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【完結】もう、あなたの好みに合わせる必要はありませんので、さよなら。  作者: 逆立ちハムスター


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「な……っ! 玩具……!? 私を、あの地味な女と同等だと仰るのですか!?」


ラヴィニアの顔が、屈辱と激怒で朱に染まる。


「最低ですわ! あなたなんか……あなたなんか、ただの威張ることしかできない無能じゃありませんか! ヴァレリア様に逃げられ、屋敷を壊され、これからどうするおつもり!? あなたの公爵家がどれほど窮地に陥っているか、ご存じないのですか!?」


「何だと……!?」


その時、応接間の外から、慌ただしい足音が近づいてきた。

バン! と、執事が青ざめた顔で飛び込んでくる。


「オ、オーレリウス様! 大変です! 門前に……門前に、帝立中央銀行の頭取が、第一騎士団の差し押さえ部隊を伴って押し寄せてきております!」


「何だと!?」

オーレリウスの顔から、一瞬で血の気が引いた。


「な、なぜ第一騎士団まで……!? 債務の期日はまだ先のはずだ!」


「それが……! カエキリア家が断絶し、保証人としての効力が消失したため、銀行側が【緊急全額回収特権】を行使いたしました! 今すぐに金貨八十万枚を現物で支払わなければ、公爵家の所有する全不動産、および鉱山権利書を即時差し押さえると……!」


「ぐ……っ、八十万枚だと!? そんな巨額の現金、今すぐ用意できるはずがないだろう!」


オーレリウスは頭を抱え、狂ったように室内を往復した。

金貨八十万枚。それは公爵家の資産を切り売りしても、準備するのに数ヶ月はかかる金額だ。今日明日に用意できるわけがない。


(どうする……どうすればいい!? 誰か……誰かから借りるか!? いや、昨夜の大惨状を見た貴族どもが、今の我が家に貸し付けなどするはずがない……!)


その時、オーレリウスの頭に、一つの「愚かな閃き」が浮かんだ。


(そうだ……! ヴァレリアだ! あいつを捕まえればいい! あいつのカエキリア領には、昔からの古文書や魔導具が眠っているはずだ! それに、あの女の魔力があれば、結界も元通りになり、銀行だって……!)


オーレリウスは執事の胸倉を掴み上げ、血走った目で叫んだ。


「今すぐ使者を立てろ! カエキリア領へ向かわせるのだ! ヴァレリアを……あの女を引っ捕らえて連れてこい! 逃げ出した罰として、一生地下室にぶち込んで、我が家の結界の電池にしてやる! あれは私の所有物だ! 私の許可なく消えていいはずがないんだ!!」


「は、はいっ! ただちに!」


執事が逃げるように去っていく。

その後ろ姿を見送りながら、オーレリウスは爪を噛み、醜く歪んだ笑みを浮かべた。


「そうだ……そうだ、ヴァレリア。お前が悪いのだ。私をコケにし、こんな目に遭わせたお前が……! 連れ戻したら、今度は両足をへし折って、二度と歩けないようにしてやる……!」


地べたにへたり込んだまま、ラヴィニアはそのオーレリウスの狂気じみた姿を見て、ヒッと息を呑み、恐怖に震えていた。


---


「――ぷっ……くすくす……あははははっ!」


極北の黒曜石館。

報告書を読み終えたカシアンの隣で、私はお腹を押さえて笑い転げていた。


目元に涙が浮かぶほどのおかしさだった。


「まあ……! なんて素晴らしい喜劇コメディなのかしら! オーレリウス様ったら、まだ自分が『追う側』だと勘違いしていらっしゃるのね! 私を捕まえて、地下室の電池にするですって? ふふ、本当に、彼の頭の中はお花畑で満たされているのね」


私は溢れ出る笑いを収め、優雅に目元の涙を拭った。


カシアンもまた、心底呆れたように肩をすくめていた。


「救いようのない愚者だな。カエキリア領に何が待っているかも知らずに、使者を向かわせるとは」


「ええ。使者の方々には、少し可哀想なことをしてしまいますけれど……」


私は口元に冷たい笑みを浮かべた。


カエキリア領の館は、すでに住人どころか、家具一つ残されていない完全な「廃墟」だ。

そして、私が去る際、館の敷地全体に強力な【影の罠】を仕掛けておいた。

オーレリウスの使者が館の扉を開けた瞬間、そこに残された「偽りの書類」――アンテニウス家が我が家から不正に搾取していた全証拠が自動的に帝都の裁判所および各新聞社へ一斉に転送される仕組みになっている。


