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ゲームでいうところの、なんとかハンターに似ている。 Ⅰ

四十二



「ところで、お客様方は何者なんでしょうか?」


 一先ず皆が適当なところに座り込み一息ついたところで、カタハナさんがもっともな疑問を投げかけてきた。そりゃまあ自分たち苦戦していた相手を、いとも簡単に倒してしまったニコの強さを見たら気になるところだろう。私だってあれ程とは思わなかった。

 ちなみに、ヤナギメさんはちゃっかりとニコの正面に陣取り熱い視線を注いでいる。


「そうそう、ボクもソレすっごい気になるっスよ。もう強いなんてもんじゃなかったっスから」


「私の目には今でもはっっっきりと焼きついています。あの凛々しいお姿が!」


 四人の視線が私たち……主にニコへと集中する。まあ私がした事なんてちょっと防御壁出したくらいだからしょうがないといえばしょうがない。ニコの活躍に比べたら……。──くやしくなんかないもん。


「まずは自己紹介かな。私はすずめ。で、こっちが」


「ニコだ。よろしくな」


 言いながらウインクするキザなニコ。はぅ~ん、と身悶えしながらはしゃぐヤナギメさんは、瞳がハートに見えてきそうなほどニコにご執心のようだ。──騙されちゃって可愛そうに……。


「ヤナギメです! 好きな食べ物はオレンジパイ、嫌いな食べ物は辛いもの、特技は一途に愛し続ける事です! そして今私の愛はニコ様に一直せ……っ!」


「えっと……、私はカタハナ。一応この店の店長をさせてもらってます」


 暴走しかけたヤナギメさんの口を塞ぎながらカタハナさんが自己紹介を続けた。


「ヒメユキです。真っ先に戦闘不能になったのは、何を隠そうこのあたし…………」


 遠い眼で明後日のほうを見るヒメユキさん、少し鬱に入り始めるのを慰める三人。そういえば地下で治療してたのでニコの活躍を見ていない。三人がニコを絶賛する中、話題に着いていけてない様だ。それじゃあしょうがない。


「ボクはソラヅキっス。援軍感謝っスよ」 


 軽く敬礼のポーズをとったソラヅキさん。その屈託のない笑顔は、なんだかこっちまで元気が伝染しそうなほど気持ちがいいです。


 そんな中カタハナさんが身を乗り出す。


「それでニコさんは、どうしてあんなにお強いのですか。……言い訳がましく聞こえるかもしれませんが、魔獣となると最低でも正規騎士団の一小隊ほどの戦力が最低でも必要だと聞いていました。実際に戦ってみても、先ほど援軍で駆けつけてくれた宵蠍騎士団の方々全員で相手してギリギリと感じましたが、それをニコ様はお一人で討伐してしまわれた」


「あの魔獣をたった一人で!?」


 ヒメユキさんが驚きの声を上げた。


 カタハナさんは頷き答えてからコホンと咳払いをする。 


「個人が一小隊以上の強さを持っているなど、宮廷騎士団や魔道団の隊長格、各アカデミーの学園長、傭兵団の団長といったように、何かしらの長クラスしか私には聞き覚えがありません。私はこの街は長いので正規軍やアカデミーの事は良く知っているつもりですがニコ様のような方を見るのは初めてだと思います。

 近くに駐在している傭兵団にもニコさんのような方は居なかったはずです。そうなると……ニコ様は隣国やもっと遠方の国のご高名な方でしょうか」


 一瞬カタハナの表情が曇る。なぜだかは分からないが緊張の糸が張られたように周囲の空気が、私の余り好きじゃない雰囲気に変わった。


 よく分からない緊張感に戸惑っていると、ニコが唐突に私の頭をくしゃりと撫でた。


「そうかそうか、つまりお嬢さんは俺をどこぞの諜報員か何かだと疑ってるって分けだな」


「え、そうなのカタハナ!?」


「まあ、あの強さは異常だったっスからねぇ。隊長マニアなカタハナが見た事も無い人で、あれ程の強さを持ちながら無名のフリーなんてあるわけないっスから。となると、表では活動しない裏の仕事人って事になるっスよね」


「うーん。まあ、疑うのは分かるけど。魔獣を一人で倒すなんて、そんな目立つことを諜報員がする?」


 何やら私が思いもつかなかった内容で話が進んでいる。ニコが諜報員、つまりスパイ? いやいやいや、四百年閉じ込められていたニコがそんなわけはないし、そもそも馬だし。


 ふむ……どうやらカタハナさんは心配性の気質があるようだ。


「大丈夫大丈夫、ニコはそんな器用なもんじゃないですから」


 手をヒラヒラさせながら近所のおばさんが、あーら奥さん知ってますー、と世間話でもするようなノリで口を挟む。


 ………………。


 漂う緊張感は変わらず、更に沈黙が加わった。──あれ、私空気読めてなかった?

