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ファンタジーの街は、私の理想郷でした。 Ⅵ

四十



「おい、おいおい! 魔獣ってどういう事だよ。魔獣にやられたってのか!?」「え、魔獣? もしかして上で戦ってるの? ねぇ大丈夫なの!?」「なんで魔獣なんかがこんなところまで来てるんだよ! このシェルターは大丈夫なのか!?」「流石にやばくね?」


 魔獣という言葉を聴いた途端、シェルター内に罵声が飛び交い始める。


 魔獣……そういえばニコに教えてもらった。アクゼリュスの進化系みたいなやつだったはずだ。それがこの上まで来ているという事だろうか。


「落ち着いて下さい。今は私たちが持ち堪えてます。すでにアカデミーの方へ連絡済みですので、すぐに救援が駆けつけてくれるはずです。どうか落ち着いて下さい!」


 自分も無傷ではないだろうに、少しよろめきながら客たちを宥めている。

 そんな中、大きな爆音が上から響き、再びシェルターを揺らした。


「くっ、フユギリ、ヒメユキをお願いね。私も早く加勢しないと……」


「でも、先輩だってひどい怪我です!」


「大丈夫、まだ戦えるわ」


「じゃ……じゃあせめて治療を……!」


「だめ、ヒメユキに集中して。危ない状態よ。大丈夫、防御に徹すれば勝てないまでも負けないから。私たちが何て呼ばれてるか忘れたの」


「……は……はい。分かりました。ヒメユキ先輩は私が絶対に助けます! だから先輩も……」


「うん、任せて」


 そう言い先輩と呼ばれた女性はシェルターを出て、再び戦地へと向かっていった。正直あの怪我の具合は素人目から見ても立っているのがやっとに見えたが、本当に戦えるのだろうか。


「先輩……」


 フユギリさんは悲痛そうにそう呟くと、大きく頭を振って回復魔法を繰り返す。


「わ……わ……、私も手伝います」


 言いながらフユギリさんに向かい合う様にしゃがみ込み手を翳す、淡い緑のローブの少女。深くフードを被っているので顔は見えないが、ローブといい声といい、ニコが絡んでいた少女に違いない。


「ありがとうございます!」


 少女は指示に従い、回復魔法を発動する。二つの光が傷だらけの店員さん、確かヒメユキさんって呼んでたな。ヒメユキさんを包むと、より一層輝きが増し、表情が若干和らいでいくのが分かった。


「あの、すいません。今、手が離せないので、扉を閉めてもらってもいいですか」


 フユギリさんは私の方を向き、そう言った。なので扉の取っ手を掴む。外を見ると階段が上へと伸びている。時折、光と共に破裂音が響く。


「ねえニコ」


 店員さんとローブの少女を見つめているニコに声を掛け、手招きをする。


 無言でやってくるニコ。どうやらニコもその気みたいだ。話が早くていい。


「魔獣だって。すごい強そうだけど、大丈夫?」


 訊くとニコは不敵に笑う。


「ハッ、誰に言ってんだ。とっとと片付けて安全確保といこうじゃねぇか。第一こんなところでじっとしてるなんて、俺の性にあわねぇよ」


「だよねー。メインはよろしくね。私は店員さん達のカバーに入るから」


「ああ、任せとけ」


 頷いて、二人で扉を抜ける。「えっ、お二人ともどこ……」フユギリの声を遮るように、ニコは扉を閉めた。


「スターティングオペレーション! ドライブδ(デルタ)、ランク(ツェーン)、スクエア(アインス)、スケール(ドライ)、マテリアルライトニングオーダー、我願わくば光を」


 防御用の魔法を準備する。出会い頭にドカーンなんてのは勘弁だ。初撃さえ防げれば、後はどうにかなるだろう。今回は今までと違い、桁違いの相手の様なので、攻撃はニコに任せる。


 階段を登りきると、轟音と弾ける金属音の響く中、巨大な三つ首の魔獣が真っ先に目に飛び込んできた。宛らケルベロスのといったところだろうか。


 商品が綺麗に並んでいた棚は、砕けたり倒れたりと大いに荒れていた。壁には大きな穴が開いており、そこから魔獣が入ってきたんだと窺える。


 魔獣と相対している店員さん達は皆、大きな盾を持ち、一定の距離を保ちながら睨みあっている。


 そこで魔獣が吼えた!


