表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/75

どちらかというとペガサスの方がカッコいいよね。 Ⅰ

三十



 昼食の天丼を堪能し食後の休息とばかりに、昨日見つけたマンガの部屋から数冊をちょろまかしてきた。


 表紙だけで選んだので内容の方はまだ分からないが、剣を持ったキャラクターとその後ろに大きくドラゴンが描かれていたので、多分私の好きなジャンルだと思われる。結構な巻数が出ているみたいで、同タイトルが本棚にズラリと並んでいた。長く楽しめそうだ。


 その中の一巻から五巻までを取り出し、最初の部屋まで持ってきたというわけだが、……別に持ってこないで、そのままその部屋で読んでも良かったなと少し思う。なんせ間取りも何も全て同じなんだから。


 だが持ってきてしまった、これはいつもの癖だ。よく泉の部屋からマンガを拝借して自室に持ち帰る何て事をしていたので、その流れでというだけだ。習慣というのは無意識に出てくるもので,誰だろうと時折自分でドン引きするような経験をした人もいるだろういるはずだ。


 ちなみに泉の持っているマンガはミステリー系がほとんどだが、その数ある中でも警視庁の新米刑事と宇宙人の少女が協力して事件を解決していくシリーズ『アカシックレポート』は私も大好きである。でもやはり、一番といったら剣と魔法のファンタジーしかない。


 マンガを読み始めてまだ少ししか経ってないが、魔法だの邪龍だの騎士団だの、私の好きな単語が乱舞していた。


 少し興奮気味にページを捲る。今となっては、この平面でしか見ることの出来なかった世界が、妄想するしか出来なかった魔法が今私の目の前に、私の手の中にある。久しぶりな気さえするこの一時に、夢にまで見た魔法のある現実が加わり何とも言えぬ高揚感が溢れていた。


 あわよくばマンガに出てくるカッコイイ魔法や剣技などを模倣してやろうと一ページ一ページ熟読する。最初から結構なバトルシーンが展開されていて少年誌のようなノリだ。──このノリ、嫌いじゃない。


 好みに合ったマンガに、当然の如く私は没頭した。


 主人公は、王国近衛騎士団団長の息子。幼少期から日夜、剣の修行に明け暮れていたところ、その父の親友である宮廷魔導団大魔元帥の繰り出す魔法に一目惚れ。魔導師になりたいと思うが、いずれは立派な騎士にという父の期待も裏切れなかった。父に剣を、父の親友に内緒で魔法を習うという非常に過酷な修行を乗り越えて、やがて青年になった主人公は、ある事件をきっかけに非常に稀有な魔法剣士という称号を女王陛下より授かった。そんながんばり屋さんが主人公だ。カッコイイ。


 冒頭は、そのような主人公の成長過程が描かれており一巻の中ほどから現代へ。剣と魔法の更なる融合を目指し世界各地を回りながら、その先々の剣技や魔法の知識を集めて回る武者修行をしている。といった内容だ。


 そういえば、こういうバトル系のマンガには大きく分けて二種類あった。


 最初は素人同然の主人公がストーリーの進行とともに成長し強くなっていく勇者タイプと、最初から強く様々なトラブルを華麗に解決していく英雄タイプ。このマンガはどちらかというと後者の方。だがまあ、ストーリーの進行とともに剣術と魔法を修めていくのでドンドン強くなっていく。底知れない主人公だが、まだ父やその親友には遠く及ばない。


 敵の剣戟を素手で弾き落としたり、巨大な魔獣の炎の息吹を魔法で相手ごと貫いたりと、主人公もかなり人間離れしているのにそれ以上とは……どう展開していくか楽しみだ。


 マンガのタイトルは『エクス・クワイア』だ。意味は…………分からない!




「この身体は偽善の剣、この魂は縛鎖の楔、私の業は消えないが、せめてきみの墓標となろう……」


 大きな身体故に人々から迫害され、その傷心故に人々を恐れ、そして傷つけてしまった悲しい魔獣。

討伐を依頼され葛藤する主人公。最後まで躊躇うが、追い詰められた魔獣はその牙を唯一討伐に反対していた少女に向けた。主人公は少女の前に立ち塞がり、深く、鋭く、その巨体に剣を突き立てたのだ。ゆっくりと傾く魔獣の巨体、泣き叫ぶ少女の姿。


 少女に抱かれた魔獣は最後の力を振り絞るかのように腕を上げる。警戒した主人公だがすぐに緊張を解いた。魔獣の指先は少女の涙を拭うと重力に引かれドサリと落ち、もう二度と動く事は無かったからだ。


 少女に優しく抱かれながら消えていく魔獣に主人公が言った言葉を、私は涙ぐみながら呟いていた。


 この魔獣はまだ小さかった時に森で少女と出会ったのだ。その頃はまだ仔犬のような姿をしていて、親とはぐれてしまったのかひどく衰弱していた。少女は家に連れ帰り介抱すると、その後そのまま懐き仲良く暮らす事となる。


 でもその仔犬の成長速度は異常で、一ヶ月もすると少女の背を抜かしてしまった。暫くして家に入らなくなってしまったため、少女は森の中で育てることにしたが、犬にしてはおかしいと思った母親はとある機関に調査を依頼した。調査団が来たのはそれから一月後だったが、もうその時は明らかに魔獣だという特徴が現れ始めていた。


