パーティーは最高何人までなんだろう。 Ⅲ
二十三
「ふぅー、着いたーー」
研究所に戻ってきた。周囲を確認しながら石球の表面の突起に手を当てると、音を立てながら門が開いていく。何度見ても豪快な門だ。
門の中へ入り、素早く内側の突起に触れて門を閉める。もしも尾行されていたら、態々擬態して隠されているこの研究所がばれてしまう。折角の秘密基地だ、誰にも知られたくない。
石球の中から透けた外を暫らく見張り、誰も尾行が居ないことを確認してから階段を降りて部屋へと戻る。到着して時計を見てみると、三時ちょい過ぎくらいだ。一先ずカバンの中の水筒と、ケロリンメイトの空き箱を取り出しテーブルの隅に置く。
カバンを下ろし、そのままソファーに腰掛けて一息つく。座ったら何か硬いものが太ももをグリグリしてくる。
「おっといけない」
スカートのポケットからスフィアを取り出し掌の上で転がしながら少し目を瞑る。
「はぁー……」
まだ昼だというのに、今日は色んな事があった。三人の原住民との遭遇、それと二度の実戦と初勝利。かなり前進出来たような気がする。私のしてきた訓練の成果が、このように結果として出るのは気持ちが良かった。十分に通用しそうだ。なんだかより一層訓練に身が入りそうな気がする。
目を開くと、ゆっくりと焦点が定まる。目線の先には食べ散らかした缶詰の空き缶。立ち上がり冷蔵庫からフルーツの缶詰を取り出すと、キッチンからフォークを回収してソファーに戻る。
長い間歩き回って疲労の蓄積された足が楽になるまでの間、フルーツでもつまみながら、腕掛けを枕代わりに横になる事にする。
真っ白な天井を見上げ、適当にフォークで刺したフルーツを口に運びながら、新しい下級魔法と上級魔法について考える。前々から思案していた、近距離魔法についてだ。
「やっぱ……アレだなぁー……」
アレとは、あの時見習い騎士が使っていた魔法剣のようなものだ。一体どうやったらアレが出来るのだろうか。説明書をざっと見返してみるが、魔法を剣に纏わせる等という方法は書いていなかった。スフィアに隠された使い方とかがあるのだろうか。
「魔法剣かぁ……、使えれば近接戦でうまく立ち回れるようになりそうだけれど……」
呪文を言った後に魔法名を言っていた、確か『ジャスティスブリンガー』だったっけ。その流れからいけばスフィアの下級魔法と同じだ。私の知らない特殊な使い方があるのか、それともアレも意識操作で可能になる範囲なのだろうか。
うーーーん、分からない。
「あ、そうだ……」
ある事に気づいた。たとえ魔法剣の使い方が分かったとしても、纏わせる剣が無いではないか。それに、もしも魔法剣が特別な何かが必要で私には使えないものだったとしても、何かしら武器を持つのは身を守るためにも必要な気がする。只の棒切れですら、持っているだけでも少しは安心出来るのだ、剣などの接近戦専用の武器を持っていれば決定打にはならなくとも、魔法の繋ぎにはなると思う。
「よし、武器を手に入れよう」
ふとキッチンで見つけた包丁を思いつく。私の持っているゲームでは、短剣に位置する立派な武器だ。そして投げると超強い投擲武器にもなる。暫らくはそれで代用するとしようか。
ソファーを跨ぎ、キッチンの引き出しから包丁を取り出す。金属製のような柄で、刃渡りは私の手首から肘くらい、惚れ惚れするような乱れ波紋だ。
「こうかな…………いや……やっぱりもっとこう……どっちかというと防御よりで……」
左手にスフィアを持ち、包丁を右手で順手に持ったり逆手に持ったりしながら構え方を試行錯誤してみる。この包丁は攻撃用ではなく、飽くまで魔法発動までの繋ぎ用。牽制しつつ距離を維持する為の護身用として使う予定だ。尚、鞘が無いのでそれの代用を見つけなければ。さすがに抜き身ではちょっと危ない。
脱衣所へ向いタオルを一本持ってくると、それで包丁を包んでカバンのサイドポケットに忍ばせた。とりあえずは一時しのぎだ、いずれは剣とか、あのローブの女の子が持っていたような杖とかが欲しいところ。そして出来れば魔法が付与されたエンチャントアイテムなら、なお良し。
「さて、それでは本日の午後の訓練を始めるとしましょうか」
うーんと伸びをしてカバンから説明書を取り出すと、部屋を後にして石球へ向かった。
透けた空はさっきまでと比べて、少し雲が多くなってきていた。それでもまだ青空は広く、とてもいい天気。絶好の訓練日和だ。ここは室内だけどね。
「ランク十、ランス一、スケール一、マテリアルシャイニングオーダー! 我願わくば光を…………グングニル!」
早速とばかりに訓練を開始。地面に叩きつけられた眩い一筋の閃光が飛散する。初撃のグングニルは絶好調だ。
