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どちらかというとペガサスの方がカッコいいよね。 Ⅳ

三十三



「で、何だ。主導権を握って、俺に何か雑用でもさせようってのか。まあ、出してもらえるなら、なんだって聞いてやるぜ。大好きなすずめの頼みだしな」


「えっと、馬…………ん~、ユニコーン…………」


「なんだよ一体」


「いや、なんて呼ぼうかなって。馬は嫌なんでしょ、でもユニコーンって呼ぶのも何かねぇ……。ほら、種族名で呼ぶようなもんでしょ?

 おいそこの人間、とか、おいそこのげっ歯類、みたいな」


「別に、ユニコーンはユニコーンだろ。それに種族名でいったら、多分俺らはアルス・マグナだと思うがな。まあ、俺は気にしないから、好きなように呼べよ。馬、以外でな」


 うーむ、ユニコーン。「ねぇ、ユニコーンちょっといい」「早く来てよユニコーン」「あ、ユニコーンこれ運んでおいて」…………何かしっくりこない。名前を呼んでいる気がしない感じだ。ハティはもうハティでしっくりと落ち着いているのにな。ユニコーン……ユニコ……ユニ……コーン……ニコーン……ニコ…………、ニコっていいんじゃない。なんかそんな名前のキャラ、ゲームでも見たことあるし。


「よし、命名、これからあんたはニコ!」


「ユニコーンで、間を取ってニコか。単純だな」


「な……! 変更、変更!」


「いやいや、悪いとは言ってないぜ。別にいいんじゃねぇか。ニコ。じゃあ今度から俺の事はそう呼んでくれよな」


 ハッハッハと声高く笑うニコ。なにやら楽しそうにも見える。


「で、俺に何をさせるんだ。名前を付けたかったってわけじゃねぇだろ?」


「そうそう、そうだった。えっとね、外に出たら私を近くの街まで乗せていって欲しいの。あ、もちろん帰りもよろしくね」


 街までの送迎。実際にニコに乗っていて思う事だが、背中が広いからか非常に乗り心地が良い。それに、忘れそうになるが私じゃまったく歯が立たなかった実力者だ。街までの道中の安全と、徒歩だと一日はかかりそうな移動時間を解決できるはずだ。


「……………………」


 反応がない。やはり、何だかんだいってハティと同格であろう者をタクシーにしようなんて失礼千万だったろうか。結構ノリが良さそうだったので、いけると思ったんだけど。


「なぁ、すずめ」


「な、何?」


「そんなんでいいのか? 俺はてっきり、サードプラントのエクスカリバーが欲しいとか、フィフスプラントのエリキシルが欲しいとか、俺の角が欲しいとか、そんな事言われるのかと思ったぜ。だがその程度ならいいぜ、お安い御用だ」


 どうやら私の心配は杞憂だったようだ。っというか……、


「エクスカリバーってあの聖剣エクスカリバー!? エリキシルってあの、別名賢者の石!? それに、そういえばユニコーンの角って万病に効く万能薬になるって聞いたことがある! 本当なの? 本当なの!? あるの? あるの!?」


 聞き覚えのある単語が唐突に乱舞して、私は興奮が抑えられなくなっていた。ニコの首に飛びつき耳元で騒ぐ。


「あー……なんてこった。そうだな、率先して冒険なんてしてるくらいだからな。失言だったぜ」


 なにやらぶつくさと呟くニコ。しかし、何の考えもなく勢いで首に飛びついたが、ニコの首はビクともしていない。やはりすごい。


「ほれ、柔らかな感触がとても名残惜しいが背中に戻れ。危ないぞ」


「はぅ!」


 思えば、こいつはエロ馬だった。危ない危ない、うっかりサービスしすぎてしまった。言われるがままに、首から滑り降りると背中に跨り直す。


「言っておくがな、エクスカリバーもエリキシルも角も無理だぞ。エクスカリバーは五人がかりでやっと制御できる危険な代物だし、エリキシルは未完成で性能が安定していない、そしてこの角は俺のシンボルであり、何をしようと折れるようなものじゃねぇ。まあ言っといてなんだが、すずめの手に負えるような物じゃねぇって事だ」


