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いのちの灯は線香花火  作者: 柊ノキ
まずは最初の一歩から
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3/6

(3)

「ごめんください!」

 阿求は、背中に風呂敷包みを背負っていた。

「いやー。やっぱり、娑婆(しゃば)の空気はおいしいですねぇ」

 などと、的外れなことを言うほどに、気分が高揚している様子。

「とりあえず、上がんなさい」

「はい!」

 霊夢は、客間と称しているものの、ほとんど使用されていない部屋に、阿求を案内した。

「稗田家の屋敷に比べたら手狭でしょうけど、数日の間、寝泊まりするだけなら困らないでしょ」

「ありがとうございます」

 荷物を座敷に置いた阿求は、目を輝かせながら部屋を見渡した。

(なにがそんなにめずらしいんだか)

 部屋の中にあるのは、布団がしまってある押入れ、机、衣桁くらい。めずらしいものなんて、ひとつも置いてやしないのに。

「さて阿求。さっそく仕事よ」

「なんでしょうか!?」

 ぎゅっと両手を握り、気合の入りようを表現する阿求。

「まず、押入れの布団を日干してもらうわ。晴れてるうちにやっておかないと、今日はかび臭い布団で寝ることになるわよ」

「うぇっ? かび臭いんですか……」

「あんまり使って無いからね。時間があるときに干しているから、そこまでひどくは無いけれど、稗田家の布団に慣れてる阿求には、キツいと思うわよ」

「す、すぐにやりますっ!」

「あっ。ちょっと待って……」

 霊夢の静止を聞かず、勢い良く押入れの襖を開けると埃が舞ってしまった。

 けほけほとむせる阿求に、

(これは、前途多難ね)

 霊夢は、ひそかにため息をついたのだった。





                       ※





「じゃあ、次は薪割りをお願いするわね」

「おぉ。下働きの定番」

 下働き、という否定的な言葉とはあべこべに、阿求の瞳は輝いていた。

(意味がわからないわ)

 霊夢は、阿求の価値観が理解できなかった。

 人里から離れた、不便な丘の上の神社で独り暮らしをしている霊夢である。 

 屋敷の者たちが、身の回りのことをすべて世話してくれる生活など、極楽としか思えない。

(でもまぁ、他人からしたら、その人の悩みなんて、理解できないのが普通なのかもしれないわね)

 阿求がなにを思い悩み、どうしたら解決をすることができるのか。それを見つけなければならないのは、他ならない阿求なのだろう。

「霊夢さん。斧がありませんよ?」

「斧? 斧なんて使わないわよ」

「しかし、巻き割りと言えば、こう、斧を大きく振りかぶって、ぱかーんと薪を割るものだと聞き及んでいますが」

 さすがは稗田家のお嬢様。庶民とは感覚が離れているせいで、知識に偏りがある。

 まずは、その偏った知識を整えなければならない。

「そんな危なっかしい真似はしないわよ。第一、斧なんか振り回したら疲れるでしょ。これを使うの」

「鉈、ですか?」

 巻き割り台に突き立っている鉈は、阿求でも簡単に持ち上げられるほど軽かった。

「そう。まずは、薪を台に置くでしょ。そしたら、鉈を押し当てて、木槌で叩く。鉈が薪に食い込んだら、こうして……」

 霊夢が、鉈が食い込んだ薪を、台にとんとんと軽く叩きつけていくと、薪がきれいに二つに割れた。

「どう? 簡単でしょ? これを、薪が使いやすい大きさになるまで繰り返すの」

「なんだか、地味ですねぇ……」

「家事に派手さなんて求めてどうすんのよ。さぁ、燃料はいくらあっても足りないんだから、どんどん量産してちょうだい」

「は、はい」

 阿求は、見よう見真似で、薪割に着手した。しかし。

()っそ……)

 阿求は、慎重に慎重を期して鉈を扱おうとしていた。そのため、一本の薪を割るのですら、非常に苦労していた。

 そして、ようやくに薪が二つに割れると、額の汗を拭ってひと休み。そして、割れた薪を手に取って、次の作業に移る。

 この調子では、手際よく作業できるようになるまで、どれほどの時間を要することか。

(でも、これが初めての雑事なのよね)

 そう考えれば、上出来なのかもしれない。

 なんせ阿求は、雑事どころか、刃物を扱うのも初めてなのだから。

 それを監督する霊夢には、大空のごとき寛容さが求められるだろう。

「それじゃ、ゆっくりでいいからね。あんたに怪我なんかされた日には、稗田家の連中から、なにを言われるかわからないから」

 釘を刺して、薪割場に阿求を残した。

 本音を言えば、ずっと見守ってやりたいが、それは阿求のためにならない。

 阿求が求めているのは、自立だ。

 霊夢の見るところでは、阿求は、自分の力だけで、なにかをやり遂げたいと欲しているように思える。

 そのための第一歩として、稗田家の屋敷を出ようとしたのだ。

 ただし、これも霊夢の見るところでは、時期尚早。

 いきなり屋敷を出るなんて言い出したら、使用人総出で反対されるのはわかりきっていた。

 だから、あくまでも阿求の生活拠点は稗田家のままにすることにした。

(阿求の要求を丸飲みするのが癪だったっていうのもあるけどね)

 でも、結果としては、ちょうど良い着地点だったように思う。

 たまには違った環境で執筆作業をしたいという口実のもと、定期的に博麗神社に寝泊まりする。

 そこで簡単な家事を手伝ってもらって、まずは生活力の基礎を身に着ければいい。

 おそらく、霊夢の仕事はそこまでだ。

 阿求が、心の底から欲求を満たすことのできる場所は、他に用意される。

 はきとは確証が持てないが、巫女の勘がそう告げている。

 これは、阿求が阿求として、なにごとかを達成するための、序章なのだと。



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