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やっぱり、エクスカリバーとかに憧れる。 Ⅱ

二十七



「こちらスネーク。目標を確認した」


 木々に囲まれているせいか少し薄暗く草木が生い茂るそんな場所に、蔓が縦横無尽に張り付いた人工建設物らしきものが佇んでいた。余りの蔓の多さで見事に自然と一体化していたが、完全な正方形をしていたのですぐにそれと分かる。所々から花も咲いている異様な光景だ。


 一応辺りを確認してから忍び足で遺跡に近づくと、蔓を両手で掻き分けてどのような建造物なのかを確認する。高さは二メートルちょっとだろうか、私が全力で飛び上がって手を伸ばせばギリギリ天辺に手が掛かる位だ。


 これでまた祭壇とかだったら最高にしょんぼりな結果になる。


 恐る恐るぐるりと一周してみたところ、今回は階段のようなものはなさそうだったので祭壇ではないと判断できた。それどころか只の立方四辺形にしか見えない。これは何なのだろうか。


「うぬぬ、どこかに見落としでもあったのかな……」


 一先ず歩き続けた両脚が悲鳴を上げ始めたのでカバンを下ろすと、遺跡を背もたれにして座り込み地図を広げてみた。


 地図上ではこの遺跡の場所は森の真っ只中にあり、正方形の印で描かれている。パッと見た感じだと、この森には十数個の遺跡らしきものがあるので暫らくは冒険場所に困らなさそうだが、秘密基地から遠いと日帰りできなくなりそうなので、そこが少し心配だ。


 地図を眺めながら空を仰ぐ。といっても青空は僅かしか見えず、視界のほとんどは森の木々の葉が占めている。チカチカと覗く日の光がやけに綺麗に輝いて見える。


「はあ……今回のも遺跡の迷宮じゃなかったのかな……」


 まだ遺跡は二つ目だけれど、早く探検したくてたまらない。この行き場の無い衝動、どうするか……。


 座っていても落ち着かず、勢いに任せて立ち上がると包丁を取り出し蔓を刈り始めてみた。


「蔓に隠された真実がそこにー!」


 半ばヤケクソ気味に蔓を鷲掴みにすると、包丁でばっさりと切り落とす。太目の蔓は包丁でギコギコして切り落とした。



 

「豊作じゃーー!」


 足元に積まれた大量の蔓を無造作に掴み上空へ撒き散らしながら叫ぶ。どのくらい時間が掛かったか分からないが、どうにかこうにか蔓を全て刈り終わる。


 緑色した蔓の奥には、灰色のレンガのような石が規則正しく積み上げられた人工物があり、私の労力と引き換えにその姿を現した。


「どっこいしょっと……」


 この作業で大分くたびれたので、遺跡に寄りかかりながら腰を下ろす。少しゴワゴワするが刈り取った蔓がクッションのようになってお尻は痛くない。


 包丁を地面に刺すと、カバンを手元に寄せて中身を漁る。


 水筒を取り出し、タオルに少しだけ水を含ませてから手を拭いた。蔓の汁やら土やらの汚れをおとす。


 真っ白だったタオルがあっという間に薄汚れた色に染まると、刺した包丁に掛けてから水を中蓋に注ぎ喉を潤した。


「ふーっ、一仕事した後の一杯はさいっこーだね!」


 制服の袖で口元を拭うと、袖まで薄汚れてしまった。一体私はどの位汚れているのだろうか……。


 まあ、いっぱい働いたのでとてもお腹が空いているのは確かだ。なのでここらで一休みにする。


 カバンから缶詰を一つ取り出し、いつもの手順で開封する。ご飯の上に色とりどりの野菜のとろーりあんかけ、見た目と香りからするとどうやらこの缶詰は野菜の中華丼みたいだ。


