Gate
よろしければ感想等々
記入してくださればと
僕、八重乃悠理はヒューマノイドが好きだ。だから、心を変えずに僕はそれを作る。
傾倒した趣味かもしれないが物好きなのには変わりない。プラモデルを動くように改造することの延長線上と考えてくれてかまわない。
まぁ、物なのか、者なのかどちらかの定義は追々。
「チーフ。やっとですね。ヒューマノイド『ストレングス』が完成しますよ」
同僚が朗らかな声で言う。僕もそうだが気分の高鳴りが抑えきれないのだろう。
「第二覚醒ラインにまで到達できれば搭載AI『ムラクモ』が補助をしてくれるだろうからね。やっとだよ」
強化プラスチックの壁向こうには一人の少女を中心として右に五つ、左に四つの少年少女が入ったカプセルが存在する空間で中心にいる少女だけはカプセルでは無く診察台に似た場所で眠り、手元のモニターには少女が目を覚ますまでの残り時間。表面温度等が表示している。
「これで、『9th Gate』がやっと現実になりますね。あの井沼代表執行役をぎゃふんと言わせられますね」
「ははっ、井沼はこの計画を自分主体で行いたかったからね。ぼ――私を恨んでいるだろうよ。
だから、『ムラクモ』に侵入したのだろう。だが――」
この夢が実現すると誓っての数十年間がエンディングロールみたく頭の中で流れる。あんなことがあった。こんなことがあった。悔やんだことも、やめようと考えたこともあった。
「――やっとだよ。二十六から始めてここまできた。私は随分と年を食らったよ」
体は湯葉のような薄皮が僕の肉を覆い冬でも夏でも関係なく血管がはっきりと浮き出ている。握力、筋力も落ち、精力なんて目も当てられなくなった。
もう、硬いバルブやネジを閉められない。光陰矢のごとしというのは本当だったのだと今では考えてしまう。
「井沼代表は恨んでなんかいませんって、ただ手柄を横取りしたいだけですよ」
「だといいがな。あの男も君と同じニオイがするよ」
『第二覚醒ラインに到達。STR-00h 覚醒します』
昔話に割って入ったアナウンスに胸が高揚する。
いよいよだ。いよいよ夢が覚め、現実になる。
もっと近くで見たい。どうしても壁一枚なんぞに隔たりをもたれたくない。
足は素直にそう思う前に歩き出しており、三つのセキュリティゲートを開け少女の前に立った。
ゆっくりと開かれる目は偽物ではない。微動する指一本一本が偽物ではない。
ストレングスの手を取り僕は
「さぁ、ストレングス。目を開けてくれ。君には見て守ってもらいたい世界があるんだ」
開かれた目に僕が映る。彼女が持つアモルファスの網膜を包み込む特殊な柔軟性の透明物質がぐるりと辺りを見渡し戻ってくる。
「ストレングス。君の名前はストレングスだ」
ストレングスはなにも言わず首を縦に振った。自分のことだと認識したのだろう。
ヒューマノイドはこうして生まれ僕の夢は眼前でなし得ている。
『やりましたねチーフ! 他の九つの機体も順次覚醒していますよ!』
合わせ九つのカプセルが貝殻の如く外界と遮断していた殻を開けていく。
溌剌とした声で五十嵐は喜びを表したが、僕はストレングスの手を放すと呆けて言葉がでなかった。
「・・・・」
夢を虚ろのものから現実の実物にした達成感かと思えばそうでもない。清々しいがモヤモヤする。
――あぁ、これは虚無感か。
『自分は九つの扉を開けた。楽しみですね。扉から来る物質、空気、場はなにをもたらしてくれるのかって・・・‥』
なにを言っている? 開けたのは我々で、そこにつけるべき言葉は『達』だろう。
「あんたもそう思うだろ。八重乃悠理チーフ」
部屋に響いた声は五十嵐が制御室の中でマイクを介して言った言葉が腑に落ちない。神経質ともとれる違和感を覚え訂正したくなる。
それに最後の言葉はマイクを介してない肉声。
「何を言っているんだ。これは我々が完成し――」
――ぐちぇッ。
振り返り、制御室を見ようと振り返った途端。肉が引き千切られた音と風が一陣吹いたかと感じれば痛みが走る。
痛んだ箇所に手を当てるが手は空をきり手は体には当たらない。
体の一部、正確には右脇腹の第十肋骨の下から腰骨の少し上までが喪失するが血の一滴たりとも落ちることはなかった。
「ぐっ、ああああああああああああああッッ!!」
たまらずその場に倒れ苦痛を表した。
「おいおい、老たぁいがそんな声をあげちゃぁ入れ歯がすっぽぬけて今度は歯がなくなるぜぇ、ま、どのみち後三分もない命なんだがな」
人が変わったような甲高い声を出す五十嵐は性格も変わっていた。
こっちが本性か。
「初めから、私の子供達が目当てか!」
息をするのが辛い。
もはや命の灯火が消えかかっているのか。老体は全くもって煩わしい。
「ぶっぶー。ちがいまぁーす。んなぁ、あんなオーバーテクノロジー塊の気色悪いヒューマノイドより自分の娘の頭に手を加え作った【人知人工『ムラクモ』】の方がよっぽど価値がある。自立歩行型の根幹だからなぁ、売れば高く値が付くが俺は俺の夢を叶えてやる。『9th Gate』 を越える。アンドロイドを作ってやる」
これかと内心で合点した。野心家故に井沼と同じニオイを漂わせていたのだ。こいつは危険だ。
「あんたは世間じゃぁ、ゴミ屑同然のマッドサイエンティストみたく言われてるけどよぉ。俺は好きだぜ、あんたのこと。尊敬と畏怖の念を送るぜ。自分の妻を自分の実験で殺し、残った脳内の記憶を全て自分の脳に移植し。自分を殺そうとした娘を殺しその娘の脳をまさか、人工知能の基幹にするなんて発想と実行する行動力ぅっ! ぞくぞくするぜ」
こいつはストレングスに乱暴なことをする。それは許されない。我が娘に対しそれだけは行ってはいけない。
自分が言えた義理か――違う。自分だからいえるのだ。
「You can't make an…omelet without cracking eggs(何かを成し遂げるには犠牲が必要だ)」
不慣れな英語を言い終わるとストレングスの体に赤い血管が走る。
彼女を縛る拘束器具がパージされ、肌色の肩から指先までが一瞬にして黒く変色する。
電子回路が黒くなった腕に浮かびあがると彼女は五十嵐につま先を合わせた。
不定形の恐怖が五十嵐を襲ったのは、間違いはない。なにせ、彼の知らない力なのだ。
知らないはずなのに引き金に手を掛けられた銃の発射口を覗く気分になるのはストレングスの表のスペックを熟知しているからだ。人一人殺せることなど造作ない。
「No, father, I don't want realism. I want magic!(いいえ、お父さん 私に現実は必要ないの。必要なのは魔法よ!)」
ストレングスの返答を聞くと僕は最後の力を振り絞った。
「ストレングス! 逃げろ。そして、9thを守れぇっ!」
僕の叫びに頷いて答える。彼女は僕の子供だ。しっかりしてくれる。
・・・後は、きっと――友達を作って、笑ってくれる―――――だろ。あぁ、待ってくれ二人とも。とっておきのお話があるんだ。長い話になるんだがやっとなんだ。やっと話せる・・・・・・。そこの扉の向こうで話をしよう。
――僕は扉を開いた。
それが、僕。八重乃悠理の最後だった。




