決闘は第三皇女と共に……
「どうして、水着を着ているのかって?
そんなの、当たり前じゃない!
……そこに、プールがあるからよ!」
プールサイドで立ち上がった全身濡れねずみのディートが、両手を腰に当てながら堂々と言い放つ。
そんなポーズしてるもんだから、先ほど他人のことを散々スケベ呼ばわりする原因となったへそピアスが嫌でも目立つというか、見せつけられるような形になるわけだが、こいつの羞恥心はどうなっているのだろうか?
「イラコが面倒くさそうな会議に出ている間、ホテルへ軟禁中のシレーネがどうしているか、数日ぶりに様子を見てみようという話になった。
そして、来てみたらすごいプライベートプールがあった。
だから、皆で遊ぶことにした。
ちなみに、この水着はレンタルであり、すなわち借り物。
先日予定に入れた水着の購入イベントはいまだ有効なので、バカなイラコも忘れないように注意してほしい」
「その時には、お約束通り私もお供します!
ええ! しますとも!」
浮き輪でプカプカ浮かびながらエステが告げた言葉に、マミヤちゃんがグッと拳を握りながら補足する。
それに対し、露骨な舌打ちしながら顔を背けるエステだ。同じワンピース型の水着を選んでいる者同士、センスは合うと思うんだがなあ。
余談だが、主が水着姿のため、今日は抱っこされてないテディベアがどこにいるのかというと、麦わら帽子を被らされた状態でビーチチェアに座っていた。
そんな彼(?)と共に俺たちを見守るのが、数人の女性SP。
漆黒のスーツは、ジャケットのボタンを留めてあるスタイル。
これはすなわち、サングラスを装着した彼女たちが、拳銃を所持していないということであった。
護衛対象兼監視対象のシレーネさんは、生ける取引材料。
それを万が一にも害することがないように、あらかじめ非武装で張り付いているのであろう。
もちろん、ペントハウス入口を守ってる方のSPたちは、ジャケットの前を開けていた。
彼女らSPの存在で分かる通り、このペントハウスは、シレーネ・ヨーギルというにわかに手に入った手札を幽閉するため、皇室名義で借り受けているものである。
まあ、幽閉といっても……。
「……本当に、驚くほど豪華なペントハウスだ。
まさか、敵国に捕まった身で、このような歓待じみた待遇になるとはな」
水中から、プールサイドへ背中を預ける格好になったシレーネさんが、嘆息混じりにつぶやく。
まあ、これに関しては、親父殿や外務卿の思惑が大きいのだろう。
俺と婚約させて婚姻外交で迫りたいから、このような好待遇で迎えているのだ。
で、なければ、いくら皇室の懐に余裕があるといっても、こんなバカ高いペントハウスを借りたりはしない。
が、そんな裏事情をシレーネさんに教えるわけにはいかないし、その必要もなくなる予定だ。
「滞在中、くつろいで頂けたら何よりですよ。
このようなことを言ってはなんですが、御身はジンバニアへの返還を控えている状態なのですから」
こんな感じで、軽く肩をすくめつつ、大事なことを伏せた世間話に移行する。
「とはいえ、このペントハウスにずっと閉じこめられていては退屈でしょう?
そこで、娯楽というわけではありませんが、私とそこのディートによるチームと、第二皇子ペーターが友人とタッグを組んだチームとの模擬戦を観戦してはみませんか?
通常の帝国臣民は中継でしか見られませんが、シレーネ殿下には、間近な特等席を用意しますよ」
「タッグ戦って、どういうこと?
模擬戦をするのだったら、あんたとペーター兄様が一騎打ちでやればいいじゃない?」
すかさず給仕するマミヤちゃんからトロピカルドリンクを受け取りつつ、唇を尖らせるディートだ。
これに関しては……というより、これに関しても、俺ではなくペーター兄さんの提案である。
兄さんいわく……。
「……少しばかり、お転婆な妹の頭を押さえつけてやりたいんだとさ。
座乗艦の艦長に専念するのと、M2のパイロットとして出撃するのとでは、当然死亡率がケタ違いだからな。
つまり、タッグ戦の形式を取ることで、俺に勝って名を上げるついでに、お前へお灸を据えておきたいんだろう」
もちろん、兄さんが第一に目的としているのは、俺に勝って名を上げること以上に、俺と敵王女の婚姻外交を阻止することな。
兄さんの判断は、通常ならば正しい。
難点があるとすれば、だ。
「え? でも、兄様ザコじゃない?
