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パーティーは最高何人までなんだろう。 Ⅱ

二十二




「どぅえりゃぁーーーー!」


 見習い騎士が声を上げアクゼリュスに向って走り出す。


「輝け、正義の炎!」


 叫び声と共に剣の周囲に何やら光る円が現れた。私がスフィアを使っているときと同じような状態だ。つまり今のが彼の呪文ということだろうか。


 盾を前面に押し出し突進しながら、下げられた右手に持った剣の切っ先は地面を走っていく。接近してくる者に狙いを定めたのかアクゼリュスも雄叫びを上げ、右手を振り上げたまま突撃していった。


「ジャスティスブリンガーーーー!」


 見習い騎士が再び叫ぶと、瞬く間に剣は紅蓮の炎に包まれた。──ジャスティスブリンガー、呪文の後に言ったって事は、これが魔法名って事かな。


 地面から跳ねるように振り上げられた炎の剣と、アクゼリュスの振り下ろした爪がぶつかり合う。同時に輝く紅蓮の光と、爆音が木霊した。私が見た光と音は多分これだったのだろう。熱気から顔を逸らしながら確信する。しかし、あの少年、良い技を持ってるではないか。


 ドスリという鈍い音が短く響いた。爆炎が残した粉塵の中から、見習い騎士が宙に舞っていく。


「あれ……?」


 そのままドサリと地面に落ちる。悲鳴を上げながらローブの女の子が駆け寄り、手を翳した。すると淡い光が溢れ、見習い騎士の身体を包んでいく。傷ついた仲間に駆け寄ってする事といえば、回復魔法に他ならない。私はその光景を食い入るように見つめる。


「グガアアアーーー!!」


 唐突に鼓膜を震わす咆哮に初めてこの異世界に来た時の記憶が甦り、ビクリと身が竦んだ。


 視線をアクゼリュスに戻すと、小柄な盗賊がアクゼリュスと対峙している。しかし、体格差は圧倒的で、振り下ろされる腕と薙ぎ払われる爪に対して、短剣を盾にかろうじて耐え忍んでいるような状態で、戦況は一方的に見える。見習い騎士の方はまだ起き上がる様子もなく、淡い光に包まれたままだ。


「これって……ちょっとまずいんじゃないかな……」 


 最初は、この三人パーティーがモンスター討伐するところを観戦しようと思ったのだが、戦況がよろしくない。このままでは全滅してしまうのではなかろうか。


 一際甲高い金属音が響くと、小柄な盗賊が高く舞い上がった。豪快な振り上げを二本の短剣で受けたまではよかったが、勢いに乗った豪腕を止められるはずも無く、そのまま飛ばされてしまったようだ。


 アクゼリュスの二倍以上はあろうかという高さから地面に叩きつけられた少年は、立ち上がるが焦点が定まっていないらしく、ふらついていて敵の方を向いていない。そんな相手の姿に勝利を確信したのであろうアクゼリュスは、止めを刺すべく右手をゆっくりと上げながら

、悠然と歩を進めていく。


 ローブの女の子が悲鳴めいた声で何かを叫んでいるがここからでは聞き取れない。だが、もうすでに戦える者は残っていないように見えた。


「まずいって……、あの三人まずいって」


 慌ててカバンの中から取り出したスフィアを右手に持ち、説明書を開いた。アクゼリュスを見据えながら思う。私は、あの湖でこんな相手と戦おうとしていたのかと。今更ながら震えが来た。だが今は私に出来ることをしよう。あの三人を助けなければ。


 卑怯だがここからならば、気づかれる前に一撃を入れられるはずだ。今までの訓練の成果を出す日が来た。自信はある。そのための特訓だったのだから。


「スターティングオペレーション、ドライブβ(ベータ)」落ち着きながら言うと右側に青白い円が現れる。「ランク(ツェーン)、ランス(アインス)、スケール(ドライ)、マテリアルシャイニングオーダー」 


