第六十三話 鴉の羽
「よし、そろそろ行くか」
「お、出発するの?」
とある宿屋の一室でロストは荷物を道具袋にまとめ席を立つ。
「いつまでもここにいられないからな。それに敵がすぐ近くにいると思うと・・・」
そう言ってロストは自分の武器であるアインとツヴァイの引き金に指を掛ける、掛けてしまう。
「歯止めが利かなくて、抑えるのが大変でしょうがないんだよ、クロエ」
「ロスト・・・」
「そのための筋書きだって用意してあるさ・・・」
ロストは引き金に掛かった指を必死に引き金から遠ざけ利き腕ではない左腕から銃を下げ、偽りの右腕を必死に押さえつける。
「あと、あと少しなんだ・・・」
その間もロストは獰猛に笑いつつ暫く立ち尽くしていた。
「おっちゃん!そこの串焼き一つくれ!」
「あいよ!銅貨3枚ね!」
「ほい」
「ありがとね!」
一人の青年が串焼きを食べながら街をのんびり歩いていると青年に声がかけられる。
「トール、あなたまた食べてるの?」
「おお、アルテミスか。いや、腹が減ったからな。何か適当に食べれるものを探してたのさ。それよりどうした?俺を呼んだってことは、やるのか?」
「ええ。準備出来たようよ」
「了解した」
トールは串焼きを一気に頬張り飲み込む。
「ま、本命の奴はまだ到着しないみたいだし実験みたいなものだけどな」
そう呟いたトールは人込みの中に紛れて消えた。
「十二魔騎士、全員いるわね」
「ああ、全員揃ってる」
セレナ・アーサーは集まっている各家の次期当主を見回す。それと共にルーク・ランスロットも腕を組み見回す。
「今日この国に例の組織が攻め込んで来てるわ。先日例の組織の人員に斥候が殺されたのだけど正門の門番達が膨大な魔力を持った八人の入国を報告してきています」
「魔力を隠すこともなく入国するとは、度胸があるやつらだな」
ガウェイン家次期当主であるレオが意外そうに眉を上げる。
「違うぞ、レオ」
「ルーク?」
「奴らは魔力を隠さず正面からでも倒せるということを誇示しているんだ」
「それはまた、随分と自信家な発言だね」
「ああ。だから奴らが何か起こせばすぐに動くぞ。他の兵たちにはあまり動かさず極力監視に努めてもらうぞ。街の兵程度じゃ太刀打ち出来ない」
「それでいいだろう」
「全員、いつでも戦闘が出来るように準備はしておいてね」
セレナはそう言い残し会議室を去る。
遠い異国にある砦、その奥にある最深部の礼拝堂。そこに膝を折り祈りを捧げるナナの姿があった。
「我等が鴉に祝福を・・・我らが偉大なる神、ヤタ様」
最後まで読んでくださってありがとうございます。
今回の話は短めで今の状況を簡潔に表した話って感じがしますね。また、そろそろ鴉と言われている組織の正体が少し分かった方もいるかもしれませんね。次回で鴉の組織がどういう物か、実態を書けそうです。