そこで法律でもって魔獣討伐の際の報酬として討伐した魔獣の所有権を公式に認め、更に討伐に関する経費その他諸々を国が保証することで、傭兵やら何やらに代わってもらおうって話だ。とはいえ、それじゃあ個人にばかり有益な素材が渡っちまうから、魔獣討伐を国が支援する代わりに、その素材の一部を税として国に納めるっちゅう法律が出来たってわけだ」


「ふーん……納税かぁ」


「まあ一体でも討伐できりゃ持ってかれる分差し引いてもかなりのプラスだ。その上、国の公的施設なんかもタダで使わせてもらえるんだから、そうそう文句もでねぇ。と、まあハティの受け売りだがな」


「なるほどねぇ。そういう事か」


「そういうこと。もういいかね」


 隣りからの声に振り返ると、書類をばさばさとさせながら白衣の男が憮然と突っ立っていた。目の端に、うっとりした表情のヤナギメさんの姿が映ったが、それはどうでもいい。


「お……おっけーです」


「それでは続けさせてもらう。まずは魔獣の所有権だが、これは君たち全員で討伐したという事でいいのか?」


「いえ、それはこちらの……」


「ああ、そうだ」


「え、ニコさん……」


「お嬢さんたちのお陰で、俺の不意打ちが成功したんだ。ここにいる全員、賞賛に値すると思うがな」


 起き上がったニコはカタハナに向かい指を立てて言葉を遮った。きっと倒したのはニコだから、所有権はニコにあるとカタハナさんは言いたかったのだろうが、私たちが行くまで持ち堪えていたのは他ならぬこの白い騎士達だ。ならば当然の事だろう。


「ふむ、所有権は六人……っと。では報酬の方だが、素材と報奨金どちらを希望する。まだ解体してみないと分からないが、見た目からしてもそこそこの素材は取れそうだ。となると金額も期待できると思う。さて、どちらがいいかな?」


 キショウさんは書類から視線を上げると、まずカタハナさんを見た。報酬……素材か報奨金か。素材となると爪とか牙とかだろうか。


「えっと、それでは……私は報奨金がいいです。一昨日シューゲル服飾店でショーウィンドウのワンピースに一目惚れしてしまって、実は今月厳しくて」


「ええ! もしかしてあの青と赤いリボンのワンピ!? 私も狙ってたのにー!」


 カタハナさんが照れたように言うとヤナギメさんが驚いたように声を上げた。


「ええ、青と赤いリボンのワンピース。ヤナギメも狙ってたのね。ふふふ、思い切って買っちゃって正解だったわね」


「いーじーわーるー! 今度着させて、一回でいいから。ね?」


「はいはい、わかりました」


「ありがとー、カタハナー」


 ぴょんぴょん跳ねて喜ぶヤナギメさん。こうしてみると、ほんと普通の女の子だ。さっきまで魔獣と戦っていたなんて絵空事のように思える。しかし、ヤナギメさんの体格でカタハナさんの服は少し大きくないだろうか……主に胸の辺りが。──何だかヤナギメさんとは、仲良くなれそうな気がする。


「ボクも報奨金っスね。今欲しい素材はイクシオンの尾だけっスからねぇ」


「私は断然素材! ニコ様と私、初めての共同作業の証として部屋に飾るの!」


「あたしも素材にしようかな。さっきの戦いで剣が折れちゃったから、新しいの仕立てて貰わないと」


 皆が皆、希望の報酬を言う中、私はどうしたものか。身体を張って客たちを守り続けた騎士たちと、魔獣を倒したニコ。それに比べて、私は大した活躍はしていない。果たして私に貰う権利などあるのだろうか。


「ほら、すずめはどうするんだ。無一文なんだから、金にしといたほうがいいんじゃねぇか?」


「え、えっと私は……」


 言い淀む。


「なんだ、どうした」


「私も貰っていいのかな? 一回だけ防御壁出しただけだったし。皆みたいに活躍してないから……」


「何言ってるっスかすずめさん!」


「そうですよ。あの時すずめさんが炎を防いでくれなかったら、私たち無事では済まなかったはずです」


「そうそう。すずめちゃんもニコ様と同じ、私たちの恩人だからね」


 恩人……私は役に立ててたみたいだ。良かった。ほんとに良かった。三人の優しい微笑みに胸がすっと軽くなった。やっとこの中にとけ込めた、そんな気がした。


「まったく、何心配してたんだか。で、どうするんだすずめ」


「んー、それじゃあやっぱり報奨金で」


 ここはやはりお金だろう。素材などは加工すればいい武器になりそうだが、私にはそんな技術はないし、知り合いもいない。加工屋みたいなのに頼むとしても、やはりお金はかかるだろう。となるとここはやはり現金が一番。無一文だし。


「ふむ、報奨金……っと。で最後、君はどうするのかな」


 キショウさんは紙の束に何かを書き込むと、ニコに目を向けた。


「ああ、俺は要らん。五人で分けてくれ」


「え、ニコさん。それでは」


「そんなわけにはいかないっスよ。ニコさんが一番活躍したじゃないっスか」


「ええ。一番の権利はニコさんにあると思う」


「でも、そんなこと言っちゃうニコ様もす・て・き」


 まーたニコってばカッコつけちゃって。そう思いながらニコを小突く。


「ほらニコ。カッコつけてないで、貰わないと収拾つかなそうだよ。そもそもニコが貰わなかったら、皆も貰い難いんじゃない?」


「ふーむ、……一理あるかもしれんな。じゃあ俺も報奨金を貰うとするかな」


 それを聞き、再び紙の束に何かを書き込むキショウさん。


「報奨金が四人と素材が二人だな。では後日、解体報告書と素材一覧、報奨金を持ってこさせるので確認後、素材希望の者は希望する素材を一覧に明記するように」


「はい、分かりました」


「では、これにて失礼する」


 カタハナさんが答えると、キショウさんは一つ頷き壊れた扉から出て行った。

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