アタシとあんたで相手する形だと、片方が何もしてなかったとしても完封勝ちしちゃうわよ?」
そうなのである。
ペーター兄さんはちょっとはやるが……本当に、ちょっと。
俺が乗ったタイゴンは当然として、ディートが操るベレンジャーもまた、兄さんとその友人――テセスのコンビを一機だけで瞬殺可能なのであった。
「……兄上、自分があんまり強くないっていう自覚、ないからな」
「下手の横好きなんだし、パイロットなんかやめとけばいいのに……」
ディートと共に腕組みし、うーんと唸る。
「第二皇子殿下は天才パイロットとして名高いのですが、プロパガンダだったということですか?」
「ペーター兄はまごうことなく天才。
そこにいる二人が色々と頭おかしいだけ」
「そうだろうとも。
でないと、そのペーター殿下とほぼ互角の腕と思えるあたしまで、どうしようもないザコということになってしまう。
イラコ殿下と、おそらくディート殿下もおかしいのだ」
マミヤちゃんとエステの会話に、うんうんとうなずいて胸をダイナミッ! ……させるシレーネさん。
そうかな……? そうかも……?
だとしても、ちょっとしたかすり傷がリアクターなどの致命的な内部機構に引火して機体が大爆発という死に様とか普通にあり得るし、調子こくつもりはないけどな。
「というか、どうしてイラコ殿下とディート殿下の腕前が知られていないのだ?
それほど力の差があると知られているなら、普通、挑んでこようとは思わないはずだが?」
「アタシが興味あるのは、イラコをボッコボコにすることだけよ!
余人より強いとか弱いとかは、あんまり興味ないわ!」
どうしてだろう?
妙にへそを突き出すというか、強調するような姿勢でうそぶくディートだ。
顔ちょっと赤くなってるし、そのへそピアスを見られるのがそんなに嫌なら、バスタオルでも巻いとけばいいと思うぞ?
さておき。
「俺の方も、M2の操縦は余技として習っただけだからなあ。
タイゴンに思い入れはあるけど、それで目立ちたいとか、そういう感情はない。
……と、いうわけでだ」
「な、何よ……」
ちょっと後ずさりして、おへそを手で……隠そうとしつつ、結局隠さないディートである。
お前、さっきからめっちゃへそを気にしてるな? そのへそピアス、綺麗だとは思うけどさ。
「ここは一つ、俺たちでペーター兄上に花を持たせないか?
ペーター兄上は皇子皇女の中じゃ人格者だし、面子を潰して恨まれたくはない」
ついでに言うと、ここにいる面子には秘密だけど、シレーネさんとの婚約展開を避けるために。
言うなればこれは、婚約させられる前に破棄展開……!
「そうね。
ペーター兄様の顔を立てるためなら、別に構わないわよ」
俺の言葉に、真顔であっさりうなずくディートであった。
まあ、こういう時に人徳というものが活きてくるよな。
これが、ベルトルトやヴォルフ相手だったなら、なかなかうんとは言えないところだ。
「よし! じゃあ、話は決まりで!
せっかくだし、皆で屋上バーベキューでもやるか?
支配人に言えば、用立ててくれるだろ」
「賛成。
マシュマロも焼きたい」
「それなら、イラコ殿下も水着を借りましょう!
私、お見繕いします!」
パン! と手を叩きながら言い放った俺の言葉に、エステとマミヤちゃんが賛成の意を示す。
「あたしも混ざっていいのだろうか……?
一応、捕虜……いや、今更か」
一方、色々とダイナミックに揺らしながら、プールから上がってくるシレーネさんだ。
くっ……秘孔を突いて麻痺させたはずの機能が、ぞわぞわしてくるのを感じる……!
ともかく、これで方針は定まった。
もっとも、他の奴にやられるところを見るのは癪に障るので、開幕と同時に同士討ちして撃墜するつもりでいる俺の腹に、ディートはまったく気づいていないだろうがな。
クックック……!