 魔方陣が増えていく中、完成した魔法の制御を頭の中で繰り返す。生半可な攻撃で倒しきれなかった場合、それと外してしまった場合、私も大ピンチになってしまう。なので軌道をしっかりと思い描く。


「我願わくば光を」


 赤く変わる魔方陣に囲まれながら、右手の小さな魔方陣をアクゼリュスに向ける。小柄な少年とアクゼリュスの距離はもうほとんど無かった。


「グングニル!」


 魔法名を合図に、右手から眩い光を放つ一筋の閃光が敵めがけて駆け抜けた。


 眩く輝く閃光に気づいたアクゼリュスが振り返るがもう遅い。光の槍は鋭く衝突すると、強烈な光を撒き散らし爆音と共に飛散した。仰け反るように吹き飛んだアクゼリュスは地面に身体を打ち付けられながら転がっていく。


「やった……のかな……?」


 気持ちを落ち着けようと大きく息を吸い込んだ時、奴はゆっくりと起き上がり私の方へ向けて歩き出した。


「嘘……あれで起き上がれるの……!?」


 アクゼリュスのその歩みには、あの時のような力強さは無かった。それでも威圧感はまだ健在で、私を睨むその目は殺意をもって輝いている。


 これは怖い……。一瞬逃げ出そうかとも思ったが、手負いとはいえ戦力を欠いたあの三人を残していくとどうなるか分からない。助けるならば、相手を完全に沈黙させないと。


 歩きとはいえ、一歩がやたら長い。私とアクゼリュスの距離はぐんぐん縮んでいた。だがこんな時のシミュレーションも怠ってはいない。これの出番だ。


「スターティングオペレーション、ドライブε(イプシロン)!」


 自然と声に力がこもる。ドライブε(イプシロン)、一つ前に使った魔法構成を省略して繰り返すことが出来るドライブ。一気に赤い魔方陣が周囲に現れると、同時に右手を標的に向けて叫んだ。


「グングニル!」


 閃光が再びアクゼリュスを打ち据え、豪快に吹き飛ばした。肉片と思しき物体が飛び散ると、地面に落ちて塵になった。手応えありだ。


 転がった本体の方へ目をやると、ゆっくりと表面から風化するように塵へと変わり風に攫われていった。


「やった……私……勝った……?」


 リベンジ成功と初勝利、そして三人を救えたことに嬉しさがこみ上げてきた。喜びの余り両手を振り上げると、ふと私を見つめるローブの女の子の姿が目に留まる。同時に跪いていた小柄な盗賊も、意識が定まったのか私の方をじっと見つめていた。

 



 気づくと私は森の茂みを掻き分け、祭壇の遺跡へ向けて走っていた。初めて会った人に見つめられて、ひどく恥ずかしくなり居ても立ってもいられなくなったのだ。


 一息に祭壇まで走り抜けると、そのまま階段を登り、台の上に腰掛ける。


「はふぅ……」


 カバンを手近なところに下ろし再び水筒を取り出すと、水を一杯飲み干してから大きく深呼吸をした。ふと目線を落とすと、水筒と中蓋を持つ手が震えている。この震えは、緊張からなのか武者震いなのか、それとも実戦に勝利した歓喜からなのかは分からないが、悪くない気分だった。


 空を見上げ、そよ風を全身で感じる。目線を森へ向けると、さっきまで居た広場の辺りを見つめた。


 何だか逃げるように退散してしまったが、あの三人は無事に戻れただろうか。気になるがもう過ぎた事。無事を信じよう。アクゼリュスも倒したし。


 思い出し、少しばかりの興奮が甦る。


 私の始めての実戦。真剣勝負とは程遠いが、それでも私は貴重な経験をしたと実感した。石球の中で訓練してた時なんか比べ物にならないほどの緊張感。アクゼリュスを倒して回るハティの負担を、ほんの少しでも減らせたなら幸いだ。