「来るよ、構えて!」


 号令と同時に大きな盾を前面に押し出し一列に並ぶと姿勢を低く構えた。魔獣は三つの首から同時に炎の塊を吐き出す。炎弾は三人の盾にぶつかると轟音と共に大きく弾け飛び火の粉を撒き散らす。盾ごと大きく後方に吹き飛んだ三人は壁にぶつかり大きく姿勢を崩したが、視線はしっかりと魔獣を捉えたままだ。


 あとどのくらいで援軍が来るのかは分からないが、大きく身体を上下させ息を乱す三人はそろそろ限界そうだ。


 そこで魔獣が再び大きく吼える。


「ニコ、いくよ!」


「ああ、華麗に助けてお礼のキスでも頂こうじゃないか」


 私は三人の元へ、ニコは魔獣目掛けて疾走する。


「おら、こっちだぜ!」


 ニコは魔獣の注意を引くように声を上げ飛び上がる。横からの接近に気づいた魔獣は左首だけが振り向き炎弾を吐き出すと、残りの首は、姿勢を整えきれていない三人へと炎弾を放った。


「すずめ!」


「おっけー、まかせて!」


 魔獣と三人の間に立ちはだかり、右手を前方に向ける。


「イージス!」


 用意しておいた魔法を完成させる。前方に出現した大きな雷の壁に炎弾がぶつかると、強烈な破裂音と共に霧散した。同時に魔獣の悲鳴めいた咆哮が響く。見ると、切り落とされた左首が床に転がるところだった。


「さすがニコ!」


「当然だ!」


 強敵と理解したのか大きな足で棚を蹴散らしながら、魔獣は完全にニコと相対した。唸り声を上げ怒りを顕にする魔獣に対し、ニコの方は挑発するように軽いステップを踏んでいる。まあ予想通りだが心配はなさそうだ。


「あの……あなた方は……アカデミーの援軍……とは違いますよね?」


 イージスを維持しながら声に振り返ると、盾を支えに立ち上がる店員さんと向かい合った。


「あー、援軍とは違います」


 答えると、一人があっと声を上げる。


「あなたは……買取待ちのお客様……」


「……はい、そーです」


 ここで、深遠なる大魔導師すずめ様とか、暁の賢者すずめ様とかカッコいい二つ名付きの名前で呼ばれるのが理想だが……、まあ確かに今は、買い取り待ちのお客様……だ。


「なぜこのようなところに。危険ですのでシェルターにお戻り下さい!」


「そうっス。ここはボクたちに任せてほしいっスよ」


 そう言い、盾を引きずるように前へ出る三人の店員さんたち。自分の事より私たちの事を心配しているその姿は騎士の鑑だ。


 私は、眩しくも見えるその三人の騎士をこれ以上傷つけたくはない。


 鎧は所々が砕け立ってるのがやっとに見える。それだけはっきりと分かるほど三人は消耗していた。


 店員さんの一人を軽く押した。するとフラフラと後ろへよろめき、そのまま尻餅をつく様に倒れた。


「お、お客様。何をなさるのですか!」


「そんな身体じゃもう戦えるわけないと思いますよ」


「……ですが、ここで私たちが戦わなければ」


 分かってる。きっとこれが騎士道というものなのだろう。でも私が言いたいのはそういうことじゃあない。


「もちろん、諦めろって言ってるんじゃないです。ただ、任せて欲しいって言ってるんです」


「任せてって……相手は魔獣ですよ。お二人で勝てるわけが……!」


「いいえ、二人じゃないです。一人ですよ」


 振り返るとすでに勝負は終盤に入ったようだ。魔獣は右の首も切り落とされ追い詰められていた。ヤケクソ気味に吐き出す炎弾が時折イージスにぶつかり弾ける。

 そして爪を滾らせた両前足がただひたすらに空を斬る。ニコは縦横無尽に飛び跳ね、魔獣を手玉に取っていた。


「うそ……どうして……」


「彼……何者なんスか……」


「うわ……うわわわわ」


 三人の絶賛の声を聞き、少し優越感に浸る私。もちろん私の事を言っているんじゃないのは知っているが、ニコの事を褒められるとちょっと嬉しい。


 そんな賞賛の中、ニコは飛び掛った魔獣の残った顔を蹴り上げる。するとその巨体がふわりと浮き上がり、地面に落ちると同時に最後の首がずるりと転がった。

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