やっぱり、エクスカリバーとかに憧れる。 Ⅲ
二十八
部屋を出てそのまま向かいにある扉を開き中へ入る。
一目見たところ部屋の間取りは同じだと分かった。やはり居住区の部屋は統一されてるのだろうか。まあ間取りが違ったら部屋の取り合いとか起きそうだし公平でいいかもしれない。
うんうんと頷きながら本棚の前までやってきた。家具の配置も同じなので効率よく進みそうだ。
本棚にある本は先ほどの部屋よりか量が多いが、種類が大分偏っている。上司と部下の付き合い方、友人の作り方、挨拶と笑顔、統計論嫌われる人間性……。
どうやらこの部屋の元主は人付き合いが苦手だったらしい。
がんばれと言ってあげたい。
ここにも目ぼしい本は無さそうだ。次へ行くとしよう。
部屋を後にすると、そのまま右隣の部屋へと入る。本棚を一通り見終わると次は向かいの部屋へ入っていく。これを繰り返して一部屋づつ確認していった。
どこかで本棚を見ると、そこに住む人の人間性が見えてくる。なんて聞いたことがあった気がするが、その通りだなと思った。
背表紙からして小難しい哲学書が並んでいたり、裏表紙の解説からしてドロドロの愛憎劇だったり、沢山の詩集が綺麗に並べられていたり、表紙を直視できないホラー等など、ちょっと棚巡りが楽しくなってきた時、私は宝の山ともいえる本棚を見つけた。
それは十三部屋目、小慣れた手つきで各本棚を漁っていた時だった。見慣れた本棚の雰囲気にすぐさま本を手に取って見てみると、四六版の単行本だった。本棚の半分は四六版で埋まり、次にB六そしてA五と続いていく。この馴染みのある装丁、表紙の見た目、高ぶる気持ちあるがままに本を開くと、そこには表情豊かな登場キャラ達が小さなコマの中で時にデフォルメされたり、飛ばされたり跳ねられたりしながら生き生きと動き回っている。これはギャク系のようだ。
「マンガキターー!」
他の本も見てみたところ、この本棚はマンガのみで統一されていそうだ。素晴らしい。とても素晴らしい。
この部屋の元主は、どうやら私と似たような性格なのかもしれない。私の部屋の本棚もこんな感じなので一目見ただけでもしやと思った。
このまま読み耽りたい気持ちではあるけれど、今日は探検をすると決めたので完全に読書モードになる前に部屋を飛び出した。好きなものを後に取っておくという楽しみもある。
扉の前で左右を確認しこの部屋のある場所を覚えておく。──左に六部屋目の向かい……と……。
脳内にインプットすると次の部屋、次の部屋へと再び渡り歩く。
そしていくつ目かの本棚で、なんだか見覚えのある折りたたまれた紙を見つけた。
「これは……」
ただ何となく広げてみたその紙はやはり地図だった。しかし私の思っていた地図、この研究所に来るのに大活躍した周辺地図とは違い、何かの建物の見取り図のようなものだった。
完全に広げてみようとしたところ、その地図は折りたたみ式ではなく、そう見えただけの小冊子だった。
その見取り図にある建物は長い廊下と、等間隔で同じ間取りの部屋が並んでいた。なにやらマンションに似ている。ページをめくると全体的な形は違えど、廊下といくつもの部屋という構図は同じで、計五つ分の建造物が載っている。
一体何の建物なのだろうか。
ペラペラとページを行ったり来たりしてると、非常に気になる何かが目に入った。それは、大きな円だ。これも建物の一部のようで隅の方に階段らしきものもある。その階段から真っ直ぐ廊下が続き左右には小部屋が並ぶ。その廊下の突き当たりには扉があり、今度は左右に廊下が伸び、これにも部屋が並んでいる。その部屋の間取りを良く見ると、何やらすごく見覚えのある事に気づいた。
「あれ……これってもしかして……」
思いついた場所は石球の研究所だ。
階段を下りた先の廊下と研究所、その先にある居住区の各部屋の間取りは私の記憶通りだ。となると、結論は一つ。これは研究所の見取り図。そういう事だろう。
念のために今いるこの研究所であろう間取りを探して比較してみると、見事に一致した。