「ふぅー」


 再び注いだ水に一口つけて、息と共に興奮を吐き出す。この世界で暮らすには、きっとこういう事がまだ山ほどあるだろう。ならば気持ちの切り替えもしっかりとしなくちゃいけない。


 暫らくの間、眼前いっぱいに広がる緑を眺め森の空気を感じていると、自然と心が安らいできた。さすが森林浴効果、素晴らしい。 


 きゅるるるると、落ち着きを取り戻したお腹は急速に食料の摂取を要求していた。なので当初の予定通り、ここで昼食にするとしよう。


 カバンから掌サイズの箱を取り出し、中袋を破りブロック状のケロリンメイトを口へ運んだ。


 ケロリンメイト、栄養のバランスが良くて手軽に食べれてしかもおいしい。携帯食としては非常に優秀な食料である。ただ少しばかり喉が渇くのがたまに傷。


 ……──食べ終わると、空になった中袋を箱に戻して水筒と一緒にカバンに入れる。ゴミはちゃんと持って帰らないと。森に捨てていくなんて悪逆非道は私の勇者道に反する。


 ちょっと良い事をした気になりながら気分朗らかに立ち上がる。


 カバンを肩から斜めに掛け、階段を下りる。足取りは軽くスキップでもしてしまいそうな勢いだ。


 雑草の生い茂る地面に立ち、地図を取り出して帰り道の確認をする。本日の冒険はここまで。初めての実戦を経験したからだろうか、早く帰って訓練がしたくなった。もっともっと戦法とかを考えてガチバトルでも落ち着いて戦えるようになるために、様々な状況に対応できるように、新しい魔法なども考えたい。


 戦略と魔法の連携を考えながら、地図で帰り道を確認する。


 茂みを抜けて道を横切ると、再び茂みへと分け入っていく。辺りを見渡し警戒しながらも、気分はほぼ観光客のノリで草木を掻き分け進む。


 風に揺れる森は、オーケストラのように様々な音を奏でていて、見上げた葉の隙間から差し込むキラキラと輝く陽光がステージを彩っている。そんな大舞台には女優が一人、私は両腕を広げながらクルリと一回転する。


「危ないこともあったけど、やっぱりこの世界に来れてよかったー」


 今一番気になっている事は何よりも、さっき出会った三人だ。装備から見ても、私の思い描いていた世界の住人。そして必殺技に治癒魔法、ここには私の夢が溢れている。


 そんな事を考えながらふと思った、あの見習い騎士の使っていた技、炎を剣に纏わせていたけれど、あれってどうやってやるのだろうか。


「範囲…………ううん、違う気がする……。なら形状…………うーん……炎が剣に纏わりついて、斬りつけると同時に爆発……かぁ……。ブレットを複数発生させて剣戟と同時に炸裂させるとか……?」


 考えてみるが、それはなかなか難しい気がする。剣の軌跡に合わせるようにブレットの軌道を操作して、着弾と同時に炸裂。果たしてそんな手順のかかる事を実戦なんかで使えるのだろうか。


「うーむ……これは考察してみる必要がありそうですね」


 小説『空の湖と賢者の戯言』より。賢者ナベリウスの口癖を真似てみた。


 途中途中で地図を確認しながら、動物の物音がしたら尾行する刑事の如く、木の影に隠れて様子を窺ってみたりして帰路を辿る。気分は忍者宛らだ。


 がさりと草と小枝を踏みしめた時、茂みの隙間からこちらを窺うような視線と目が合った。


「な……!」


 距離にして大体五メートルくらい、そこには猫に似た生き物が顔だけをこちらに向けて佇んでいた。とはいえ実際の猫とは大きさが全然違う。大人の男性を四つん這いにした位だろうか、口からは大きな犬歯が二本覗き、全身は短く黒い毛に覆われていた。そんな毛のせいだろうか、非常に筋肉質に見えるその肢体は高い俊敏さを物語っているようだ。