「ふーん、そっか……ならしょうがないか」


「お、意外と諦めが早いな。もっと食いついてくるかと思ったが」


「ただ、聞き覚えのある名称に過剰反応しちゃっただけだから。それにやっぱり、街には連れてってほしいからね」


 確かに、私的には引き下がるのが早いだろう。だがそれにも理由はある。まず第一に、研究所にあるという聖剣エクスカリバー。しかも五人がかりで制御するというと、何やら少しばかり違和感を感じる。私には、エクスカリバーという名の兵器のように思えてならない。そして危険な代物ときたもんだ。一人じゃ危なすぎて何も出来ないだろう。


 エリキシルにしてもそうだ。『哲学者の石』『ラピス』『万能第五元素』『赤いティンクトラ』などなど別名が多くあるが『賢者の石』こっちの方が有名だろう。錬金術の集大成であり、全ての錬金術師の目標だ。その効力については様々な説があるが、どちらにしろ未完成で不安定なんて何が起こるか分かったもんじゃない。


 万病に効く角についても、私は今不治の病どころか、最近風邪が治ったところだ。つまりはどれも今の私には必要なさそうという結論。ただ、そういうのがあるという事実だけでも私のテンションは絶好調になる。


「しかし、街ねぇ。なんだってわざわざそんな所に行く必要があるのかね。この研究所は引っ越した後といっても、緊急時のシェルターとして利用できるように、生活に必要な物資はそのままにしてあるはずだぜ。ここにいりゃあ生活するのになんら問題はないと思うがね」


「うん、まあそうだけど。でもさ、行ってみたいじゃん、見知らぬ街。そしてこの世界の服とかも欲しいし」


「この世界の服……ね。そういえば異世界から来たとかハティが言ってやがったな。俺からしてみれば、その異世界の服もなかなかそそるから好きだがな」


「なっ……いやらしい目で見ないでよ」


 ニコはまた首だけ振り返ると、スカートを覗こうとする。それを咄嗟に手で押さえる事で防ぎながら、空いた手で首元をペシペシと叩いた。


「しかし、アレだな。こうしてよく見てみると……」


「だから、じろじろ見ないでよ変態」


 今度は、全身を舐め回すように視線を動かしてくる。膝を寄せて前傾姿勢になり完全防御の姿勢をとった。この変態馬の背にいる以上、飛び降りるにしてもかなりの高さがあるため、これが今出来る最大の抵抗だ。


「まあ、そういうなよ、つれねぇなぁ。俺はただその服、大分ぼろっちくなってるなって言いてぇだけだ」


「む……、そうかな……」


 姿勢を戻し、制服の袖やスカートの裾などよく見てみると、確かに所々がほつれていて一見可哀想な女子高生風になっていた。


「だろ? まあ確かにこれじゃあ新しい服は必要だろうな。ここにあるのは予備の白衣くらいで色気に欠けるからいけねぇ。しかしアレだ。服を買うにしても金はあるのか? さっきも言ったが俺は持ってねぇぞ」


「あー、えっとそれはね、これとかお金にならないかなと思ったんだけど」


 カバンを漁り、猫の魔獣を倒したとき手に入れた緑色の結晶を取り出すと、振り返ったニコの目の前に突き出す。


「じゃじゃーん。昨日猫みたいなのを倒した時に手に入れたの。なんか高く売れそうじゃない」


「ほう、ラーイルカイトじゃねぇか。ってことはアクゼリュスに勝てるだけの実力はあるって事だな。まあ、さっきの現象記録保持の使い方といい、なかなか良い線いってたからな、そう難しくもないか」