セイクリッドトリガー、ホワイトデスローナー、ドライブεのグングニルと立て続けに魔法を連発する。今回の訓練のテーマは、魔法による連携攻撃ということで、実践的な連携を実験中なのだ。それに伴い、新しい魔法も思案中である。
私の考えた連携として、まず基本的なのから。下級魔法で足止めをしての上級魔法による一撃必殺だ。ホワイトデスローナーによる回避の困難であろう下級魔法で相手を怯ませ、その隙に上級魔法を完成させる。これはグングニルが使いやすそうかな。とまあ、これが一つ目の連携案。
二つ目は、至極簡単。ドライブεによる連発だ。連携というよりは完全に瞬間火力に物を言わせた力技だけれど、ぶっちゃけ一番使いやすいかもしれない。初撃から使うには、あらかじめ使いたい上級魔法を使用しておく必要があるとはいえ、使いやすさはピカイチな感じだ。だがしかし、これでは少し面白みに欠ける。魔法使いたるもの多種多様な魔法を操り圧倒するのが理想だ。なのでこの連携は最終手段として封印しておく事にしよう。
そして三つ目、これは防御用に登録した下級魔法、リペルを使った連携だ。発生した1メートル四方の光の盾には触れたものを弾き飛ばすという特性があるらしく、それを利用する。弾き飛ばし具合の方は、夕飯の空き缶で試してみたところ結構どぎつくぶっ飛ばした。まあ、軽かったからっていうのもありそうだけど。
ちなみに、検証方法は上に放り投げてからリペルで受けるというやり方だ。弾き加減は密度で決まるみたいなので、ちょっと数値は大きめに設定してある。
弾き飛ばして、相手が立て直す前に上級魔法を完成させる。これが三つ目の連携案だ。更にこの連携には利点もある。それは、近接から遠距離にシフト出来る事だ。今は近接での決定打がないので、非常に実用的な感じだ。まあ、まだ机上の空論なんだけど。
さあそれなりに案も出たことだし、それぞれの連携の練習をしてみよう。まず一番大切なのは、流れるように魔法を繋げる事だ。とにかく上級魔法による〆が重要なので、設定入力をスムーズに行えるようにしないといけない。今のところ一番の決め技は、やはりグングニルだろう。連携用の数値設定を決めておけば、その時になって考えないでも済む。これは良い考えだと自分でも思った。
「やっぱりここは威力重視だよね」
つまり設定内容は、密度十、ランス一、大きさ五、となる。十の読みはツェーン、一の読みはアインス、五はフュンフなので、ランクツェーン、ランスアインス、スケールフュンフ、マテリアルシャイニングオーダーとなる。これだけでも説明書無しで素早く正確に言えるようになれば、かなり有利になるだろう。しかも、見た目はまんま光学兵器だ。
それと、威力的に言えばランスではなくブレットの方が強くなるけれど、これは実験の結果ランスの飛翔速度がブレットより優れているためだ。隙を作ってもその間に命中させられなければ意味がない。
汎用性が高く、どんな状況下でも安定した威力を発揮できる定番の魔法を徹底的に鍛えて、必殺の域にまで昇華する。新撰組のように。やはり必殺技が有ると無いとでは安心感が違う。
正直なところ本当に命懸けなわけだし、まずは安全第一のためにも、どんな危険も払えるだけの必殺技というのは必要不可欠であろう。これはこの世界に来る前からずっと思ってたことだ。
そして私の冒険スキルは妄想の中ではかなりの高レベルになっているため、様々な状況下でも対応できるような戦略が満載だ。漫画とゲームの受け売りが半分以上を占めているけれど、残り半分は私のオリジナルだ。まあ、これもまだ机上の空論だけど、いつかお披露目しようではないか。策士、策に溺れるとかいう言葉もあるが……。うん……気をつけよう。
明日は明日で、また遺跡へ行く予定だ。地図上では非常に小さくしか載っていなかったので、今日は近くて大きかった遺跡を見に行ったわけだけど、生憎とあそこはただの祭壇だった。だがまあ、原住民に会う事が出来たので良しとしよう。
私の計画は、まだ遠出するほど腕前に自信はないので、近場の遺跡を虱潰しにしていこうというものなのだ。
名づけて、大自然に囲まれた日帰り遺跡巡りの旅。
ちなみにおやつの持ち込みは自由だ。そしてお弁当も自由だ。何か一つでもいいからレアアイテムをゲット出来るといいんだけど。
私の思い通りの冒険、遺跡巡りを思う存分堪能するためにも、やはりまずは力をつけるのは必須だ。
さて訓練だ。そう右手を突き出しそれっぽいポーズを取りながらグングニルの詠唱をしようとした時、不意に目の端に何か動くものが写った。そちらを向き焦点を合わせると、そこにはこの石球に近づいてくるあの三人パーティーがいた。