 ぐるうううー…………。


 猫の魔物は低く唸ると、私に狙いを定めてしまったのか、ゆっくりと視線を逸らさずに身体ごとこちらへ向き直った。相手は完全に戦闘体制だ。


「ぬぅ……二連戦なんて心の準備が……!」


 少し悲鳴混じりの声で呟くと、スカートのポケットに入れておいたスフィアを取り出す。この距離では、詠唱に時間のかかる上級魔法は使えないだろう。ならば下級魔法で戦うしかない。


 頭の中で登録済みの魔法名をずらりと並べ確認する。──初撃はやはりこれしかないか。


「我願わくば光を」


 気配を察したのか四本の足で地面を蹴り、猫の魔物が疾走してくる。


 ──早い! でも、怯んでる場合じゃない、しっかりと狙いを……──


「セイクリッドトリガー!」


 大きく牙を剥き出し両腕を広げ飛び掛るその頭部に輝く光弾が直撃し、破裂音と共に飛散した。勢いづいた空中で突如、頭部に衝撃を受けた猫の魔物は反り返るように回転して、地面にぐしゃりと落ちる。──簡単にいうと、キャット空中三回転着地失敗、といったところだろうか。


私は、その一挙手一投足を見逃さないように、相手をしっかりと目で追いかけた。


 ──戦闘中の相手からは絶対に目を離してはいけない。──


 漫画『カカシの騎士』より、まだ修行中の主人公が、簡単に倒せるような弱い相手を切り伏せ余裕の笑みを浮かべていた時に、師匠マルコに言われた一言。これは私の心構えにもなっていて、どんな相手だろうと絶対に目は逸らさないように心掛けているのだ。ちょっとの油断が命取りになりかねない。


 地面に伏せる猫の魔物を見つめながら、少しずつ後ずさり右手を前方に上げる。


「我願わくば光を」


 浮かぶ魔方陣を向けながら狙いを定める。さっきのアクゼリュスは、倒した後、塵になって消えたように見えた。しかし、猫の魔物はまだそこにいる。


 死んだふりだろうか。油断を誘っているのかもしれないが、そうはいかない。私は、念には念を入れるタイプだ。


 意識を集中し、魔法の完成を思い描く。


「クロスクロイツ!」


 五つの光弾が猫の魔物の前後左右、そして上方に包囲するように現れると、点だった小さな光の玉が膨張していく。一秒ほどで最大に達すると間髪入れず同時に猫の魔物を撃ち貫く。意識制御をふんだんに利用した全方位型の必殺技だ。相手の周辺に出現させるため手元から発射するタイプより攻撃可能になるまでに若干の時間は掛かるが、これはちょっとした自信作だ。


 周囲から襲い掛かる光の直撃を受けて、はじけ飛ぶように舞い上がると、断末魔のような声を上げ猫の魔物は塵となり、ゆっくりと風に飛ばされていった。


 魔物を倒すのに躊躇はいらない。ハティもそう言っていた。そうしないと殺られるのはこっちだ。


「死にたくないなら殺せばいい。殺したくなければ死ねばいい」


 漫画『カカシの騎士』より。師匠マルコが、主人公の命を狙い襲ってきた刺客の首を貫きながら、震える手で剣を握ったままの主人公に放った一言。──ああ~ん、マルコさま・ス・テ・キ。


 塵となった猫の魔物を見送ると、その跡にキラリと光る何かがあった。近づき拾い上げたそれは、赤く透明で歪な形ながら非常に綺麗な結晶だった。


「うわー、なんだろこれ。きれー」


 掌で転がしながら眺める。キラキラと光を反射するそれは未加工のルビーの原石のようでもあり、何だかとても…………お金になりそうだ!


「軍資金も必要だもんね……。くふふふふ」


 結晶をカバンの中に放り込むと、一旦地図を広げて帰り道を再確認する。


 その後は、魔物に出会う事も無く、無事に石球の鎮座する広場に到着する事が出来た。

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