「くふふふふ、まあね。でもよくアクゼリュスにも勝ったって分かったね。完全に不意打ち気味だったし」


 この結晶も、もう一つの結晶も猫の魔獣から手に入れたのもだ。アクゼリュスとかからは出たかどうかも確認していなかったが、ずばり言い当てたニコに驚く。


「そりゃあ、ラーイルカイトはアクゼリュスの体内に精製されるものだからな」


「アクゼリュスの体内? 私が倒したのは猫の魔獣で、その体内からこのラーイルカイト?ってのを手に入れたんだけど」


「猫の魔獣……? さすがに今のすずめじゃ魔獣は無理だろ。…………この森で猫っていったら……ああ、あいつか。黒いやつだったろ? それはアクゼリュスだ」


「確かに黒かったけど……。え? アクゼリュスは……あれ? あれれ?」


 何か私とニコの間に大きな相違があるような気がする。私の見解は、最初に遭遇した熊のような魔獣がいたが、ハティがその熊の魔獣をアクゼリュスと言った。のであの熊がアクゼリュスという名前なのだと思っていたが、ニコは猫のような魔獣までアクゼリュスだと言う。これはどういう事か。


「えっと……、こう黒くて両手にすっごい爪がある熊のような魔獣に襲われて、そいつを追い払ってくれたハティがアクゼリュスだって言ってたんだけど。あの熊がアクゼリュスでしょ?」


「熊……あー、あいつか。そうだな、それもアクゼリュスだ。…………ああ、なるほどそーいう事か。分かった分かった。すずめはその熊の魔獣ってやつの固有名がアクゼリュスだって思ってたわけだ。そうじゃなくてだな、総称……すずめが言うところの『魔獣』ってのがアクゼリュスって事だ」


 魔獣ってのがアクゼリュス……。つまり、熊の魔獣の名前がアクゼリュスってのは私の思い込みだったわけか。ハティはアクゼリュス、つまり魔獣だって言ってただけって事だ。魔獣=アクゼリュス。分かってしまえば簡単だ。この世界特有の総称。こういう魔法世界ではよくある事ではないか。


「それと、すずめの世界ではどうだったのか知らないが、この世界でいうところの魔獣ってのはな、地の底に棲みつき特殊な進化を遂げたアクゼリュスの事だ。アクゼリュスは全て体毛が黒いが、魔獣へと変わると特殊な能力を操るようになり容姿も大分様変わりする。まあ別格だ」


「へぇー、そうなんだ」


 となると、魔獣=アクゼリュスではなく、魔獣>アクゼリュスとなるわけだ。アクゼリュスでもあれ程なのに、魔獣になったらどの位強くなるのだろう。先が見えない。が、やはりファンタジーはこうでなくては張り合いがない。


「だがまあ、ハティのやつがすずめを助けたって言ってたが、そいつに襲われたのか。結構アクゼリュスの中じゃ強い方だぜ。それでも一般レベルでの話しだがな」


「そうそう、いきなり後ろからドーンだよ。酷いと思わない?」


 そのまま愚痴をこぼすが如く、ニコにこの世界に来る前と後のことを語った。






「ほー、大変だったな」


「大変だったのです」


 一通り愚痴ると、いよいよ目的の居住区扉前へと到着した。ニコが姿勢を低くし、私はその背から滑り降りる。途中スカートが捲れ上がるがニコはこちらを見ていなかった。セーフセーフ。


