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やっぱり、エクスカリバーとかに憧れる。 Ⅳ

二十九



 私は、棚に手をかけて飛び上がり、身体を前方に押し上げた。だが、腕力が大分足りないようで、上半身がやっと棚の上に乗っかった程度で、勢いが止まってしまう。


 両足をバタバタさせながら、どうにか右足を棚の上に引っ掛ける事に成功する。スカートが捲れ上がり、絶対に誰にも見られたくないような格好だが気にする必要は無い。


 そのまま足と腕で這いずるようにして棚へとよじ登る。


「目標地点到達、これより対象の分析に入る」


 どこかの誰かと交信し終えると、早速箱と対面する。黒い箱の上部には弓状の取っ手のようなものが二つ付いており、早く開けてくれと私を待っている。ような気がする。


 少し屈み、取っ手を優しく左右の手で持つと、ゆっくりと引き上げた。観音開きの箱の蓋は意外と重かったので、両足を広げて力を込め易くする。これもまた絶対に誰にも見られたくない格好だが気にする必要は無い。


「ふうぬぬぬぬぅ~……」


 がんばって開いた蓋の下には、大きさがタバコの箱くらいのスポンジのような白いものがいくつも載せられていた。緩衝材だろうか、取り上げてみると心地いい手触りですごく軽い。しかもムニムニッと弾力性もある。古代文明の緩衝材はやはり格別のポテンシャルを秘めているようだ。


 その緩衝材を一つ、また一つと取り除いていくと、箱の中身が徐々に現れてきた。何やら金属っぽい。


「こ……これは……!?」


 箱の中から棒状の物を掴み引き抜いた。それは偶然なのか天からの贈り物か、と思ってしまうほど今一番求めていた品物が私の手の中にある。


 白地に黒い蛇のような模様が描かれている鞘から、細かい細工の施された柄を右手で握り、両手を伸ばし水平に構えるとゆっくりと抜き放つ。


 スラリと細く伸びた青白い両刃は八十センチくらいだろうか、一点の曇りも無い……と思う。


 求めていた物。そう、私はこの古代研究所で剣を手に入れるという偉業を成し遂げた。私の知る普通の剣より細いことを考えると、きっと細剣と称されるレイピアの部類だろう。これはもう何かの導きとしか思えず、きっと勇者適正の成せる業なのだろうと決着。私は天に愛されているみたいだ。


「じゃきーーん!」


 細剣を正面に真っ直ぐ構えると何だか熟練の剣士にでもなった気分だ。レイピアとは、鋭角な刃先による刺突を主とした武器だ。だが薄く鋭い刃による斬撃でもそこそこ戦える。華麗に切り結び、一瞬の隙を突く一撃必殺の武器。


 ともあれこれで近接戦闘力がFからCくらいには上昇しただろう。まあ、問題は私の片手剣スキルが素人同然だということだが、我が師マルコ様の剣技を思い出しながら修行する事にしよう。スタート地点にさえ立てれば後は進むだけ、這いずってでも何でも進み続ければいいのだ。我が師マルコ様の得意技、奥義鬼哭一閃をこの手で繰り出す日も遠くない。気がする。


 満ち足りた気分で剣を鞘に納め足元に置き、箱漁りを再開すると次々に素晴らしい品が現れる。


 高名な盗賊が愛用してそうな短剣、ドラゴンのブレスですら防げそうな重厚な盾、エルフの英雄の肖像画などに描いてありそうな弓、無骨な傭兵長が振り回しそうな大斧、屈強な戦士が背負っていそうな大剣。箱の中には、様々な武具が私の夢と一緒に詰まっていた。


「これ、これこれ! 私はこういうのを見たかった!」


 とはいえ、盾や大斧、大剣などは私が持てるような重さではないし、弓なんて使った事もない。


 ただ、短剣だけは持っていてもいいかもしれない。取り回しやすくサバイバルにも役立つ。剣の他にもう一つくらいあると安心できそうだし、何か格好いいと思った。


 短剣を鞘から抜き出す。鞘の見た目は先ほどの剣の鞘と似たようなデザインで、銀色の下地に金色の龍が描かれている。ゴージャスな仕様だ。


 刀身は片刃で、赤く光を反射していた。一瞬、血がべっとりついているのかと思い息が詰まったが、すぐにそうではないと分る。余りにも鮮やかな赤だったのだ。


 その輝く刀身に少々時を忘れてうっとりする。見た目からして一般的な短剣ではない気がした。


「やはり高名な盗賊が愛用……いや、もしかすると王族が護身用として携帯している由緒正しき一品かも!」


 抜き身の短剣を逆手に持つと、腰を低く構え前方を一閃してみる。すると赤い輝きが残像として軌跡を描き、何とも魅惑的な情景を作り出した。


 見た目から非常に攻撃力が高そうな気がする。エクスカリバーを百として、この短剣は三十くらいはありそうだ。多分。ちなみに一般的な剣は十だ。


 一気に手持ちの武器が増えて、しかもどちらも高性能な予感。状況をゲーム的にいうと木の棒から、いきなりミスリルソードを手に入れたようなものだ。まあそれ以前に、女子高生から転職の試練無しに魔法使いになっているのだけれど、それは本来あるべき職業に戻ったという事にしておこう。そう、私は魔法使いになるべくしてなったのだ。