「お肉じゃないのかー」


 とてもよく身体を動かしたので、ここはガツンと食べたい気分だったけれど中身は非情にヘルシーな仕様だ。残念。


 だがそんなのはちょっとした贅沢に過ぎない、それに今はとても空腹なので紗由里の手作りバレンタインチョコでも美味しく食べられそうだ。


 カバンの底のほうで説明書とノートに隠れるように横たわっていたお箸を取り出す。左手の親指と人差し指の間で、軽く埃を払ってから中華丼を口に運んだ。


「む……これは……!」


 十分に味が染みているにも関わらず、野菜のシャキシャキ感が損なわれていない。ニンジンやキャベツ、コーンその他色々の野菜本来の甘さが生きている。気がする。


 空腹からか思いのほかの成せる業か、中華丼はアッサリと空になった。


「人間、野菜もしっかり摂らないとね」


 肉を欲していた気持ちを軽くひっくり返す。子供時代、誰もが陥る野菜不足だがこれなら毎日でも食べれそうな気がした。


 お箸を一舐めしてタオルのまだ白い部分で拭うと、中蓋の水の残りを飲み干し水筒を閉め一緒にカバンへ戻した。


「さてと……」


 立ち上がりながら振り向き、再度遺跡と対面する。


 お腹も満足したところで、いよいよ調査開始だ。外壁に張り付き目を凝らして細部まで細かくチェックする。


 見た目は単純にレンガ造りの物置、という感じだろうか。まあ肝心の扉が無いので大袈裟な棺桶と言ったほうがしっくりくるかもしれない。


 しかし見事なまでにただの箱だ。むしろ箱ですらなく中まで全部石かもしれない。そうだとしたら私がここまで来た意味が無くなってしまうので、ここには何かあると仮定して調査する事にした。


「入ってますかー?」


 石の壁をノックするように小突いてみる。といってもコンコンという軽快な音はせず、もちろん返答も無く鈍く緩い痛みが手の甲に残るだけだった。


 整然と積み上げられた石の壁を見つめながら思う。この無数にある石のどれかを押すと、ゴゴゴゴゴって石が奥に引き込まれて隠された扉が開くといった、遺跡系でよくある仕掛けを想像した。


 思いついたら止まらない私の性。障子を一心不乱に突き破る子供の如く、片っ端からレンガのような石を押していく。


 十数分後、全体の八分の一ほど押したところで挫折した。多すぎる。


 だがもちろん諦める気は微塵も無い。他の方法を思案中だ。


 遺跡の周りをグルグルと公転しながら壁を突付きつつ考えていると、腰の辺りの高さにある石の一つに見覚えのある何かが目に映った。


「あれ……これって」


 両手を膝に当てて中腰の姿勢になると、見慣れた五つの突起が丁度鼻先へくる。並び方といい大きさといい、私が住み着いている研究施設の扉の開閉スイッチと良く似ている。


 躊躇うことなくそれに手を当てると触れた部分が淡く光り、左の壁の石と石との間に隙間が出来る。すると音もなく石球の扉のように縦に割れゆっくりと開いていった。


 遺跡がいらっしゃいませと言っている。気がする。ので、お邪魔します。


「おおおーーー」


 中に入ると石球と同じように壁の外が透けて見えた。ちなみに地面も私の住処の床と同じようにほんのりと光っている。これはもしや、ここも研究所の一つとかいう事なのだろうか。


「よし……とりあえず降りてみようか」


 呟きながら振り返り、突起のあった裏の壁にあるであろう戸締り用スイッチを探す。石球と同じような施設ならスイッチも同じようなところにありそうだと思ったのだ。


 ついつい泥棒など来なさそうな場所なのに、私はきっちりかっきり戸締りをするように心がけている。


 それは、よく見る漫画やアニメ、映画など、やっとの思いで複雑な仕掛けの施された遺跡の入り口を開き中へ入った後、最後の宝物庫などで後から入ってきた悪役を見るたびに、ちゃんと入り口閉めておけばこうはならないのに、などとよく思っていたからである。


 いつどこでどんな邪魔が入るか分からない。もしかしたら人じゃないものに邪魔されるかもしれない。という万が一を考えて私は最善を尽くすのだ。──これが、出来る女というやつだ。


 案の定、思ったとおりのところにスイッチを見つけた私は戸締りがバッチリ決まったのを確認すると、颯爽と階段を下りていく。


 階段を下りた先には扉があり、そこにも五つの突起がついていた。今のところ階段からここまでは石球の研究所と同じような造りだ。


 もはや勝手知ったる他人の家の如く、扉を開き進入する。


 中は石球の研究所とは違い、廊下はすぐに左右に分かれ研究室と思しき扉が等間隔で続いていた。ただ、雰囲気や構造などはほとんど同じようにみえる。


 とりあえず、右へ続く廊下を進む。黒に青い縁取りの扉にある小窓を覗き込んだ。部屋の中には大きな棚がいくつも並び、そこにはラベルが貼られた大小様々の箱がしまわれていた。白に黒、シルバーと見た感じは普通の箱だ。やはりここは見た感じだと研究室のようだ。