 少し気圧され始めると、頭に乗っかっていたニコの手がポンポンと私の頭を叩いた。


「ハッハッハ! まったくすずめはいい感じで抜けてやがるな」


「な、何よバカにして。私はただ……!」


「いやいや、褒めたんだって。すずめは可愛いなってよ」


「ぬな……!?」


 何とも言えぬ気恥ずかしさに俯き、膝に置いた手を合わせ指先を彷徨わせる。


「まあ、そうだな……今はこのお姫さんを守る親衛隊の隊長ってところだな。どうよ、これで納得してくれるかね?」


「姫の親衛隊の隊長……ですか。ふふふ、分かりました。ではそう書いておきましょう。私もお二人が悪い人だとは思えませんでしたが、こうして訊いておかないと、報告書に穴が出来てしまいますので」


 やんわりと柔らかな微笑を浮かべるカタハナさん。つまり……どういうことだ。業務上とか形式上、とかいう類だろうか。まったくハラハラさせてくれる……。


「もー、カタハナってば几帳面なんだから。私のニコ様が悪い人なわけないじゃない。報告書には颯爽と現れた正義の皇子様が華麗に魔獣を撃退し、ヤナギメと結ばれたって書いておけばいいの」


「私のニコ様……結ばれたって……何言ってるっスか、口ぶりからしてもニコさんはすずめさんのものっスよ」


 ……え、今何て言った?


「ライバル出現!? でも私は負けない、このロマンスの炎は命を燃やして輝きを増すの。つまり命がけの恋なのよ!」


「いやいや、ライバルというより完全なヤナギメの横恋慕っス」


「そんなことない! 私は愛の試練を蹴散らして、ニコ様と永遠の愛を育むの!」


「あー……だからっスね……」


「ちょーーーーっと待ったーーーー!」


 二人の話に横槍を入れる。聞いている限りでは、何だか私とニコがくっつけられていないだろうか。ンなわけは無い。何だってこんな変態と……、そもそも今はイケメンだが本来は馬だ。いうなれば獣。どうせなら私はハティの方がいい…………じゃなくて、なんでこんな事になっているのかだ。


「おお、そうっスそうっス。すずめさんからもはっきりと言ってやるといいっスよ。私の彼に手を出さないでって」


「私とニコは二人が言ってるような仲じゃないから!」


 全力で否定する。とにかく誤解は早く解いておかなければ。


「おいおいすずめ、そんなすぐばれるような嘘つくなよ。一緒に濡れた仲じゃねぇか」


 ニコはにやりと口元を歪めると私の肩に手を回してくる。川に引っ張り込んだ一件を、誤解を与える様な表現で言うな。


「ちょっ……何どさくさに紛れて……!」


 零距離からのエルボーをニコのわき腹にめり込ませる。ニコは大げさに俯くと私の膝上に頭を乗せてきた。


「ぐあああ、俺はもう暫く動けそうにない。どうやらさっきの戦いで力を使いすぎて、すずめに止めを刺されてしまったようだー」


「ぬな……!」


 たとえ虚偽だろうと分かっていても、完全に魔獣を任せてしまっていたのだから、そう言われてしまうと流石に良心の呵責が……、無碍にも出来ない気になってしまう。この変態……機会を狙っていたな……。


「一緒に濡れた…………、膝枕…………! うらやましい。私もニコ様とそんな濡れ場を……っ!」


 今度はソラヅキさんがヤナギメさんの口を塞ぎ、そのまま自分の膝上へと寝かしつける。


「分かったスっか。二人の仲はもう確定的っス。とりあえず頭を冷やしたほうがいいっスよ」


 ソラヅキさんに頭を撫でられているヤナギメさんは、頬を膨らませながらもそれ以上食い下がることはなかった。母になだめられている子供のようだ。


「ごめんなさいね。ヤナギメったら惚れやすい性質で、すぐにこうなってしまうんです」


「まったく、いつもなだめるボクの身にもなって欲しいっスよ。そろそろお給料にヤナギメ沈静料を加えてくれないっスか」


「ちょっとー、二人ともわかってなーい。恋は唐突なの。私は突然目の前に現れた運命の人に当然の愛を捧げてるだけなんだからー」


 ソラヅキさんの膝の上でゴロゴロしながら反論している、……なんとも間の抜けた光景だ。


「ヤナギメは、運命が多すぎだよね」


「そんなんじゃ、本当に好きになった人が現れたときどうすればいいか分からなくなるっスよ」


 ヒメユキさんは半ば諦め気味に、ソラヅキさんはヤナギメさんの頬をペシペシと叩きながら言った。そんなヤナギメさんは、むぅー、と唸りながらも大人しくしている。どうやらこれで一段落したっぽい。よかったよか……よくねぇ! 誤解がそのままじゃん!


「だから私とニコは……っ」


 言いかけたところで半壊気味の入り口の扉がバーンと開くと同時に止めを刺され、白衣を纏った人たちが計五人入ってきた。


 その一人が私たちを見るなり、


「あー、お楽しみ中のところ申し訳ないが魔獣討伐の報を受けて来た。センペルビレンスアカデミーの研究室副室長のキショウだ。

 早速拝見させてもらう」


 キショウと名乗った男は一礼すると、店のど真ん中に横たわる魔獣の亡骸へと歩み寄った。多分、この人たちが騎士の人が言ってた研究員の人なのだろう。


「………………ふむ、こいつか。では作業に取り掛からせてもらうとしよう」

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