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いのちの灯は線香花火  作者: 柊ノキ
最悪の出会い
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4/6

(1)

 日々、文明が発達していく人間社会と決別し、独自の生活圏を保っている箱庭。

 それが幻想郷。

 澄んだ風と水は豊かな緑を育み、多くの自然が、昔のままに残っている。

 それは、自然に対しての畏れと敬いが、幻想郷に住まう人々の心に受け継がれてきたからだ。

 万物には神が宿るという考えかた。

 あるいは、山や森は精霊の住みかだという考えかた。

 科学の発展と共に失われた自然信仰が、幻想郷においては、連綿と受け継がれているのだ。

「霊夢さん。教えてくださいよ」

「もう。しつっこいわね」

 阿求は、霊夢の背中を追い回していた。

 朝から、ずっとこんな調子である。

「だいたい、頼んでおいた薪割りはどうしたのよ?」

「終わりました」

「じゃあ、洗濯」

「終わりました」

「くっ……」

 予想外であった。

 阿求は、常人離れした記憶力を持っているので、一度教わったことは忘れない。

 あとは肉体労働に勤しんで、コツを体に染み込ませれば良いのだ。

 指導係からすれば、阿求は実に優秀な生徒であった。

 だが、今日に限って言えば、仕事で手一杯になっていてほしかった。

 暇さえあれば霊夢のところにやって来て、取材を試みようとするのだ。これじゃ、作家では無く新聞記者だ。

 他人に、胸の内を詮索されるのを激しく嫌う霊夢は、しつこくつけ回されるのが苦手なのだ。

 加えて、

(真相を話すわけにはいかないし……)

 という事情もあって、霊夢は貝のごとく口を閉ざしているのである。

 先ごろ、ちょっとした事件があった。

 いろんな種族が混在し、いろんな力を行使できる者たちが跋扈している幻想郷では、珍事が起きやすい。

 その中でも、特に大きな事件は、異変と称して歴史にその名が刻まれる。

 阿求は、それらの事件も幻想郷縁起に記載せねばならないのだ。

「霊夢さん、知っているんでしょう? あの日、夜が明けなかった理由を」

 博麗の巫女は、幻想郷の秩序維持が仕事である。異変が起こったならば、即座に出役して解決に当たる。

 となれば必然的に、異変と深くかかわることになる。

 だから阿求は、事件の詳細を聴取しようと、記者のごとく霊夢に張り付いているのだ。

「さぁね。どうかしらね」

 霊夢ははぐらかした。

「いつまでも夜が終わらないなんて、まるで春雪異変の再現じゃないですか。やはり、あの異変と同様に、首謀者である永遠亭の人たちが、なにかの力を使って夜が明けないようにしていたのでしょうね」

 より正確な情報を得たい阿求は、めげずに食い下がった。

「どうかしらね。輝夜と弾幕勝負で勝った後、夜が明けたのはたしかだけど」

 ということは、幻想郷縁起に記すことができるのは、夜が永く続いたということと、霊夢が輝夜に弾幕勝負で勝ったことにより、異変が解決したということだけだ。

 しかし匂う。

 霊夢は意図的に、表面的な情報だけを阿求に伝え、ぼんやりした受け答えに終始することで、核心部分を隠しているような気がしてならない。

「なにか、真相を語れない訳でもあるのですか?」

「なんでそう思うのよ」

 霊夢は、表情を変えない。阿求を見つめるその瞳は、ぞっとするほど澄んでいる。

 質問を重ね、その心中を図ろうとしているのは阿求なのに、こちらが心の中を見透かされているような気分になる。

「なんとなく、ですけど……」

 こればかりは、感性と言う他に無い。

 夜が明けなかったあの日、阿求は、わずかな違和感を覚えた。

 それはもしかしたら、夜が明けなかったというだけでは無く、もっと大きななにかを感じとっていたのかもしれない。

 だが、阿求はどこまでいってもただの人間。

 その違和感がなんであるのか、想像を広げていくことができない。

 そこで霊夢に取材をしているわけだが。

「なんとく、じゃ、根拠が弱いわね」

 かる~く、あしらわれてしまう。

 役者が違っていた。こういうところに、博麗の巫女たる霊夢と、記憶力が良いだけの一般人の差が出てしまう。

 こうして霊夢に口をつぐまれたのでは、阿求の地頭だけで、真相究明をするのは困難だ。

「ていうか、阿求。永遠亭には取材に行ったの?」

 異変の首謀者なのだから、あちらに取材を申し込んだほうが、より詳細な事実を知ることができるはずだ。霊夢を追い回すよりは効率的である。

「それは、おっしゃるとおりなんですが、永遠亭に行くのは難儀でして」

 永遠亭は、里の外れ、迷いの竹林(ちくりん)と呼ばれる竹林(たけばやし)の奥に建っている。

 その呼び名のとおり、道に迷いやすいので、里の人間は近寄らないようにしている。

「あれ、永遠亭の連中が、竹林に細工をしてたらしいわよ」

 なぜかはわからないが、人の目に触れたく無かった永遠亭の人たちが、竹林に呪いを施して、ずっと姿を隠していたらしい。

 だが、先の異変解決を区切りとし、呪いを解くことにしたそうだ。

「ですが、そもそもあの竹林は迷いやすいですし、狼もいますし、妖怪と出くわすかもしれません」

 だから、阿求が永遠亭におもむくのは危険が大きいのだ。

「霊夢さん。もしよろしければ……」

「嫌よ」

「まだなにも言っていないじゃないですか」

「どうせ、永遠亭までの護衛を頼むとか、そういうことでしょ」

 霊夢は鋭かった。

 まさに、阿求がお願いしようとしたのは、そういうことなのである。

「私は、あんたのお守り役じゃないのよ」

 定期的に博麗神社に寝泊まりさせているのは、酒とご馳走を振る舞われた恩を返すため。

 それ以上、阿求のめんどうを見るのは対等性に欠ける。

 正論であった。

 合理主義者と言うこともできるが、情のうすい冷めた人間である。

「じゃ、そういうことだから」

 霊夢は、自室に戻って行った。

 こうまで突き放されては、もはや霊夢を追いかける気力が沸いてこなかった。

「永遠亭、ですか」

 博麗神社の境内からは、人間の里を一望することができる。

 しかし、永遠亭のある迷いの竹林の付近は、ぼんやりと霧がかかっていて、全貌を見ることはできない。

 阿求は、竹林の方角を見やった。


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