「何が入ってるんだろ」


 試しに扉にある五つの突起にいつものように手を触れてみるが反応は無い。やはりここも何かしらの研究員の証みたいなのが必要なのだろうか。残念。


 少し後ろ髪を惹かれつつも扉を離れ、廊下の先を目指し行軍を再開する。


 左右左右、交互に現れる研究室を覗きながらフラフラと進んでいくと進行方向に壁が見えた。近づくと曲がり角だったので、そのまま直角に左へ曲がると、再び同じような廊下が続き研究室が並んでいた。どこまで続いているのだろうか。


 研究室の中はどこもかしこも同じような内装で、棚があって箱が並んでいる。研究内容が気になるところだ。


 動物実験くらいはやってそうな気がする。もしかしたら人体実験もしていて、実験に失敗した被験者が近くをうろついているとかが王道そうだ。


 ちょっと想像しブルリと震える。


 それは勘弁してほしいと思いながら振り返る、人影は無し。ため息が漏れた。そして振り返ると「ぎゃーーー!」というのが真の王道だ。少し来た道を戻るように走り勢いよくまた振り返る。


「うむ、問題ない。作戦を続行する」


 一呼吸おいてまた歩き出すと丁度廊下の中央辺りで、右の壁に今までの扉とは色の違う扉があった。


 白い扉に黒い縁取りで五つの突起は無く、代わりにドアノブが据え付けられている。


 私が住んでる研究所は、このようなドアノブの扉の先が居住区だった。つまるところ、これはもしかしてこの扉の先は居住区ということだろうか。もしそうなら、本家の他に離れた場所にある寝泊りできる施設、つまり別荘を見つけたといっても過言ではないだろうないはずだ。


 だがドアノブといえばカギがかかっているかも知れない。泉の部屋の悲劇が頭を過ぎる。


 ゆっくりと手を伸ばし、ドアノブを回してみると、ガチャリと音がして扉はゆっくりと奥に開いてくれた。


「よしきたー!」


 喜びと共に突入すると、幅の広い廊下が真っ直ぐ続き両端の壁には扉が等間隔で並んでいる。配置は違うが、そこには見慣れた雰囲気が広がっていた。


「くふふふふ、至れり尽くせりな自宅に良く似た別荘発見か!?」


 足早に一番手前の扉へ近づき扉を開く。中を覗いてみると、想像通りあの部屋と同じ白一色の家具で揃えられた住居だった。しかもトイレやお風呂、寝室の場所も同じみたいで、本拠地にしている部屋に戻ってきたような錯覚を覚える。


 私の予想だと、研究所の住居はすべて同じ部屋割りで統一されているのだろう。きっとそうだ。──まあ、まだ二部屋しか見ていないけど。


 靴を脱ぎ部屋に上がると、そのままソファーに腰掛ける。


「ふう……」


 折角なのでくつろぐ事にした。ここが遺跡じゃなく研究所だったので、この後どうしようか考えたいという事もある。


 カバンから地図を取り出しテーブルの上に広げた。もしかしたら近場に別の遺跡があるかもしれないと思ったからだ。


 基本的に日帰りで行ける距離を目安にしていたので、ここを中継点にすればそこそこ遠出も出来るかもしれない。ここは遺跡ではなかったけれどこれはこれでいい発見だ。


 身を乗り出し地図を覗き込むと、今居る遺跡を中心に日帰り出来そうな位置に遺跡がないか探してみる。


「えっと、ここからだから……大体このくらいまでかな…………んーっと……………………」




 無い。




 この辺りには日帰りで行けそうな遺跡は存在しなかった。行けるとすれば石球の研究所くらいだろうか。……意味が無い。


 さてどうしよう。探検する気満々だったが、遺跡が無い事にどうしょうもない。


 だがふと思う、このまま研究所を探検すればいいんじゃないかと。そもそも研究室には入れないけれど居住区の部屋には入れそうだ。各部屋の本棚を巡れば、何か有益な情報が手に入るかもしれないし、まったく予想しなかった発見もあるかもしれない。なんてったって古代文明だ、むしろ何か無いほうがおかしいってなもんだ。


「よし、森野すずめ探検隊出陣だ!」


 ソファーから立ち上がり本棚へ特攻する。


 まず最初に思ったことは、……少ない。本棚はスカスカで、若干ある本の背に書いてあるタイトルからみても、私には理解出来なさそうな内容の本しかなさそうだった。


「ふむ、貴様に用は無い!」


 本棚を一喝すると玄関へ向かい靴を履き廊下へ出る。ちなみに荷物はこの部屋に置いていく。というか今日はずっとここの研究所の探検をして一泊する事に決めた。


 さあ、時間をたっぷりかけて有意義な一日にしよう。

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