彼らが「ヴァレリアの手がかり」を探せば探すほど、アンテニウス家の悪行が白日の下に晒され、社会的に完全に抹殺されるのだ。


「使者が絶望の報告を持ち帰る頃には、公爵家は破産し、信用は地に落ちているでしょうね」


「フッ、それだけでは終わらんぞ、ヴァレリア」


カシアンは立ち上がり、執務室の壁に掛けられた巨大な「帝国全土の立体魔導地図」を指し示した。そこには、帝都を中心に、網の目のように張り巡らされた金と流通のルートが光り輝いている。


「お前が提供してくれた金融流動データのおかげで、我が『ノックス』の商会はすでに動き出している。アンテニウス家が債務を返済するために売りに出すであろう不動産、鉱山、美術品……それらすべての『買い手』を、我々が裏から完全に脅迫・買収し、市場価値の十分の一の二束三文でしか売れないよう手回しを終えた」


「まあ……手回しがお早いですこと、カシアン様」


「当然だ。お前の復讐を完璧なものにするのが、私の仕事だからな。奴らが現金を作ろうと必死になればなるほど、己の資産を叩き売りさせられ、最終的には一輪のパン切れすら買えない本当の『乞食』へと落ちていく」


カシアンの言葉は、冷酷そのものだった。

だが、私にとってはこれ以上ない最高の愛の囁きに聞こえた。


彼は私を害した者を、一切の容赦なく、根本から社会的に抹殺しようとしてくれている。私の痛みを理解し、私の代わりにその腕を振るってくれているのだ。


私はカシアンの背中にそっと寄り添い、その引き締まった腰に腕を回した。


「カシアン様。公爵家を破滅させるだけでは、まだ私の胸のすく思いは完全ではありませんわ」


「ほう?」

カシアンは振り向き、私を腕の中に抱き寄せた。その深紅の瞳が、私を見つめる。


「他に何を望む、私の女王?」


「オーレリウス様は……ご自分の『地位』と『誇り』、そして『自分より下の人間を見下すこと』にしか快楽を感じられない哀れな男です。だからこそ……彼が一番絶望する瞬間を与えて差し上げたいのです」


私はカシアンの胸に顔をうずめ、妖しく微笑んだ。


「彼がすべての財産を失い、地に這いつくばり、最後に縋ろうとした『唯一の希望』の場所で……私とカシアン様が、完璧な姿で彼の前に降臨するのです。彼が見下していた私が、彼など絶対に届かない高みから、彼を見下ろしてあげる……それこそが、最高の『仕返し』だと思いませんか?」


カシアンは一瞬目を見開き、やがて腹の底から雷鳴のような低く豪快な笑い声を上げた。


「ハハハハハ! 素晴らしい! 最高に性格が悪く、最高に美しい提案だ!」


カシアンは私の顎を指ですくい上げ、深々と唇を重ねた。

熱く、激しい、誓いのキス。

彼から注ぎ込まれる竜の魔術の波動が、私の胸を焦がし、身体の芯から快感が駆け巡る。


吻を深めた後、名残惜しそうに唇を離したカシアンは、息を荒げながら私の耳元で囁いた。


「決まりだ。一週間後、帝都にて開催される【帝国最高貴族審議会】……破産した貴族の爵位剥奪と財産没収を決定するあの場で、お前を『セヴェルス大公妃』として連れて行こう」


「大公妃……?」


私が少し驚いて目を丸くすると、カシアンは優しく私の頬を撫でた。


「嫌か? 私はお前を、ただの共同経営者で終わらせるつもりはない。お前は私のすべてを分かち合う、唯一無二の伴侶だ。世界で最も尊く、最も恐れられる高みへ、私と共に行こう、ヴァレリア」


その瞳にあるのは、絶対的な本気。

かつてオーレリウスが口にした、偽りと支配に満ちた婚約の言葉とは、天と地ほどの差があった。


私の胸に、温かく、そして誇らしい感情が満ちていく。


「嫌なはずがございませんわ……カシアン様。喜んで、あなたのお妃となりましょう」


私は彼の胸にしっかりと抱きつき、そのぬくもりを噛み締めた。


さあ、舞台は整った。


地獄の底へと転がり落ちていくオーレリウスと、彼に群がっていた愚かな者たち。

彼らが最後に見る夢が、いかに惨めで、いかに滑稽なものになるか。


私は黒のドレスの裾を揺らしながら、一週間後に訪れる「最高の晩餐」の日を、心から楽しみに待つことにした。

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