 街の近くに魔獣がいる。それだけで人々は不安に駆られる。少女の弁明も空しく討伐依頼が出される事となり、たまたまその街に来ていた主人公が依頼を受け、このような悲しい結末となったのだ。


 私は、何度のその話を繰り返し読み直していた。


 原因はなにか。少女が連れ帰ってしまった事だろうか、人々が魔獣のことを理解しようとせず迫害したせいだろうか。それとも魔獣がその牙を振るってしまったからだろうか。考えても答えは出なかったが、少女に抱かれ、それまで我を忘れたかのように暴れていた魔獣が昔の……仔犬だった頃のように甘えながら穏やかに眠るシーンでその都度、私の涙腺は決壊した。



 ……気づくと、持ってきた五巻まで一気に読みきってしまっていた。悪い癖が出てしまったようだ。どうもマンガを読み始めると時間の感覚が曖昧になってしまう。


 午前中に本棚漁りはほぼ終わらせたが、まだやりたい事はいっぱい残っている。


 立ち上がり、腰にベルトを巻くと剣と短剣を差す。たとえ安全だとわかっていても何があるか分からない。私も一介の魔法剣士、剣士たるもの剣は生涯の友、いついかなる時でも携帯するものだ。と、我が師マルコ様も仰っていた。


 五冊のマンガを抱え部屋を出る。しっかりバッチリ把握したマンガのある部屋の本棚に返すと、続きが気になるが探検を続行するべく気を新たに廊下の奥へと突進していく。


 倉庫の重厚な扉を横切り、午前中に捜索し終わった部屋を華麗にスルーして、まだ手をつけていない部屋の前へと到着した。研究所の見取り図によると、この居住区はあと五部屋ほどで終わりそうだ。なので、探索が終わったら魔法の訓練でもするとしようか。そしてその後にまた、マンガの続きを読むとしよう。


 部屋へ入ると今までと同じ要領で本棚を漁った。一冊一冊手に取りタイトルを確認していく。やはり研究者達の部屋であろうところにある本は、どれもこれも小難しいタイトルが並ぶ。そして隅っこのほうに息抜き用か、ちょっとした文庫本などがちらほらと姿を現す。九割方このような構成だった。


 順調に五部屋全てを回り終わったが、どうやら有益そうな本はもう無さそうだ。


 最後の部屋を後にして目線を横に向けるとそこは廊下の突き当たり。行き止まりではなく、手を置いて開けるタイプの扉が待ち構えていた。


 研究所の見取り図を開き、この先がどうなっているのかを確認すると、どうやら大きな円形の広間があるようだ。更にそこから二方向に通路のようなものが伸びている。見取り図に収まりきらないほど長い通路だ。ただ一番端にアルファベットのAと書かれている。


 私の記憶が確かならばこの表記の仕方、ゲームの攻略本に載っているマップ等で見たことがある。マップとマップの繋がりを表すために使われる表記だ。もしこのアルファベットも同じように使われているのだとしたら、別のページにもあるかもしれない。


 すぐに見取り図を捲り、アルファベットのAを探す。


 探しながら気づいた事だが、どうもこの見取り図に載っている研究所らしき施設には全て、居住区の廊下突き当たりから円形の広間へ繋がっていて、そこから更に二つの通路が伸びている。そして通路全てにアルファベットが表記されていた。


「これってもしかして……」


 Aを見つけた。居住区から研究所、そこから階段を上がり出入り口へ指で辿る。すると大きな円形の広場へ出る。


 今私のいる研究所の出入り口はそれほど大きくはない石の棺のようなものだった。この見取り図を見る限り全ての施設は、出入り口の形や、そこから繋がる研究所の並び、居住区の並びなど、同じ形をした所は一つも無い。つまりこのアルファベットが私の思った通りのものだとすると、


「もしかして……研究所同士は地下で繋がってる!?」


 これが本当ならすごい発見かもしれない。研究所から研究所までこの地下の通路を通れば安全に探険範囲を広げられるという訳だ。素晴らしい。まあ、スフィアと剣を手に森の中を探索するのも非常に心ときめくところだが、まだまだ未熟な私だ。まずは安全第一でいくのが無難だろう。


 そう、まだまだ未熟。初戦のアクゼリュスの不意打ち以外には全て連戦連勝しているので、そろそろ調子に乗ってもいいところだけど、そこは流石の私。マンガで同じような境遇のキャラが調子こいて大失敗をやらかす、なんてところを何度も目の当たりにしている。なので謙虚な私は慢心せず、日々訓練を重ねて少しずつ上を目指す。これが出来る女というやつだ。我が師、マルコ師匠もそうおっしゃっていた。気がする。


 そんな私の目の前に、冒険の安全率を上昇させられそうな可能性がある。


「やっぱりこれは、確かめてみるしかないよね」


 扉に手を置くと光の波紋が広がり音もなくスライドしていく。第一関門である無反応はクリアできたようだ。


 この先予想通りなら結構な距離がある。一度部屋に戻り水筒に水を注ぎカバンに放り込むと肩から斜めに掛けて、さっきの扉まで小走りで戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