闇狩り
銀色に煌めいた刀身を構えた男が、こちらに向かって突進してくる。
その迫力と勢いに圧倒されることなく、冷静に体を捻りつつ高ぶる気持ちはそのままに、手にしていた血塗れの剣を掬うように振り上げる。
その次の瞬間、突進してきた男の、剣を握っていたはずの腕が切り落とされていた。
生温かい返り血が顔に跳ねるのを感じながら、さらに大きく剣を振りかぶる。
腕を切り落とされた男がそのまま膝をついた刹那、男の首をめがけ渾身の力を込めて薙ぎ払う。
骨をも両断された男の首は、あっけなく地面に転がった。
そしてそれを追うように膝をついていた胴体も、自ら流した血でぬかるむ大地に倒れ込む。
転がった首は黒髪だった。
存分にその首を足蹴にして、高らかに笑ってやる。
一兵士として、戦にやってきたことは正解だったと心底思う瞬間だ。
兵士として戦に出るようになって、早9年。
もともと腕の立つその男は、常に最前線で戦うことを自ら望んだ。
無論その理由など決まっている。
当たり前に人殺しが出来るからだ。
殺すか殺されるかの戦場では、面倒くさい建前など必要ないところがいい。
ただ人を壊してやりたくて堪らなかった男には、戦という場がちょうど良かっただけ。
やがて男についた異名が【闇狩り】。
とくに黒髪の者を好んで殺していたことがその由来だ。
黒髪相手の息の根を止めるたびに、【闇狩り】に宿る狂気は増していった。
その勢いは衰えることなく、やがて【闇狩り】の名と強さがその方面に知れ渡ると、ある所から声がかかった。
それはとある私兵団に入らないか、というもの。
どうやら【闇狩り】の戦闘能力の高さを買ったようだった。
【闇狩り】の人間性がさほど問われなかったのは、あくまでも下っ端の穴埋め要員だったからだろう。
ずいぶんとみくびられたものだと、かすかに笑った。
けれどその一方で、すでに千人単位で人を殺しまくっていた【闇狩り】は、たまには別の空気を吸うのもいい刺激になるかもしれないと思った。
相変わらず【闇狩り】の中に渦巻く狂気はあったものの、一時期よりは落ち着いてきていたことも強い。
本当にただの気まぐれで、【闇狩り】はその誘いを受けることにしたのだった。
それから3年後、見事に私兵団団長まで登り詰めた【闇狩り】に、主である宰相から直接任務を任されることになる。
それは側室候補の娘一人を、安全に王城まで召し上げることだった。