仕組みのトビラ 1
発展した科学は魔法と見分けが付かない。
私は魔法に憧れ好意を抱いた。なにせ、魔法は人を作れるのだから。
だから私は人を模した人形が人同等、それ以上の能力を持つ者を作った。
それは私が魔法を使ったことになるのだろうか。
いいや、成らない。
そもそも人にヒューマノイド達は、アンドロイドはカテゴライズされるのだろうかと定義付けを済ませていない。
私はずっと悩み続けた。
なにを満たせば娘は戻ってくるのだと。
脳があれば人なのか。心があれば人なのか。成長すれば人になるのか。
有機物が96%、無機質が4%で体を構成すれば人なのか。
これらを満たし『パパ』と言って何等屈託の無い笑顔を向けてくれれば娘なのか。
この問題に私は生まれ変わっても取り組むだろう。
失った痛みは失った者にしかわからず、この痛みは埋まることはない。
私はきっと死んでいる。
産声は静か、深々と降る雨が濃霧に沈む村外れの古民家へと降り注ぐ。
還暦を迎えた産婆は枯れ枝のような腕を使い生れ落ちた赤子を確りと抱き、用意された布地で赤子の身体中の血や羊水を丁寧に拭き取ると不思議と赤子の産声が柔らかくなった。
堪らず、赤子を鬼のような形相で男は産婆から奪い取り赤子の顔をマジマジと見るなり疲労が激しい女の隣へと抱き抱えたまま近づき女に子共の顔を誇らしげに見せつけた、
男――子の父、ドウマ・ヴァルキュリアは鬼から仏に。
女――子の母、ジルア・ヴァルキュリアは聖母に似たにこやかな顔へ。
「やぁ、俺が君の父親で、隣にいるのが君の母親だ。ユーリ、ユーリ・ヴァルキュリア。それが君の名前だ。いい名前だろう? 二人で考えたんだ」
朗らかに語るとドウマはジルアに「抱いてみろ」とユーリを手渡した。
「あぁっ、ユーリ。貴方にはどんな子に育つのでしょうね」
「きっと、名前の通りさ。『ユーリ』は『ストレングス』の祖たる神様の名前だ。どんな逆境にも果敢に挑む力のある子になる。それに、我がヴァルキュリア家の男だからな」
「そうよね。例えこの子が完璧じゃなくたっても立派になってほしいわね」
疲れをみせるジルアにユーリは何を感じ取ったのか柔らかく弱い手でジルアの腕辺りを叩く。
まるで、心配するなとジルアを元気づけるように。
「まぁ、この子ったら、ありがとうね」
気づけば朝霧は霧散し温情なる太陽の日の光がユーリ迎えた。
幾年の時が過ぎ、ユーリは六歳となった頃だろうか、この世界に付加された不思議な力を認識し魅入られ始める。それは魔法であり、この世界の仕組みであった。
本を持つほど裕福ではなかったが日常的に使われる魔法を見ると気になるのが子共というものだ。手から炎を生み出し意のままに風や氷を生み出せる。
この土地を治める諸侯の騎士団などが訓練場で使用する攻撃的で派手な魔法は六歳の冒険心、探究心を刺激するには十分であった。
魔法はユーリの中で森羅万象に干渉できてしまうほどの力と漠然とではあると察し程度ではあったが知っていた。
だから、どういった仕組みなのかユーリは知りたかった。漠然と霧がかったままで納得をしたくなかったのだ。
思い立ったが吉日。この疑問を最初にぶつけたのは父であるドウマだった。
「お父さん、魔法ってなに?」
ドウマは「そうだな・・・」と顎に手を当てると空を見上げた。
いつかは来る質問だと考えていたがドウマも魔法は知り行使できていても六歳児がわかったと納得できる回答を持ち合わせてもいなかったのだ。試しに説明をしてもユーリの困惑がますばかりであった。
「母さんに聞くのがいいさ」
ドウマはジルアに丸投げするしか他はなかったがジルアは今度ゆっくりと教えてあげるからと結局のところ、その日に魔法の仕組みはわからなかった。
「魔法ってなんなのでしょうかね」
ユーリの率直で大人びた口調の感想はドウマの親心に傷をつけるにはあまりにも大きな棘であった。