「さてと……」


 顔を上げて辺りを見回す。ぱっと見えるだけでどのくらいだろうか、箱の数は。

 ……正直、全てを検めていたら日が暮れるどころではない、月が変わるかもしれない。それだけ大量の箱がこの部屋にはびっしりと積まれている。


 もちろん別の箱には、更にすごいアイテムなどが埋もれているかもしれないが、さすがの私も途方にくれてしまう。


 でも今は、私の好奇心の方が優勢だ。


 一通り見終わった箱を閉じると、手に入れた剣と短剣を両手に持ち、棚から飛び降りる。着地と同時に少しだけ足が痺れた。


 倉庫の出入り口の側に戦利品を置くと、再び先ほどの棚に張り付き、今度は下段の箱を漁る。全てとまではいかないが、この棚の半分くらいは調べておきたい。


 問題は、上段なら上に遮るものが無いのでそのまま蓋を開けることが出来たのだが、下段の方は箱自体が何個も積み上げられているため、上の棚との隙間がほとんど無く蓋を開けられない事だ。


「どうしたものか……」


 もちろん非常に重いので、押したり引いたりは出来ないだろう。


 暫く考えるも妙案は浮かばず、ただ時間だけが過ぎていく。なので考える事は止める。とにかく今開けられる分だけでも調べてみようと思い、再びジタバタしながら棚によじ上った。




 時計が無いのでどのくらいの時間が経ったのか分からない。重くて四角いものを誤って足元に落としたのを間一髪のところで華麗に回避、豪華絢爛な装飾品が詰まった箱に目印を残したりと、いくつかのイベントをクリアしながら、どうにか二段目を見終わった。


 箱にはどれも武器や防具、アクセサリーといった私の心を激しく高揚させるものが沢山あり、魅力的でどれだけ目移りしたか分からない。


 分からないが結果はというと実用的なものが、ガンマンがしてそうな黒いベルトだけだった。


 武器はもう剣と短剣を手に入れているので必要は無い。杖などがあれば欲しかったところだが、生憎と見つからなかった。防具は、そのどれもが金属製で、装備すると著しく俊敏さに悪影響を与えそうな鎧や兜、盾ばかりで、ローブや法衣といった類が見つからない。残念。


 そして様々な特殊効果の付与された定番アイテム、アクセサリー類だが、ぶっちゃけ効果がまったく分からない。ゲームではカーソルを合わせると特殊効果の説明テキストが出てくるものだが、現実ではそんな便利なものは出てこない。アクセサリーといえば、呪われているのも定番なので、怖くておいそれと身に付ける事も出来ず、もどかしさに身悶える。