 ニコの首元に手を置き、ポンポンと叩く。


「ニコ、これでやっと釈放だね」


「バカを言うな、冤罪だ。あいつら絶対告訴してやる」


 扉の前までやってくると、見慣れた五つの突起に指先が当たるよう右手の平を置いた。その部分より青い波紋が広がると、スッと扉が開く。


「よっしゃ、これで晴れて自由の身だ!」


 歓喜を上げるといち早くニコが扉を抜ける。天井がニコの身長……全長? より低いため、首を前方に屈めている。とても窮屈そうに見える。


「そんなに急がなくてもいいのに」


「なに言ってんだ、四百年待ったんだ。外の様子はハティから聞くくらいしか出来なかったからな。早く存分に走りたいぜ」


「まあ、確かに四百年はねぇ。って、そういえばさ、ハティは外にいるんだよね。で、どうやってあんなところに居たニコに私の事とか、外の事とか伝えられたのかな」


 考えてみると、大声を張り上げてもさすがに届きそうもない。となると一体どうやってだろうか。


「ああ、俺たちアルス・マグナは近くにいれば意思を飛ばす事で会話が出来るんだ。この森くらいなら十分に届くからな。俺が出られなくなってからあいつは、大した事がなくても飽きずに毎日、俺に話しかけてきやがった。鳥の雛が木から落ちていたから巣に戻したとか、今年の黄金花はいつもより早く咲いた、とかな」


 話すニコの声が少し優しくなる。毎日か……。四百年間ずっと、ニコが寂しくならないように話しかけていたのだろう。ハティの優しさはもうずっとずっと前からのものだったんだ。


「そっか、やっぱ優しいね。ハティ」


「ハッ、なに言ってんだよ。背中に乗せた麗しの女達のフトモモの感触を思い出してる時に話しかけられてみろ、萎えるぜ」


「うわぁ、サイテー」


 軽口を叩くニコを一瞥する。だが私は分かっている。きっとこれはニコの照れ隠しだと。こういうタイプはこのように思ってもいないことを言っては本音を隠す。私の持っているマンガのキャラにも似たようなのが結構いる。こんな事を言いながらも分かり合える、男同士の友情とでもいうのだろうか。素敵だ。ニコも類に漏れずである。可愛いところもあるなと思った。


「何を言う。俺には崇高な時間だ。現に今も、さっきまでのフトモモの感触を記憶に焼き付けているところだからな」


 振り返りニヤリといやらしい笑みを浮かべたニコ。


「だあああああぁ! 忘れろ、バカ!」


 ニコの鼻先を両手で叩く。こいつやっぱり変態馬だ。少しでも可愛いなどと思ったことが心底悔やまれる。


 居住区の廊下を抜ける途中、「ちょっと待ってて」と言い、私が居座っている部屋にカバンなどの手荷物を置いてくる。正に、肩の荷が下りた気分だ。でも、腰の剣はそのままにしておく。


 突き当たりの扉のドアノブを回し研究所エリアへと入り、再び長い廊下を進み続け、最後の扉へ到着した。


「さあすずめ、早く開けてくれ」


「はいはい」


 この扉を抜けると、いよいよ石球の内へとでる。早く早くと急かすニコが少しばかり子供のように思えてくる。まあ見た目は大きすぎるけど。性格もアレだけど。


 扉に手を置き開く。またもニコは待ちきれない様子で、開きかけの隙間に頭を突っ込みグイグイと広げて飛び出した。だが、天井が低いのと階段があるため、もたついている様子だ。


 ニコの後から石球の内側の広場に出ると、透けた空は暗くぼやけて見えた。


「雨かよ。ついてねぇな」


「あー、ほんとだ。結構振ってるね」


 石球の表面を伝い落ちる雨の雫が幾重にも連なり、周囲の森の景色を歪んで見せる。その勢いからかなりの大雨だということが窺えた。さすがにこれでは外に出られないだろう。が、ニコは雨なんて気にせず飛び出してしまうかもしれない。なんせ四百年振りなのだから。


「しょうがねぇ、止むまで待つとするか」


「あ、待つんだ。すぐ飛び出すんじゃないかと思った」


「そうしたいのも山々だが、待ちに待ったシャバだぜ。やっぱ清々しい晴れた空気の中がいいじゃねぇか。四百年に比べたら、雨が止むまで待つくらいどうって事ないしな」


「ふーん、そういうもんなんだ」


 ニコは広場の中央に座り込み、空を見上げた。私も何をするでもなく座ると、そんなニコに寄りかかり空を仰ぐ。石球の中は完全な防音で、外で響いているであろう雨音は微かにも聞こえないが、自然とその音が頭の中で響く気がした。薄暗い森の中で雨風をしのぎ、ただ呆けてるっていうのも、これはこれで一興かもしれない。

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