ということは研究所と居住区を合わせて一つと考えると、この見取り図に掲載されている施設は計五つなので、他にも残り三つ同じような所があるという事になる。もしそれらの場所が分かれば、第三第四の別荘の他、中継点としても使えるので探検範囲が飛躍的に拡大するだろう。これは素晴らしい。
問題はどこにあるかなのだが、見取り図の方はやはり見取り図でしかなく、施設内部のみしか描かれてない。この広い大地のどこにあるかとは一切触れてはいなかった。
まあしかし、これはいい情報を手に入れる事が出来たと思う。
ふう、と息を吐くと見取り図を閉じ、他に有益な情報はないか本棚を一通り調べた後、残りの部屋へ向かう。
各部屋から部屋へ渡り歩く途中、廊下の中ほどまで来たところで、それまでとは少し違う扉があった。
荒んだ銀色の重厚そうな扉で、ドアノブだったところには再び五つの突起が見てとれる。この部屋は今までの居住区の部屋とは明らかに違うという事が分かる。
スカートのポケットに入れておいた見取り図を取り出すと、この部屋の場所を見てみる。すると今までの部屋の軽く二十倍はあるみたいで、更には階段らしきものもあるらしく、何層かに分かれているみたいだった。
非常に気になるので当然の如く、突起に手を当ててみる。触れた部分から光の筋が何かの跡を辿るように扉の方々に走ると、少しして扉はゆっくりと右にスライドしていった。
「あ……開いた……」
ここも研究室のように無反応なのかとも思ってたが、今日の私はどうやら絶好調らしい。
影を伴わず、隅々まで光の届いた白いその室内を見渡すと、一目でここが何の部屋なのか分かる。
金属製と思われる柱には何段にも渡り台となる板がはめ込まれている丈夫そうな棚。そしてその各台には頑丈そうな黒い箱や白い箱が無数に並び部屋の奥の方まで理路整然と続く。
威圧感さえ感じるこの部屋の物達は、来客者の私を静寂で迎えてくれた。
雰囲気から見て、間違いなくここは倉庫だ。私の学校の倉庫も、体育倉庫以外は大概こんな感じだった。
あ、用務員倉庫も例外だ。あそこは主である用務員、猪俣閣下こと猪俣徹夫氏が私物を持ち込み城砦化している。私も気に入っており、しばしば居座らせてもらっていた。アンフィー仲間でもある。
倉庫に踏み入れると心の内でお邪魔しますと来訪の挨拶をして、早々に物色を開始する。
一番手近な棚の前まで来ると、見上げるほど高くまで積まれた箱の群れを一瞥する。箱の横幅は大体私の肩幅の三倍ほど、高さは背の半分だろうか、何だか見た目プラスチックのような材質で出来ていて結構な大きさがある。
一先ず目線より少し低い位の棚に置いてある黒い箱に手をかけて床に下ろそうとしたが、ずっしりと重く、どんなに力を込めても微動だにしなかった。
「一体、何が入っているのさ……」
単純に目の前の箱に手を伸ばしただけなので、足元の方にある箱ならばすぐに開けられるだろう。しかし、たまたま手にかけた箱だが、こうも重いと中が気になって仕方がない。なので至って自然と意地になり、目の前の箱と格闘を開始する。
助走をつけ全体重をかけて押したり引いたりしてみたけれど、動く気配がない。やはり私の軽ーい軽ーい体重では高が知れているようだ。
こうなれば、箱を下ろさずに検めてみるしかない。かといって今の立ち位置では、どんなに背伸びをしても箱の上部を拝むことすら難しい。
ふと、箱から視線を外し倉庫内を見回してみる。思いついたのだ、そもそも手の届く箱はともかく、この棚の上の方にある箱にはどう足掻いても手が届くわけがない。しかし、上部にも無数に箱が並んでいるという事は、踏み台なりそれに代わる何かがあるのだろうと予想するのは容易い。何せ古代文明の倉庫だ、フワフワと浮かび自由に行き交う素敵足場があってもいいはずだ。
だが見回してみた感じだと、私の視野の届く範囲には、それらしい物は影も形も見当たらなかった。というより、棚と箱以外は何も目に入らない。とてもすっきりした景観だ。
この倉庫内をくまなく探し回れば、目的の物も見つけられるかもしれないが、今の私の興味は箱の中身だ。とにかく開けて確かめられればいいのだから、やり方などいくらでもある。