 そして手に入れたベルトだが、これは何の変哲もない普通のベルトだ。ホルダーが左右に二つあり、丁度手に入れた剣と短剣を差しておくのに丁度よさそうだったので頂戴した。


 早速、ベルトを腰に巻くと棚の縁に腰を下ろし静かに降りる。


 出入り口に置いてあった剣を拾い上げるとベルトの左ホルダーに通し、しっかりと固定する。続いて短剣を右ホルダーに通して固定する。


「くふふふふ……」


 自分の余りに格好いい姿に思わず笑みがこぼれる。左右に帯刀した私は、正に天才美少女剣士そのものではないか。


 少しばかり、倉庫内を歩き回ってみる。颯爽と。


 ……………………。


 剣も短剣も切っ先のほうが少し外側に向いているので歩行の妨げになるような事はなく、これなら走っても問題はなさそうだ。


「うんうん、これはベストチョイスだね」


 剣の柄に手をやり勢いよく引き抜くと、左足を半歩下げ前方斜め上に剣先を向けて構えを取る。我ながら悪くないと自負する。


 これで私の憧れの一つ、エンカウント時に剣を抜き放ち華麗に戦闘態勢に入る、という事が可能となった。


 遠くでは魔法を放ち、近距離は剣で切り結ぶ、魔法剣士のような自分の凛々しい姿を想像し、全身からこみ上げてくる高揚感に身震いした。


 心を落ち着かせながら剣を鞘に戻して、倉庫を後にする。そろそろ最初の部屋に戻って休憩するとしよう。




「どっこいしょっと」


 部屋に上がると靴を脱ぎ捨て、外したベルトをソファーの背もたれに引っ掛け腰を下ろす。視線を上げ時計を確認してみると、七時半を少し過ぎたところだ。


「よしっ」


 立ち上がり、スカートのポケットからスフィアと見取り図を取り出しソファーに置くと、トイレに寄った後、脱衣所へと向かった。


 脱衣所のドアを開けると見覚えのある光景がお出迎えしてくれた。間取りだけではなく設備や家具……、戸を開けてタオル類や歯ブラシ等を確認する。


 ……備品等も同じようだ。分かりやすくていい。となれば話は早い、タオルを手に取ると華麗に着衣を脱ぎ洗濯機に放り込む。


「あ、そうだ」


 一度部屋に戻りカバンの中から包丁を包んでいた薄汚れたタオルを取り出す。折角なのでこれも洗ってしまおう。包丁はキッチンの流しに置いておく。


 汚れたタオルも洗濯機に突っ込みスタートのボタンを押すと、向かいのバスルームの戸を開く。


 蔓を刈り取った時の土っぽさが髪に残っているのと、汗や土埃などでベタベタになった身体は非常に洗いがいがありそうだ。


 奇怪な設備を操作すると降り注ぐ暖かなシャワーを全身に浴びながら、この後の行動を考える。


 とりあえずは夕食。きっとここの冷蔵庫にも缶詰が入っているだろういるに違いない。なければカバンの中の缶詰で済ますとしよう。そしてお腹が満足したら、倉庫の探索…………の前にやっていた、本棚を巡る冒険を再開しよう。


 今日は本棚を見て回ると決めていたのに、途中で倉庫に出会ってしまったばっかりに、まだ半分ほどしか進んでいない。このミッションは眠くなるまでには終わるだろうと思っていたが、どうも今日中には終わりそうにない気がする。


 まぁ、そうなったらそうなったらで構わない。時間ならいっぱいあるし、そう急ぐ事ではない。


 とはいえまだまだ無数にあるブラックボックス、気になって気になってしょうがないマイハート。素敵な出会いがありそうな気がするミッドナイト。


 倉庫はまだ全体の一割すら調べ切れてないが、すでに使えそうなアイテムを三つも入手している。全て調べ終わったらどれくらいの数になるのか、今から楽しみだ。もしかすると伝説の聖剣、なんてのも埋もれているかもしれない。


「いや……流石にそれは無いか」


 いくら『古代研究所の倉庫』という名の宝物庫だろうと、聖剣だの魔剣だのという類はないと思われる。


 そもそもそういうものは、何重にも封印がされていて巨大なモンスターが守る古代遺跡の最深部などに安置されているものだ。流石に無数に並ぶ倉庫の箱に入っているような代物ではない。


 まあ、いずれ見つける予定だけど!




 いつもより念入りに全身を洗ってバスルームを後にする。棚からバスタオルを拝借しグルリと包まれる。非常に柔らかなその肌触りがとても気持ち良くて、いつもより余計に身体を拭き続けた。


「はぁー、冒険の後のシャワーって何でこんなに気持ちがいいんだろう」


 洗濯が完了した下着と制服を着ると、真っ白になったタオルを手に脱衣所を後にする。そして、予想通りに冷蔵庫から缶詰を見つけた私は、キッチンからスプーンを拝借し今日の夕飯、ピリカラマーボー丼をほお張りながら至れり尽くせりの環境に感謝した。


 お腹も満足した私は暫くの間ソファーにもたれかかり、この何とも心地のいい時間を満喫する。





 ……………………。





「ふぁっ……!」


 ソファーの背もたれから上半身がずるりと滑り落ちた感覚で我に返る。身体を起こしながら時計を見ると十時を回っていた。


 どうやら少し寝てしまってたようだ。ただ、今日は本棚巡りといい倉庫漁りといい結構な体力を使ったためか、転寝程度では眠気が消える事はなかった。


「うぅ~、眠い……」


 余りの眠たさに、夕食後に予定していた本棚巡り第二弾は中止せざるをえないだろう。それにもう良い子は寝る時間だ。


 目をこすりながら立ち上がり、おぼろげな意識の中、歯磨きを終えるとトイレで用を足し寝室へと流れ込む。


 制服の上を脱いだところでベッドの上に倒れ込み、心地いい反発に揺られながら目を閉じる。今日も今日とてよく身体を動かしたので、すぐに眠ってしまえそうだ……。






 夢を見た。少し懐かしさすら感じる元の世界の夢。


 私がいて、家族がいて、紗由里がいて、ふじみーに絡まれてる神野先生がいて。


 そこで私は、何をするでもなくただ皆を見つめていた。皆は楽しそうに笑い手を繋ぎ、すれ違うように私の横を通り過ぎると、ずんずんと歩を進めて遠ざかっていく。


 私は皆の名前を呼ぶ。お母さん、お父さん、泉、紗由里、ふじみー、神野先生。どんどん離れていく皆に声を張り上げ何度も何度も呼びかける。


 堪らず駆け出すと何かに躓き大きく体が宙を舞う。思い切り地面に叩きつけれらると思い強く目を瞑ると、フワリと心地よい浮遊感に驚き目を開く。


 開いた目には、私の身体を受け止めてくれた皆の姿が鮮明に映った。


「べ、別に寂しくなんかないんだからね!」


 どこかで聞いたようなセリフを吐くと、飛び込むようにお母さんに抱きついた。 

 

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